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うちの学校はおかしい  作者: 駄文職人
『 』の場合

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胸を躍らせる者、見守る者

 もしこの話に語り手がいるのならば、それはきっと全てを俯瞰していた存在なのだろう。

 一人称すらなくなった、自我もなく、誰をも忖度などしない「見る」だけの誰か。


 全てを知る超越者は、ただ観測している。

『それでアタシのところに来たってワケ?』

「探し物をするならナギさんに聞いた方が早いと思ってね」


 蘭子の言葉に八咫烏のナギは『なるほどねぇ』と情報料として前払いされたソーセージを器用に開封している。


『そのクマさんなら昨日見たわ』

「さすがナギさんだ。どこでだい?」

『四階でウロウロしていたわよ。窓越しに見かけただけだけど、誰かを探しているみたいだったわねぇ』

「ふむ……?」

『あれは物に憑く類ね。自分一人じゃ存在を保てず消えてしまうから、物を依り代に留まろうとする残滓。そのまま依り代を大事にされれば付喪神にでもなれるかもしれないけれど、放っておいたってすぐに消えるわ。害になりはしないでしょ?』


 怪奇現象に事欠かない瑞明高校において、もっと緊急性のある事件など山ほどある。

 今回のチェーンメールも徘徊するクマも、アヤカシ対策委員会総出で取り掛かるほどの事態ではないのだ。


「クマが動き回るのが問題ではない。クマがこんなものを持ち歩いているのが問題でね」


 そう言って見せたクマの写真に、ナギが『ギャッ』と悲鳴を上げた。


『急になんてもの見せるんだい!』

「おっと、すまないね」


 クマに、というよりスマホに写った画像に嫌悪感を滲ませてナギは体中の羽を逆立てた。


「ご協力感謝するよ、マダム」

『はいはい。今度は何を企んでいるのか知らないけど、遊びもほどほどにするんだよ。火傷してからじゃあ遅いんだ』

「遊びなものか。私はいつだって真剣だとも。では行こうか、忠士」


 失礼、と優雅に一礼してナギに別れを告げた。


 忠士を伴って中庭を後にした蘭子はさっそく目撃例のあった四階へ足を向ける。


「しかし、なぜよりにもよって今あんな悪戯メールなど……」


 疑問を口にする忠士に、蘭子はくつくつと肩をゆすった。


「今だから、だ。当たり前だろう? 相手はこの学校を知り尽くしている。今の我々の言動すら、ヤツにはきっとお見通しなのさ」

「まさか」

「時は近いぞ、忠士」


 うっとりと夢見る乙女のように頬を紅潮させて蘭子は呟く。




「もうすぐで私の目的は果たされる、実に、楽しみじゃあないか」


 その横顔を、忠士は見つめている。

 ただ、静かに。

毎日7時に更新しています。

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