巨木の樹海にまつわる野菜 ③ 弾丸カボチャ
SS「突入せよ!」
━━━━ ある日の領主館の『菜園』。
その一角に臨む、大きな土壁の物陰にて。
カッセル
「── 心して、間合いをつかむ」
ユッキル
「── 抜かりなく、死角をとる」
カッセル
「彼奴らの種は危険だが、真上は死角だ。高く跳ぶべし」
*参戦した警備員たち
(((先生… 敵の真上にふつうは跳べません)))
ユッキル
「もっとも、彼奴らの大きな実は、ゴロリ、と動くことがある。油断するとめった撃ちだ」
カッセル
「うむ。ちょ… かなり痛い」
*参戦した警備員たち
(((… 言い直した!)))
カッセル
「どんなに大きな実も、株から切り離せば種を撃たなくなる」
ユッキル
「だが、刈りとって撤退するとき、後ろからほかの実に撃たれやすい。よけながら走るように」
*参加者たち
(((もっとそこをくわしく!!!)))
ユッキル
「収穫は、料理長殿のところに運ぶ…… 楽しみだな」
カッセル
「では行くぞ!」
!!
・♢ ♢ ・ ♢ ♢・
料理長エモクス
「…… 弾丸カボチャは、おいしい料理の仕方がいくらでありますな。栄養価が高くてよい食材です。
果肉は硬い果皮のキワまで食べられて、スープやパイ、煮物、蒸し物になります。バター焼き、チーズ焼きにしてもおいしい」
「種も食べられるので、綺麗に洗ったあと水気を切り、天日で干します。
そのままでは殻が重くて硬くて、調理出来ないので、ひとつひとつ割って中身を取り出さなければなりません」
ルブセィラ女史
「かんたんに食せるといいですね。それで、今回集めた弾丸カボチャの種は── え?」
カッセル&ユッキル
「「カリカリカリカリカリカリカリ」」
あざだらけの警備隊員がほっこり笑顔で、栗鼠娘を餌付け中。
・♢ ♢ ・ ♢ ♢・
◉ 弾丸カボチャ
巨大な実をつける樹海のカボチャで、植物魔獣の一種です。よく知られているカボチャそのものの見かけですが、葉や茎のサイズは3〜5倍もあります。
○ 弾丸カボチャの実と種
大きな実は、偏円形で、きれいにくり抜くと小柄な人間が中に入れるほどです。
おいしく食べられますが、その名の通り、成熟してくると、かたい種子を近づく人や動物に放って攻撃するようになります。
どのようにして離れた場所にいる相手を感覚し、的確に命中させるかわかりませんが、うっかり群生地に入り込むと死ぬまで打ちのめされます。
果皮は黄色味の灰、または暗岩灰色です。
分厚い貝殻や石のように硬く、急成長するとき果皮が何度もひび割れるので網目模様です。さらにいよいよ大きくなると、フジツボのような突起がいくつも生じて四方八方に開口部が向くようになります。
黒くかたい種子は突起の開口部(頂部)から放たれます。至近距離で、弩で弾いた石弾の威力です。
強く撃てる仕組みはよくわからず、ある説によると、大きな実の内縁(果皮のすぐ内側)のチューブ構造を何らかの力で周回させ、加速させて撃つ、とも………
(果皮下の構造は、株から切り離すとすぐ崩壊するので想像です)
○ 栽培化の試み
弾丸カボチャは実が大きく、果肉の自然で上品な甘味や舌ざわりが好まれます。
巨大で異形の草花の中では珍しく、樹海の外でも比較的簡単に芽生えて育つので、何度となく意欲的な農家が栽培を試みてきました。
しかし、整えられた畑より、なぜかほかの植物と押し合いへしあいする場所でよく育ち。茎葉ばかり繁茂してまわりの農耕地にのび広がるので、しばしばトラブルになりました。
南の土地では、野草化させてしまった弾丸カボチャの狩り(刈り)が一部の集落の風物詩?と化したほどです。
現状、熟練者の小規模鉢植栽培なら安全な収穫が可能(ただし一株1個)ですが、露地の弾丸カボチャ畑は失敗(草害)の事例があまりにも多く、生産者に忌避されています。
○ 中央諸国の試み。
弾丸カボチャは大陸中央で、樹海の草花の爆発的侵襲の研究素材として注目されています。
ふだんから樹海の外でも繁茂させることができて、生態や栽培の情報が比較的多いことが『実験植物』にする利点です。
しかし、弾丸カボチャ群生地が新たに樹海の域外に生まれかねない、と、早くも懸念の声が上がっています。