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うちの学校はおかしい  作者: 駄文職人
結女千鶴の場合

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35/104

荒神様

「初めて見たな、祠の中身」

「思ってたよりおっかなくてビビってる」


 影から窺っていた邦彦さんと京也さんが屋上に入ってきた。


「お、お二人とも……」

「無事でなによりだ」

「そちらこそですよ……! あの白いのが来たから、お二人に何かあったんじゃないかと!」


 邦彦さんにも京也さんにも怪我がなさそうで良かった。


「時間稼ぎしかしてねぇからな。あいつ、俺たちには見向きもしなかったぜ」

「完全スルーだったよね」

「あと、こっちのバカを回収してた」

「どうも」


 こっちのバカ、と紹介された菜子さんがすちゃっと手を上げて挨拶してくれた。


「邦彦くんを呼びに行ったのですが、私が着いた時には既に飛び出した後でしてね。思いっきりすれ違ってしまいました」


 駆けずり回ってくれていたらしい。

 礼を言うと、「構いませんよ」と菜子さんは大して気にしていない様子だった。


「あの浮遊霊たち、寂しがっていました」


『さみしい』


 きっと彼らは仲間が欲しかったのだ。


 わたしのような、一人では生きていけないのに不器用な半端者を探していたのかもしれない。


「引きずられんなよ。ロクなことになんねぇから」

「はい……」


 あの手を取っていたら、わたしはどうなっていたのだろう。


 鏡餅に張り付いた口や腕のように、ぐちゃぐちゃに混ざり合うのだろうか。そうしてみんなの中の一つになって、孤独を忘れることができたのだろうか。




 彼らの最期の一言が、きっと答えだ。




 菜子さんは祠の前で、いつものようにパンパンと手を合わせていた。


「これ、神様が祀られているんじゃなかったでしたっけ……?」

「ええ、神様ですよ。疫病や水害といった厄災そのものを祀って神格化している神社って珍しくもないでしょう」


 スポーツドリンクのペットボトルをお供えした菜子さんは、ようやく振り返る。


「やっぱりさっきのは、おに……」

荒神様(あらがみさま)というべきでしょうか。ここにいらっしゃるおかげで、うちの学校は古今東西のアヤカシがいろいろ出ますが幸い死人は出ないんですよねぇ」

「えぇ……」

「いわゆる、この地の元締めですよ。多少のやんちゃは許してやるけれど、あまり調子に乗っていると食ってやるぞ、と」


 なるほど、だから屋上には浮遊霊すら来ないのか。


 よほどここの守り神様はアヤカシたちに恐れられているらしい。


「ただ、今回はやり過ぎだな」


 ボソリと邦彦さんが呟いた。


 どういう意味かと聞く前に「立てるか?」と声をかけられて、聞き返すタイミングを失った。


「実は腰が抜けてしまって……」


 おかげでさっきからへたり込んで動けずにいる。


 邦彦さんは大きくため息を吐くと、「ほらよ」と背中を向けて屈んだ。


 菜子さんが戦慄いた。


「おんぶ……だとっ!?」

「仕方ねぇだろ。保健室までどうやって連れてくんだよ」

「ず、ずるいです! 邦彦くん、私には一度もやってくれたことないじゃないですか!」

「何を当然自分もされるべきみたいに言ってんだよ! お前みたいな鋼の心臓はおぶる必要ねぇだろ!」

「そんな!? 殺生な! くっ、なぜ私は腰が抜けないのですか!? それなりに遭遇経験はあるはず……っ!」

「腰抜けじゃないことを悔しがってるヤツ初めて見たよ」

「あははは!」


 授業中で静まり返った学内に、笑い声はよく響いた。

毎日7時に更新しています。

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