表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/153

<92>悪役令嬢の新しいお友達は魅力的なようです

 街の中にある騎士団の詰め所の位置は、昨日シャーロットとリュートが訪れた両替所とは全くの正反対の街の東側に書いてあった。

 ざっくりと書いてもらった地図を見ては、路地と階段の入り組んだ街にてこずりながら、エリックとリュートが二人で道案内をしてくれる。この国で育ったブルーノに聞けば早いのに変なの、とシャーロットは思った。

「もしかしてあの二人、仲が良いんじゃないのかしら。」

 シャーロットが呟くと、ジーナが笑った。どちらも白いズボンを履いていて、紺色のシャツを着て袖を捲ったエリックと、青色の半袖シャツを着たリュートはどちらもややこしい性格をしているとシャーロットは思った。見た目は爽やかなのにね、と心の中でくすりと笑う。

「シャーロット嬢とブルーノ様は馴染みがないけれど、私達はみんな、基本学校で顔見知りなんですよ?」

「あら、そうなの?」

「エリック様とリュート様は、私達の学年の下だったけど、お二人ともお家柄も良くて顔もいいから有名人で、女子の人気の的だったのよ?」

 エリックが~? シャーロットは思いっきり意外そうな顔をした。

「ホントですって、ねえ、ジョージ?」

「ああ、基本学校はいろんなところからいろんな奴が集まってくるから、週3日しか通わないし毎日全生徒は集まらないけど、だからこそ、目立つ奴は目立つんだよね。僕みたいな地味な生徒は地味なままでいられたんだ。」

「俺もあそこで肩の力の抜き方を学んだおかげで、今の騎士コースをのらりくらりとこなせてるもんな。」

 リチャードの言葉にジョージが笑った。

「しかもエリック様は飛び級だろ? 賢い上に公爵家のお坊ちゃんだからな。いまだに一目置かれてるよな。」

 シャーロットは弟の意外な高評価に目をぱちくりさせて驚いていた。

「シャーロット嬢はいなかったよね?」

「ええ、私は通っていないの。」

 シャーロットは猫を被って微笑んだ。理由を聞かれない限り、自分からは話さないつもりだった。ブルーノを見上げて、提案する。

「ねえ、そろそろ、ブルーノ、助けてあげたら? みんな暑さに負けちゃうわよ?」

「そうだね、そろそろ、いいか。」

 先頭を歩くエリックとリュートの傍にブルーノが追い付いて、指を差しながら何かを言っている。その様子を見ながらジーナがシャーロットに尋ねた。

「ねえ、シャーロット嬢、どっちを選ぶの?」

「はい? 何をですか?」

「どっちもいい感じだよね?」

 ジョージとリチャードも興味津々といった顔つきをしている。

「どっちも、お友達ですよ?」

 シャーロットが微笑むと、ジーナは意外そうな顔をした。歩き出したエリック達を追いかけて、シャーロット達も路地を進む。

 少し開けた通りに出て、エリック達が安心したように振り返って手を振った。ようやく目的地に着いたようだった。エリックとリュートがブルーノと屋敷の前に案内所を見つけ、何かを言ってお金を払っている。隣の建物は騎士団の詰め所なようで、騎士の出入りが見えた。

「中に入れそうだよ。みんな、お金はこっちね。今まとめて立て替えたから。」

 リュートが言うと、全員荷物の中からお財布を出してリュートにお金を払った。シャーロットも背負っていたピンクのクマリュックの中からお財布を出して支払った。

「そのリュック、マリライクスのだよね? 私も欲しかったけど、手に入らなかったの。さすが公爵家のお嬢様は違うわね。」

 ジーナが羨ましそうに言った。ミカエルにミルクティー色のクマリュックを貰ったなんて、うっかり言えないなとシャーロットは思った。

「お父さまに、クリスマスにおねだりしたの。この前の期末テスト、頑張ったご褒美に。」

 シャーロットが言い訳しながら微笑むと、ジーナは感心したように言った。

「シャーロット嬢は2位だったのよね? 1年生の統治のクラスは2位が4人もいるって私達のクラスで話題になってたわ。エリック様とブルーノ様とリュート様も2位よね…。この旅行はのんびり旅行だと思ってたけど、もしかして大変な勉強旅行だったりするのかな。」

「安心しろ、ジーナ。僕達がいるから。絶対そんな雰囲気にはしない。」

「俺もジョージも70番台だった。安心してくれ。」

「そんな自慢いらないよ!」

 ジーナが言うと、ジョージとリチャードが大笑いしている。仲良いのね、と思いながらシャーロットもくすくす笑った。

「ヴァレントは、頭いいの?」

 ジーナが単刀直入に聞いた。怖いもの知らずだなーとシャーロットは思った。このノリは知ってる誰かに似ている気がした。

「僕は普通だよ。この前は22位だった。」

「普通より賢いくらい? 私は30番だったわ。似たようなものね。」

 ブルーノが財布を全員しまい終えたのを確認すると、話し始めた。

「さて、中に入るけど、ここは階段だらけで結構危ないんだ。足元には気を付けてほしい。声が響くから叫んだらダメだよ? 先頭は誰が行く? 誰もいないなら僕が先頭を歩くけど?」

「俺が先頭を歩きたい。」

 エリックが手を上げる。「危ない場所じゃないか確認したい。」

 遺跡につながる屋敷の中は玄関から入ってすぐは普通の部屋で、奥の部屋に進むと部屋の真ん中に下へ通りていく階段だけが見えた。

「危なくはないよ。ただの古い礼拝所だから。」

 えー、種明かししちゃうのー? シャーロットは心の中で文句を言った。

「じゃあ、並んで歩くには狭いから、一人ずつ並んで入って行こうか。」

 ブルーノが言うと、なんとなく列になった。先頭をエリック、ブルーノ、ジョージ、リチャード、ジーナ、ヴァレント、シャーロット、リュートで階段を降り始めた。


 階段は古い石造りで、壁に蝋燭で明かりが灯されていた。下から風が吹いているのか、時々揺れていて消えそうで怖い。シャーロットはうっかり吹き消さないでおこうと思いながら、前を行くヴァレントの後頭部を見ながら薄暗い階段を下りた。

 階段はもうすでに随分下っていた。底が見えないどこかへ続いているのが不気味に思えてきて、段数を数えておけばよかったわとシャーロットは後悔し始める。きっと、もう3階分くらいは下っていると思う…。

 ちょろちょろと聞こえてくる流水音がする。肌寒く感じ始める。

 地中なのに水の音なの?

 ひんやりとした風が吹いてくる気がしてきた。思わず身を竦めたシャーロットに、リュートが「大丈夫だよ?」と後ろから囁いた。

 ヴァレントが聞こえたのかくすくすと笑った。

「何かあったら僕達がいるから、平気だよ?」

「私がまず盾になるわ!」

 前の方からジーナが言った。

「その前に俺がやっつけるから大丈夫だって、任せとけ。」

 さらに前からリチャードの声もする。

「まずは僕が食べられるから、その間にみんな逃げろ。」

 ジョージが言うと、ジーナがすぐに答えた。

「骨は私が拾うから安心して!」

 いつの間にか、みんなくすくす笑いながら歩いていた。シャーロットも楽しい気分になっていた。

「わあ…、広いなー。」

 先頭を行くエリックの声が聞こえた。階段は終わり、開けた場所が見えてくる。水が張られた中に通路が続いていて、奥の方に礼拝所が見えた。透明度が高い水なのか、泳いでいる黒い小さな魚と、浮かんでいる水草の葉と桃色の花と、底の石畳が見える。天井は思ったよりも高かった。

「ここは鍾乳洞だった場所を利用してできた、大昔の地下の礼拝堂なんだ。昔の人達が工夫して真水が沸いている泉から水を引いていて、向こうの奥には貯水湖もあるんだ。おかげで魚も住めるんだよ。」

 礼拝堂の入り口まで進み洞窟の中をあちこち指差しながらブルーノが説明すると、みんな感心して頷いていた。シャーロットも目を輝かせて、地下に立つ石造りの礼拝堂を見つめていた。

 開けたままのドアから礼拝堂の中が見えた。内壁は白く塗られていて、ステンドグラスの代わりにはいろんな色のタイルが埋め込まれている。床は板張りではなく白いタイルで埋め尽くされている。ベンチが何列も続いているのが見え、結構奥行きがありそうだなとシャーロットは思った。

「はるか昔、この島は嵐に巻き込まれてよく家が倒壊する被害があったんだ。そんな時に避難所を兼ねて地下に礼拝堂を作ったんだよ。この礼拝堂は見かけよりも広くて、礼拝堂の奥にも出口があるんだ。そこから、別の地上の屋敷に出られるんだよ?」

「はいっ! 行ってみたいです!」

 ジーナが手を元気よくあげると、シャーロットも手を挙げた。男子学生達は顔を見合わせると、おずおずと手を挙げた。

「じゃあ、行ってみる?」

 ブルーノがにやりと笑った。


 礼拝堂の中を歩いて通り過ぎ、奥の部屋に入ると備蓄保管庫の役割があった部屋なのか、物資の模型が置かれていた。

「昔は本当に物資を置いていたんだけど、今は模型だね。まあ、こんな感じだったと雰囲気を楽しんでほしい。」

 ブルーノの説明を聞きながら、さらに奥へと進む。

 そこにはもう一つ広い部屋があって、何も置かれてはいなかった。白いタイル張りの床や白い壁の印象は、礼拝堂と同じだった。

「この部屋の向こうは、別の地上への出入り口なんだ。避難場所に使っていた部屋だから、何も置いていないんだよ。」

 ドアを開けると、今度はいきなり階段になった。土を掘った穴倉のような階段に、シャーロットは思わずたじろぐ。

「さ、順番に上がって行こう。足元に気を付けてね。結構上るから。」

 来た時と同じ順番に上っていく。シャーロットはリュートを見上げてちらりと顔を見た。リュートはまっすぐ真顔で見つめて、シャーロットに尋ねた。

「どうした?」

「リュートは最後で怖くない?」

 ふふっとリュートは笑って言った。

「怖くないよ。シャーロットは怖いの?」

 ふるふると首を振って、シャーロットはヴァレントに続いて階段を上り始めた。本当はちょっとだけ、怖かった。この遺跡に入ってから誰にもすれ違うことがなかった。不気味な静けさを感じて、シャーロットは落ち着かなかったのだった。


 階段は途中、何度か十字路につながり、何度か踊り場にも出た。ブルーノは慣れた様子で文字の書かれた矢印を選んで進んでいく。絶対5階分くらい上ってるわ、とシャーロットは思った。シャーロットの頭の中で、自分の今いる位置は街の坂の中腹付近だろうと見当をつける。

 だんだん暖かい空気になっていく。地上が近付いているようだった。

「やっと着いたぞー。」

 エリックの声が光の差す方から聞こえた。無言で階段を上る足が、次第に軽くなっていった。

 シャーロットがヴァレントに続いて外へ出ると、大きな窓のある部屋だった。明るい日差しが部屋の中に満ちていた。

 階段を登り切った部屋の窓の前にある柵に添って、先に出たエリック達が並んでいた。後ろから来たリュートを待って、シャーロットも柵の方へと歩く。

「何かあるのかな。」

 シャーロットがリュートを見上げると、リュートは柵の向こうを指差した。

「あれじゃない?」

 大きな窓の向こうに見えたのは、坂の下で食事を楽しむ人達の姿だった。庭に広がるパラソルの下にテーブルが置かれ、椅子が置かれている席がいくつも見えた。

「この屋敷は街の中にあるんだ。時間もいいし、あそこでお昼を食べていこうか?」

 ブルーノの提案に全員が賛成して部屋を出ると、すぐに外だった。そこは島の中腹にある屋敷で、細い道であちこちとつながっていた。階段が上下に路地につながっていて、ここへ来るのは地元に住んでいないと無理だわとシャーロットは思った。だから、ホテルの従業員は騎士団の詰め所の隣の、まだわかりやすい方を紹介してくれたのね。


 遺跡の隣の下の庭に広がるレストランで、シャーロット達は昼食を取ることにした。オレンジ色の薔薇の生け垣が可愛らしく、店員は涼しげな黄色いシャツにオレンジ色のエプロンをつけていた。二人ずつのテーブルにどう分けて座るかで揉めたので、シャーロットはジーナと座って食べた。揉めたブルーノとエリックは同じテーブルにして、リュートとヴァレント、ジョージとリチャードで別れて座った。

「ねえ、私でほんとにいいの?」

 ジーナが何度か聞いてきたけれど、シャーロットはその度に微笑んで頷いた。

 注文を聞きに来た若い男性の店員にメニュー表を渡されながら、何かを言われた。シャーロットは思い切って、店員を見つめて言った。話せば通じると、期待して。

「おすすめをお願い。デザートと、カフェオレも欲しいの。」

 意味が通じたのか、店員は頷いた。

「今日のおすすめのランチセットにしますね?」

「はい、それをください。」

 シャーロットのやり取りを見ていたジーナも、「同じので」と言った。店員は頷いて了承する。

 隣のテーブルにいたリュート達も同じものを頼んでいた。リチャードやジョージも同じにした様子だった。

「今日のおすすめって、何なのかしらね?」

 ジーナが楽しそうに言った。おすすめって便利な言葉だとシャーロットはしみじみ思って微笑んだ。

 やがて店員が持ってきたのは海産物を使ったパスタ料理で、味付けも白ワインの風味が効いていてあっさりとしていて美味しかった。でも、シャーロットにはさりげなく入れられていたタコは美味しいと思えなかった。少し茹で過ぎて硬いと思った。

「タコだよね、これ。初めて食べたわ。」

 ジーナが感激したようにはしゃいで言った。シャーロットは領地で何度か食べたことがあった。

 近くに座っていたヴァレントが「いいタコだ、」と言ったので、タコに良いも悪いもあるのかしらねとシャーロットは思った。料理人次第じゃないのかしらと、料理が出来ないシャーロットは勝手なことを思う。

 デザートはジェラートで、追加料金を出してチョコをかけて貰ったジーナが喜んでいた。ジーナは表情がくるくる変わって可愛いなとシャーロットは思った。ここにいないミチルなミカエルを思い出して、シャーロットは気が沈んだ。


 一緒にホテルまで帰ってきた一行は、ホテルの入り口で解散になった。

「楽しかったね。」

 ジーナがシャーロットの手を握って言った。

「シャーロット嬢って、思ってたより普通なのね。」

「え。ナニソレ?」

 シャーロットが微笑むと、ジョージとリチャードも笑った。

「タコ、あんまり美味しくなかったんでしょ?」

 ジーナがニヤニヤ笑う。

「私とおんなじだわって思ったの。だから、普通。」

「そうだな、俺達の国で滅多にタコは食べないからな。」

「わかるわかる。ここでの思い出の味でいい。」

「ふふ、そうかもね?」

 シャーロットは猫を被り損ねたなと思った。

「タコが口に合わなくてデザートが進まないシャーロット嬢って、可愛いなって思ったわ。」

 ジーナが微笑みながら言った。あれ? バレた理由はそっちなの? シャーロットはびっくりして目をぱちくりとした。ミカエルのことを考えていただけなんだけどな…。

「一緒に街探検に行ってくれたし、地下への階段を怖がってたりしたし、シャーロット嬢って、可愛い。」

 シャーロットはジーナの方が可愛いのに、と思った。ジーナの明るい性格にシャーロットは助けられていた。この旅行にジーナがいてくれて良かったと思った。


 部屋に戻ったシャーロットは、母への土産を買いに店を探しに行くつもりで、一緒に出かけていた者達が落ち着く頃合いを待っていた。宝石を買いに行くのだと知られたくなかった。

 待つうちにソファアでうとうとと眠り始めたシャーロットの頬を、誰かが撫でた。

 気のせいかなと思って顔を振ると、おでこを撫でられて、口に何かが触れた。柔らかい感触に目を開けると、ブルーノと目が合った。美しい人は、妖しい笑みを浮かべてシャーロットを見つめていた。

 慌ててブルーノの顔を手で押しのけ、シャーロットはソファアから立ち上がろうとした。ブルーノにソファアに押し戻されてしまい、ソファアに深く腰掛けブルーノを見上げた。

「ナニしてるの、ブルーノ、」

「ん? 夕食に誘いに来たらシャーロットが寝てた。」

「部屋に勝手に入ったの?」

「ああ、開いてたし、不用心だから閉めてあげようと思って。」

 だからって入っていいって理屈は変だわ。シャーロットは眉を顰めた。

「夕食、僕のうちで食べよう?」

「私だけ?」

「そう、シャーロットだけ。」

「そういうのは行かない。研修旅行なんだから、みんなと一緒にいるわ。」

 ブルーノはシャーロットの瞳をじっと見た。

「本当に研修旅行だと思ってるの? シャーロット。」

「そうじゃないなら、来ないわよ?」

 研修旅行じゃないならなんだと言うのだろう。

「とにかく、今晩は下のレストランで食べるわ。一人でも、ね。」

「じゃあ、僕がシャ-ロットとここで食べるよ。」

 ブルーノは微笑んで言った。

「お酒が入らないなら、いいだろう?」

 そういう問題じゃないんだけどなー。シャーロットは心の中で呟いた。

ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ