君の望み、私の望み
瑞明高校の校舎は一年の教室を二階に、二年の教室を三階に、そして三年の教室をなぜか別館の二階に配置している。
本館の四階は音楽室や茶道部が使う茶室、少人数授業のための小教室などの特別教室が集まる。
すなわち、用事がなければ踏み入れることがないフロア。
とはいえ、今は昼休み。
弁当を食べるために小教室を出入りする生徒たちが見える。
そして、ここにはもう一つ。
屋上へ向かうための階段が存在する。
「やっぱりな、ここに来ると思ってたよ」
その階段前には、手分けして捜索しているはずの邦彦が待ち構えていた。
剣呑な目に、忠士はとっさに蘭子の前に出る。
「貴様、なぜここが」
「チェーンメールの画像、ありゃ魔除けの陣だろ? クマがどこいったかなんて知らねぇが、自分の縄張りでこんなもんばら撒かれた上の神様の機嫌が気になるはずだ、あんたはな」
邦彦の鋭い目は忠士を超えて蘭子を見据えている。
怒りの色すら滲ませて。
「なぜってのはこっちが聞きてえよ。なあ、先輩。あんたが何しようが俺は別にどうでもいい。だが、晴海の姉ちゃんに手ェ出したのはどういう了見だ?」
「全く、君は本当に鼻の利く猟犬だね。これでもう少し聞き分けの良い子ならば私はここまですることはなかったのに」
「あ?」
「簡単な話だよ。君に手を貸してもらうためさ。私には君の助けが必要なんだ」
「ふざけんなよ。理由になってねぇ」
「ふざけてなどないよ。君は荒っぽい性格の割に、存外平和主義だ。幼少期からアヤカシに悩まされていたせいかな? 君は誰よりも平穏な日常を求めている」
だがもし、と指を立てて蘭子は悪戯っぽく謎をかける。
「君の周りの人間が、非日常を望んでいたらどうするね?」
「なっ」
「そうだな、京也くんなど最たるものだろう。彼は凡なる人間だが、ゆえにアヤカシに魅せられている。平穏を望みながらも彼を友としている君のあり方は、私の目からはちぐはぐに見えるがね」
「……あいつは、関係ねぇだろ。話を逸らしてるつもりかよ。俺はなんで晴海にちょっかいをかけたのかを聞いてんですよ」
「大いに関係があるとも。私はね、君を評価しているんだよ邦彦くん。君は委員会の活動に実に精力的に取り組んでくれている。害をなすアヤカシどもを蹴散らし、入学してから今まで君は多くの生徒を守り抜いてきた」
蘭子はそれまで浮かべていた笑みを消した。
「だが、足りない。君は甘い」
「は? どこが甘いってんだ」
「君は平穏を望みながら、怪異ある日常に慣れすぎている。自身や周囲を害するモノには徹底的に敵対するくせに、そうでないモノには無関心だ。君にとってはあって当たり前なのだろうね。だから脅威を脅威として気付かない」
蘭子は邦彦を、そして彼の後ろの階段の向こうを指差した。
「照間邦彦。私は君に、神殺しをしてもらいたいんだよ」
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