通話中なの
透明人間、トオルくんは爆発があった部室棟で野次馬をしていた。
人だかりの中でちゃんとトオルくんを見つけられる邦彦くんは、悔しいけどさすがなの。
ちなみに私は、邦彦くんに通話状態にしてもらっているの。
「よぉ、トオルくん」
邦彦くんがトオルくんに声をかける。
「やあ、邦彦くん」
とても平凡な声だった。
声色が全く印象に残らない、人混みの中で聞こえてくる誰かの話し声みたいに耳を素通りしていく声なの。
「どうしたのですか?今日は夢堂くんがいないみたいですが」
「夢堂がいなくても時々見えるぞ」
「邦彦くんでもまだ時々ですか……これでも最近は無視されることが減ってきたんですが」
悄然とするトオルくん。肩を落としているのかも知れない。
「インタビューの成果か?」
「えぇ。記事を廊下に貼っているんですが、見てくれていますか?書いた記事を通して少しでもぼくを認識してもらえれば、みんなにもぼくのことが見えやすくなるはずなんです」
もっとがんばらなければ、と意気込むトオルくんの気持ちが私には分かるの。
京也くんは私のことを白いモヤモヤにしか見えていないの。
「大事なのは中身だよ!外見じゃないよ!」と言ってくれるけれど、やっぱり目を見てお話してみたいの。京也くんに私の顔を見てもらいたいの。
だけど、私のこの願いは京也くんには内緒。彼を困らせてしまうだけだから。
「それだよ」
「何がですか?」
「インタビュー始めたのは、今年からだよな?」
「そうですね」
「確か黒名先輩の助言で始めたはずだ。俺は覚えてねぇが、夢堂がそう言ってた」
「……そうですか」
「ずばり聞くぞ」
「トオルくん。黒名先輩とグルだろ」
邦彦くんの指摘に、トオルくんはふふっと少しだけ笑った。
次回11月7日7:00に更新します。
※もし気に入っていただけましたら、ポイント、いいね、ブクマ等をお願いします。




