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気がつけば、7/9日。
美琴から空叶への思いを告げられてから、もう10日が経とうとしていた。
いつも通りの美琴。あのことだって、きちんと謝ってくれた。でも、何かが心の奥で泣いていた。それが私の感情なのか、分からなかった。
朝の校庭。サッカー部が朝練をしていた。バスケ部も、隣の体育館でシュート練習をしていた。
「あっ、しーちゃん、空叶先輩だ!」
美琴が嬉しそうに校庭を指差す。詩織は、今日も不調で全くシュートが入らなくて、イライラしていた。
「…何?」
ダルそうに詩織は答え、校庭を見た。
皆に指示を出し、手本となっているのが空叶だった。その姿を見て、美琴はふぅっと息を吐いた。
「…なーんか最近、先輩調子悪くって。彼女としては心配。ほら、また」
空叶が蹴ったボールは、仲間ではなく相手チームへすんなりと渡ってしまった。
キャプテンの不調。それは、仲間にも影響してくる。
(大丈夫かな、瀬名先輩…)
詩織は、なんとなく気になった。
(何か、励ましてあげた方がいいのかな。でも)
「あんなこと言ったしな…」
「?急にどーした?」
あわてて返す。「ううん!何でもない。」
空叶がらみの相談を美琴にすれば、どうなるか分からない。それに、関わりたくはない。でも…気になってしまう。
教室に入ったあと、別の友達を連れて、廊下へ出た。
輪島 優里、一つ上の姉のような存在である。早速彼女にこれまでの悩みを話した。
「あんた、本当鈍感だよねえ。」一通り話を聞き終わると、優里は言った。
「つまりあんたは、その先輩のことが好きってことでしょう?」
「ええ!?」
驚いて、声をあげる。そんなことはないはず。瀬名空叶は詩織にとってただの先輩なのだ。
「それと、先輩と佐古田さんはお互い好きってわけじゃない。おそらくは佐古田さんの感情の一方通行ね。」
「そんな…!」
「だってあんた、先輩に告白されたんでしょ?」
「でも、断った」
「あんたの本心じゃないでしょ。」
スパッと言い分を切り捨てられた。確かに、そうかもしれない。さらに優里は問うてきた。
「先輩が他の誰かと付き合ったら?」
「…美琴以外は」
「私だったらそんな優しさ、いらないわ。」
突然言われて、きょとんとする。
「友達のためって言って、自分の思いびとを譲るの?それでその子に一生申し訳なさを背負わせるの?」
「そんなつもりは」
「そのつもりがなくても、相手にはそう取られると思う。」
「……」
詩織は、何も言い返せなくなった。そして、心に引っ掛かっていた物の招待が、ようやくわかった。
(私は、瀬名先輩が好きなんだー)
「先輩って、案外ヘタレなんですね。」
後輩からの一言。何気ない言葉が突き刺さる。
「…あのさ」
「付き合ってませんよ」
唐突に律が言う。
「しおりねーちゃんとはなんもないです。ただの従姉だし。」
「…そんなこと言っても」
「佐古田さんからそう言われたから、付き合ったんでしょ?」
「…うん。」空叶は素直に頷いた。律はニッと笑った。
「実は僕、佐古田さんのこと好きなんです。だから、先輩から奪います。先輩は先輩の気持ちを優先させてください。先輩がそんなヘタレだと、ねーちゃんが心配ですからね!」
空叶ははっとした。自分のように気持ちのない相手と付き合うのは、失礼すぎる。
「分かった。後輩をよろしくな。」
「先輩も。頑張ってください!」
「ごめん美琴ちゃん。もうこれ以上、自分の気持ちに嘘つきたくないから。別れよう。」
美琴は、いつかこうなるだろうと、予感はしていた。けれどとても辛い。なんとか涙をこらえる。
「…嘘ついてごめんなさい!しーちゃんと律くんは、ただの従姉です。それに、先輩とは、やっぱり合わないなと思ってたんです。」
「ごめん。ありがとう。」
そう言って空叶はその場を立ち去った。
(ほんとうは、認めてなんか、嫌いになんか、なれるはずがないのに…ね。きっと、これで良かったんだよね。)
我慢していた涙が、一気にこぼれ落ちる。
(先輩…本当に大好きでした。)
可哀想…




