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<45> リュートルートのチームメイトとして国王に謁見するようです?

 昼休みの終わりを告げるチャイムの音に、とぼとぼとシャーロットは教室へと歩き始めた。

「シャーロット、」

 屋上からの階段から降りてきたリュート達に気が付けば囲まれていた。騎士コースの学生達は相変わらず肉の壁感が凄い。

「どうしたんだい、元気ないね。まだ調子悪いの?」

 トニーがシャーロットの隣に並んで歩きながら顔色を伺ってきた。

「何でもないの、」

 そう微笑んで、シャーロットは、ミカエルの話を思い出していた。演武会がきっかけで寝込んだと思われているんだとしたら、まずいわ…。

「体調悪くないわよ?」

 心配そうな様子のリュートや、他の学生達も見渡して、シャーロットは歩きながら答える。

「そう、ならよかった。」

「屋上に来れないのは、まだ体が調子よくないからかと心配してたんだ。」

 えっと…、どこから突っ込んだらいいのかな。猫を被りながらシャーロットは思った。屋上へ行く約束はしてないし、体の調子に関係なく屋上へ行く理由がない。

「心配してくださってありがとう、大丈夫ですよ?」

 シャーロットが微笑むと、リュートが言った。

「まだ体調良くないだろ? シャーロット。過労で倒れたって聞いた。過労なんて大変だったんだね。ああ、そうだな、学食の方が屋内だし安心だ。」

「学食かあ、久しぶりだな。」

 チーム・屋上の面々はいつも屋上にいるからチーム・屋上なのに、学食利用するのかな、とシャーロットはどうでもいいことを思った。

「屋上に来れないなら、私達が学食に行こうか、シャーロット。」

「はい?」

 何でそうなるの? 行かないし来なくていいけど?

「じゃあ、月曜は私達が学食に行こう、」

「そうだな、そうするか?」

「じゃあ、シャーロット、建国記念日の参加も一度相談したいし、月曜のお昼休みは学食で待ち合わせだから。」

「え、あの、」

 騎士コースの学生達は統治コースの教室の前で、「月曜に学食で、」と手を振って廊下を去っていった。シャーロットも釣られて手を振って見送った。

「シャーロットはすぐ『はい』って返事するよね、癖なの?」

 リュートがおかしそうに言った。

 はい、じゃなくて、はい? なんだけどなあ、とシャーロットは思った。違う言い方を練習しないとなあと悩みながら教室に入ると、ミチルがぶーたれていた。

「シャーロット、忘れ物ってリュートなの?」

 ガブリエルはくすくす笑っていた。ミチルのヤキモチがおかしいのだろう。

「ち、違うわ、さっきそこで会っただけよ?」

 教室の中にローズを探したけれど、見つからなかった。ローズはこの授業とってなかったっけ? シャーロットはちょっと不思議に思った。


 週末は、ミカエルの王族用の部屋でシャーロットは一緒に勉強して過ごした。ミカエルはシャーロットが休んでいた分のノートを作っておいてくれていた。エリックのくれた分とガブリエルが貸してくれた分とを引いても、十分シャーロットにはありがたかった。

 のんびりとミカエルと過ごす休日は、ある意味勉強会だった。

「これって攻略していることになるのかな?」

 シャーロットはミカエルに尋ねてみた。

「キスしてくれたら親密度も上がるよね、」

 部屋着姿のミチルなミカエルは可愛いけれど、中身はやっぱり男の子だ、とシャーロットは思った。

「ゲームでもそんなだったの?」

 甘い声で愛の詩集を読む王子様が、そんなノリとは思えない。

「ちっ、バレたか。」

 やっぱり騙す気だったんだ、とシャーロットは思った。くすくす笑って、頬にチュッとキスをする。

「ノートのお礼ね。」

 そういって微笑んだシャーロットに、ミカエルはジーっと唇を見つめた。

「ここがいいと思うんだけど、」

 自分の唇を指差してシャーロットに近寄ってくる。

「はいはい、また今度ねー。」

 照れてシャーロットはノートに視線を戻しながら答えた。キュンキュンしているのはバレたくなかった。いつもは貸してばかりのノートも、こうやって借りると新鮮ね。並んだ字が、自分の字と違うノート。ミカエルの字は綺麗だなと思い、シャーロットはそっと、字面を撫でた。


 月曜日は朝からミカエルの機嫌が悪かった。

「今日はミカエルの日なんだけど、ってゆうか、今週はほとんどミカエルの予定なんだけど、いきなりリュート達とお昼ご飯って。ひどいよ、シャーロット。」

 そんな事を言われても困る。シャーロットだって自分で望んで決めた約束ではない。

 シャーロットはミカエルの首に抱き着いて、ミカエルの格好の約束の頬にチューをしながら、囁いた。

「場所は学食だもの、気になるなら学食に見に来たらいいじゃない。何も疚しい事なんてないから。」

 シャーロットを抱きしめながら、ミカエルは耳元で囁いた。

「シャーロット、変な噂にならないように気を付けてよね?」

 噂、噂って、人の目って面倒っ! シャーロットは不満に思った。学食にミカエルはいなくても、そう言った噂は耳に入ってくるのだろう。

 リュートルートだと、男子生徒を弄んで断罪されるんだったけ? 弄ぶっていったいどうやってするのかしら? シャーロットは、やり方が分からないのに出来るわけないじゃないの、と思った。


 授業が終わると、リュートが迎えに来た。ガブリエルには話がしてあったので、ガブリエルは微笑んで見送ってくれた。一緒に行くのが騎士コースの学生達なので、誘おうとしたら、「私は遠慮しますわ、」と先に言われてしまったのだ。

 なんだろう、この連行感。シャーロットは手首に鎖でも繋がれているような気分で学食へとついて行った。

 学食の奥の方にすでに場所が確保してあったのか、6人掛けのテーブルがいくつか騎士コースの学生達で占領されていた。彼らの座るテーブルには、席が二つ空いていた。

「リュート、こっちだから、」

 二人分のランチのプレートを手にしたリュートと、自分の分のプレートを手にしたシャーロットはその声に従って空いている席に座った。彼らは何か話をしていたようだけれど、中断してシャーロットとリュートが落ち着くのを待ってくれていた。

 リュートは二人分食べるようだった。

 よく見れば他の学生達も二人分のプレートを机の前に広げている。

「あ、これね、一人分だと足りないんだよ。」

 シャーロットの隣に座っているトミーが教えてくれる。

「シャーロットは食べれそう? 足りないなら何かあげるけど?」

「いえ、大丈夫です、足ります。十分ですよ?」

 慌てて答えたシャーロットに、騎士コースの面々はそかそか~と温かく微笑んだ。

「先に食べ始めちゃってたんだ、ごめんね?」

「大丈夫ですよ? 私も食べますね、いただきます。」

 シャーロットが食べ始めると、騎士コースの学生達は話していた続きを話し始めた。どうやら内容は、式典用の演武の騎士団との合同練習の話らしかった。

 リュートは時々相槌を打って話を聞いていた。聞いてもなんだかよく判らない話ねとシャーロットは思い、聞き流してランチを食べていた。肉の壁な学生達に囲まれて座っているので、学食の他の場所に誰がいるのか判らなかった。

 シャーロットの向かいにはペーターが座っていた。騎士コースの学生達は十数人いたけれど、まだ名前を顔が一致しているのはペーターとトミーとジョンの3人だけだった。

 知れば知る程、親密になるんだろうし、困ったわね…。シャーロットは思った。どういう訳か自分はチーム・屋上の名誉会員の座を維持し続けている。

「と、いうことで、シャーロット嬢、関係者として一緒に国王陛下に謁見することになったから、そのつもりでいてくれよ?」

「え?」

 どういうこと? どうしてそういう話になるの? 全く話を聞いていなかったシャーロットは驚いて隣に座るリュートを見た。

「シャーロットはチーム・屋上の関係者として騎士団と謁見するんだよ。私も一緒だから安心して。」

「えっと、謁見って、いつするの?」

 建国記念日の式典行事は毎年、家族で国王の家族のすぐ近くの貴族席で見学して、その後は記念の舞踏会に出る両親とは別行動を取り、ミカエル達と食事して帰ってきていた。

「謁見は、式典が終わった後の記念舞踏会が始まる前の、各国の大使との歓談の時間だと思うよ?」

 いつもならシャーロットはすでにミカエル達と移動している時間にある大人の時間なのだろう。シャーロットは大人の時間に紛れ込むようで緊張した。

「私、何もしてないのに、関係者なんて申し訳ないわ。皆さんだけで国王陛下に謁見した方がいいのではないですか?」

 シャーロットは丁寧に断ってみた。屋上に何度か行っただけなのに随分深入りしている気がした。 

「…チーム・屋上の名誉会員のシャーロット嬢がいないなら、俺達は参加できないな、」

 え?

 騎士コースの学生達は途端に下を向いて、悲しそうに項垂れてしまう。

「今なら参加を辞退できるだろうし、騎士団は進路としては最高だけど、騎士団には断りを入れるか、」

 沈んだ面持ちのまま、男子生徒が恐ろしいことを言い始める。

「仕方ない。解散か。これもチーム・屋上の運命だ。」

 悲しそうにジョンがとどめを刺す。

「あのね、そういう意味じゃなくて。せっかく光栄なお話なんだし、参加したらいいじゃない。騎士団の就職も素敵なお話だと思うわ。式典でのお披露目も、私はとても楽しみよ?」

 シャーロットが取り繕うように話しても、騎士コースの学生達は項垂れていた。

「私も、何かお役に立てるなら立ちたいわ。あんなに頑張ってたじゃない。演技、素晴らしかったもの。陛下に見て貰えないなんてすごくもったいないわ。」

 励ますようにシャーロットは続けた。

「本当にそう思ってる? シャーロット嬢。」

 トミーが項垂れたまま聞いてきた。

「ええ、本当よ。かっこよかったし、凄かったもの。」

 あんまり深入りしたくないだけだった。屋上に頻繁に通ってリュートルートを攻略、とミカエルに言われたくない。

「じゃあ、シャーロットは一緒に式典に参加して一緒に謁見してくれるんだね?」

 うーん、それは嫌だなあ。リュートまで項垂れているんだなあと思いながら、シャーロットは即答できずにいた。

 リュートはシャーロットを悲しそうな顔でちらりと見た。

「シャーロットは、お役に立ちたいって言ったよね?」

「そうね、出来そうなことはするわ。」

「じゃあ、謁見、私と一緒に行ってくれるよね?」

「え? そ、そうねえ。じゃあ、その日だけ名誉会員として働くことにするわ。」

 その日だけという妥協点でシャーロットは頷いた。

 やったー! とあちこちから歓声が広がる。あれ? 項垂れてたんじゃないの?

「さすがリュート、毎度のことながら賢い!」

「シャーロット嬢も、今の言葉、忘れてはいけませんよ?」

「は? はい?」

 もしかしてまた担がれたの? シャーロットはリュートは策士だと思った。リュートはおかしそうにシャーロットを見つめている。

「シャーロットは可愛いね、」

 リュートはそう言ってシャーロットの頭を撫でた。性格を把握されている気がしてならなかった。

 なんだろう、リュートはかなり私を攻略してるんじゃないの? まんまと乗せられてしまったシャーロットは、名誉会員は早めに返上しようと思った。もう絶対屋上なんか行かないから、とも思っていた。

 いつもは学食に出没しない騎士コースの筋骨隆々な学生達がシャーロットの言動ひとつで一喜一憂する様子は、学食にいた他の生徒達にとっては奇異に映ったようで、『公爵令嬢はあのやんちゃな騎士コースの者達を簡単に調教している』という感嘆に近い噂を流されてしまうとは思ってもいなかった。


 女子寮の部屋に戻ったシャーロットは、着替える前に自分の机の上に手紙が置かれているのを見つけた。

 ハウスキーパーが置いていったようだった。

 中は父からの手紙で、一度週末に家に帰ってくるように、と書いてあった。建国記念日の式典用にドレスを作るからその採寸をしたいと母が言っている、との伝言も書いてある。

「こうやってじわじわ周りから話を詰められていくんだわ。」

 シャーロットは独り言を呟いた。どこまで話は進んでいるんだろう。名誉会員だなんて言われて、無理やり騎士コースの学生やリュートと関係を持たされているんだよね、シャーロットは手紙を見ながら思った。

 ぼんやりとしていると、部屋のドアをノックする音がした。

「開いてるわよ?」

 そう答える前に、エリックが入ってきた。

「シャーロットお姉さま、手紙、貰ったか?」

「ええ、今見ているところよ?」

 シャーロットは手にした手紙を振って見せた。エリックは制服姿だった。制服姿のシャーロットはまだ着替えてなくてよかったと思った。

「エリックは?」

「今週末、家に帰ってくるようにと書いてあった。」

「じゃあ、同じね。」

「お姉さま、」

 エリックがシャーロットの顔を見つめた。

「建国記念日には各国の大使が、国王陛下のところに御機嫌伺いに来ることは知っているだろう?」

「ええ、そうみたいね。」

 シャーロットはその時に、関係者としてチーム屋上の面々と謁見するのだ。

「ふうん? じゃあ、問題はないんだな。」

「何が?」

「何でもない。」

 エリックはにやりと笑って部屋を出て行ってしまった。

「チーム・屋上と国王陛下に謁見するって、そんなに噂になってるのかな。」

 シャーロットは首を傾げた。武芸のコースと統治のコースって、あんまり交流ないんだけどなあ、と不思議に思うのだった。

ありがとうございました

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