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うちの学校はおかしい  作者: 駄文職人
メリーさんの場合

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生きる道なの

 ようやく口を開いた邦彦くんの声は、苦々しかった。


「……よほど先輩は、俺に神殺しをさせたいと見える」

「あの守り神さえいなくなればアヤカシがいなくなるんです。邦彦くんにとっても悪い話じゃないでしょう?」

「じゃあ、トオルくんはどうなるんだよ」


 守り神が、アヤカシを引き寄せるモノがなくなればこの地は平穏になるだろう。


 アヤカシというものが過去のものとなり、お伽話となり、やがて消え去る存在となる。


「黒名先輩は、ぼくが普通の人間に戻るだろうと言ってくれました」

「そんな保証はどこにもない」

「あは。そうですね。でもたとえぼくが消えても、ぼくの記事は残る」


 どっちでもいいと言わんばかりなの。


 自棄にもとれる言い草にさすがの邦彦くんもかける言葉が見つからない様子だった。


「トオルくん、お前……」

「そんな顔しないでください。どうせもともと居ないはずの存在です。それでもぼくのインタビュー記事がみんなの目に触れるなら、それがぼくの存在証明になる。それでいいじゃないですか。結局、ぼくも黒名先輩と一緒なんですよ」


 トオルくんは、誰からも認知されず誰の記憶も残らない存在。


 幽霊ではない、アヤカシに似たナニか。


 彼には恐らく、彼にしか分からない苦悩があるの。

 

「ぼくはメリーさんがうらやましいです。メリーさんの怪談は有名ですからね」


 当然なの。

 メリーさんは何十年も前から語り継がれた存在なの。


「メリーさんなら分かっていただけますよね?姿なきモノが人の記憶にアり続けるのがどれほど難しいか」

『一緒にしないで欲しいの』

「そう言わないでくださいよ。独りよがりでなければ、ぼくとメリーさんは似ていると思うんですけど」

『戯言を……』

「公衆電話が姿を消し、固定電話を持つ家が減りました。イタズラ電話対策が強化されてきてからは知らない電話は取らないのが普通です。……メリーさんには生きにくい時代でしょう?」


 私は閉口する。


 こちらが黙ったのを良いことに、トオルくんは機嫌よく続ける。


「これからメリーさんの生きていく場所はなくなっていきます。時代が変わったんですよ。ぼくだってそうだ。何もしなければ消えていくだけの存在でした。……それでも、あの人はぼくに『無為に消えていく必要はない』と言ってくれた。彼女なら現状を変えてくれるかも知れない。ぼくには、それだけで十分でした」


 電話をかけても、無視され続ける日々。

 着信拒否され、メリーさんである自分を否定され続けた。


 他にどうすればいいかも分からない。

 他の方法なんて知らない。

 どんどんと道を狭められ、首を絞められていくような錯覚。


「ぼくたちは分かり合えるはずです。どうですか? 今からでも、ぼくたちに協力してはもらえませんか?」


 消えるより他に未来がなくて、誰ともなく助けを求め続けて、そうしてもがき続けた末に手を差し出してくれたのが京也くんではなく黒名蘭子であったなら、私もそちら側にいたのかしら。


 所詮、仮定の話なの。


『舐めないで欲しいの』


 私、メリーさん。


 京也くんに新しい私を教えてもらった。

 もう消えるばかりのか弱い存在ではないの。


 私は邦彦くんのスマホに、ある動画のウェブページを表示させた。


『自滅したいなら好きにすればいい。現状さえ変えられたらいい、なんて甘い考えは私にはないの。これからの生きる場所は私が決める』

「これは……」


 サムネには幼い少女のアバターがハートマークの手を見せて可愛らしいポーズをとっている。




『私、芽理衣(めりぃ)さん。今の私は、Vtuberなの』


「なん……だと……」

『ちなみにフォロワーはこないだ1万人超えたの』

ロリ声を駆使したメリーさんは、Vtuberの期待の新星です。


次回11月11日7:00に更新します。

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