カウントダウン
「何を言っているのか分からねぇ。なんで守り神を殺す必要がある。屋上のおかげで助かってる連中もいるんだぞ」
理解できない、と邦彦は首を振る。
「そういうところだよ。大体奇妙だと思わないのかね。どうして守り神は屋上にいるのか。どうしてうちの学校の安全地帯は屋上だけなのか。そもそも、どうしてうちの学校には妖怪だの幽霊だのがわんさか出るのか。考えたことはないのか?」
「なんでも何も、この土地がそもそもそういう場所だろ。外の川には河童がいる」
アヤカシが出るのは何も学内だけの話ではない。
川には河童がいるし、塀の向こうの二宮金次郎像は市外へ一晩で走る。
「あの川はもともとうちの学校の敷地内を通っていた。江戸時代の治水工事で水の流れをわざと変えたんだ。古い地図と見比べればすぐに分かる」
「あ……?」
「アヤカシたちがはびこるのは瑞明高校の周辺、特にこの地に縁の深い場所ばかりだ。知らなかったのかい? 君たちが守り神と崇め奉るアレこそが怪異を集めているんだよ」
晴海菜子は荒神、荒ぶる神だと呼んでいた。まさにその通り、アレは荒ぶる災いそのものである。
「災禍を封じ神格化し祠を打ち立てて鎮めようとした。それでも長き時間をかけて沁み出た災禍の瘴気は霊や妖怪を生み出し、集め、この学校をアヤカシの住まう魍魎の地へと変えたんだ。どうだね、邦彦くん。それでも君はまだあの神を拝む気になるかね?」
あの神さえいなくなれば、この地を穢すものはなくなる。いずれアヤカシは消滅して、瑞明高校はごく普通の公立高校になっていくだろう。
ごく普通の学生生活を守る。それこそがアヤカシ対策委員会の本懐であるならば。
「……なんで、俺なんだ。あんたがやればいいでしょうに」
「私では口惜しくも力不足でな。だが、数多のアヤカシを実力で黙らせてきた君ならば」
「嫌ですよ。めんどくせぇ」
「学校を救った英雄になれるぞ?」
「興味ねぇんで、そういうの。厨二病のヤツにでも言ってやれよ、泣いて喜ぶぞ」
「君の望んだ平穏な学校生活が手に入るとしてもかね?」
「昔ならいざ知らず、ちょっと賑やかな今の生活も悪くないって思い始めてるんでね。俺は下りる。他を当たってくれ」
「……ああ、やはりか」
蘭子は誘うように伸ばした手を下ろし、残念そうに言った。
「君が断るのではないかと心配していたが、的中してしまったな。言っただろう、忠士? 邦彦くんを扱うならば、やりすぎぐらいが丁度良いと。私とて強引な手を使うのは本意ではないのだがね」
「……おい、まさか」
「悪く思わないでくれたまえ、邦彦くん。君の反抗心のために計画を中断する訳にはいかないのだよ」
「ふざけんなよ! 京也と晴海に手ェ出すんじゃねぇ!」
「私が手を出すとは限らないぞ? 例えばそうだな。先ほど君は、魔除けをばら撒いたことで屋上のアレの機嫌を損ねたのではと言っていたがね。まさしくだよ、アレが許す訳がないだろう? 今に怒りの雷が落ちるぞ」
邦彦が蘭子に詰め寄るより早く。
蘭子を守ろうと忠士が立ち塞がり邦彦を押し留めるより早く。
諸手を広げて蘭子は嗤う。
「ショータイムだよ、諸君」
始まりを告げる、チャイムが鳴り響く。
【作者の裏話】
昨日ICLの手術をしてきました。世界はこんなに美しかったのか、と視力回復の実感を噛み締めています。
毎日7時に更新しています。
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