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兄による妹の幸せ計画  作者: 夕鈴


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2/2

番外編 妹の真実 

公爵令嬢アマリリスは留学先の試験会場で面接官の質問に正直に答えていた。

世界屈指の歴史を持つ教育機関の入学試験の合格基準は筆記試験の成績と面接官に興味を持たれるかである。

公爵令嬢でも、力のない、教育水準も低い国の出身のアマリリスは勝負に出ないと落とされるとわかっていたので、自身の持つ珍しさでアピールをしていた。


「私のお兄様はシスコンで、私が関わると交友関係を疎かにし、私を優先してしまう悪癖があるため両親は私を留学に出しました」

「そんな理由で留学を受けたの?」


驚く面接官にアマリリスは微笑みながら頷いた。


「未来の公爵のお兄様が立派に成長すれば、国と公爵家のためになるでしょう?

お役に立つなら、公爵令嬢らしく優雅に、寂しがり泣きそうなお兄様に笑顔で礼をして留学に旅立ちました。

公爵令嬢として必要な教養はお母様より合格をいただいてますので、ここでは祖国より研究が進んでいる医術や薬学の専攻を希望します」


貴族なら隠したがる変わった理由で面接官の興味を引いた美少女アマリリスは入学の切符を手に入れた。



「どうすればアマリリス嬢を手に入れられる?」

「私の価値に見合った公爵家への利を証明してくだされば、お父様や陛下もお許しくださるでしょう」

「体だけでなく、心も全てを手に入れたい」

「情熱的な国の貴公子様は息をするように口説かれますのね。私は私の価値をきちんと評価していただける殿方に嫁ぎたいですが、まずは私の価値を高めなければいけません。成長途中の私で判断されるのはおすすめしませんわ」


可憐に微笑むアマリリスに少年はうっとりと見惚れた。


「僕も君にふさわしくなるために僕の価値を高めてみせるよ。婚約者ではなく、友人としてなら受け入れてくれるかい?」

「光栄ですわ」


隣国の身分関係なく優秀な者のみが入学できる学園でアマリリスは平穏に過ごしていた。

頻繁に届く兄からの手紙には月に2回だけ返事を送り、知識と技術と情報を淑女らしい振舞いで手に入れる美しく、成績優秀なアマリリスは母国への蔑む評価を覆した。

高嶺の花と学園で囁かれるまでになり、常に羨望の眼差しを集めていた。


「婚約者に条件はないのか?」

「聞かなくてもおわかりでしょう?」

「公爵家に利益か。僕はアマリリスを信じているよ。だから、これをあげるよ。友人としてね」


アマリリスは友人のエズラから渡された書類を凝視した。

何度読んでも間違いはなく、最近兄からの手紙が途絶えた理由を深く考えなかったことを後悔した。

公爵領で病が流行しているのを隠した家族の意図はわかった。

アマリリスより優秀なエズラはアマリリスならこの情報を生かせると信じて託してくれたことはアマリリスの背中を押した。


「ありがとうございます。帰ります」

「これを受け取って。この水晶は対になっていて、どんなに遠くにいても話せるんだ。相談にものるし、僕にできることがあるなら手伝うから。でも、困ってなくても時々、声をかけてくれたら嬉しい。友人として」


アマリリスは優秀なのに好意を隠せていないエズラの照れた顔に微笑み、高価な水晶を受け取った。

大事な情報をくれた友人の願いを叶えるのはアマリリスの中では必要なことだった。

アマリリスは休学の届けを提出し、すぐに公爵邸を目指した。

帰国したアマリリスを見た使用人達は顔を青くした。

アマリリスは邸に充満する甘い香りに一瞬眉を上げ、口元をハンカチで覆った。


「お嬢様!!なぜ」

「挨拶はいらないわ。すぐに邸を換気し、邸内、領内のこの花と草を全て燃やしなさい。香水や香を焚くのも、私が許すもの以外は禁止よ。命令よ。すぐに動きなさい」


高慢に命令するアマリリスに使用人達は動き出す。

アマリリスは兄の部屋に行くと見たことのないほど青白く痩せた兄のアトラスが眠っていた。

アマリリスは兄の部屋の窓を開け、侍女にも託さず、自分で持っていた旅行鞄から道具を出した。

アマリリスは枕元に置いてある水差しと果実水の成分を調べた。


「エズラの情報通り……。出遅れたけど、負けないわ」


王国では甘い香りの香水が流行していた。香水に使用される花は蜜はもちろん、花びらや葉も甘く、栽培が簡単なためお茶や料理にさえ使われるようになった。

ただ微量の遅効性の毒を持ち、蓄積されたり、毒性を高めるレモン等の果物と組み合わせると体に害をもたらすとアマリリスの留学した隣国では発表され、禁止される方針で話し合いが始まっていた。

公爵邸内に充満した香りも、果実水と水からはアマリリスの危惧した成分が検出された。

この花のことは、アマリリスを訪ねた伯父夫婦に話し、伯父夫婦が公爵家への報告をしているはずだった。


「優秀な弟に家督を譲って、陰で支えることを選んだ兄の美談はファンタジーね。お兄様、ごめんなさい。挽回する機会をくださいませ」


アマリリスは公爵家を掌握し、命の灯が消えかけていた両親を看取り、伯父夫婦の陰謀を断罪し、兄が回復した頃には適齢期を迎えていた。

兄が公爵として復帰し、アマリリスとともに社交界にも復帰すると鈍感な兄を中心に恋の蹴落とし合いが始まった。

しばらくすると、恋の蹴落とし合いは王族を味方につけた伯爵令嬢の勝利となった。

同時にアマリリスも王命で第二王子のフィンリーの婚約者になった。

王太子は才能が武術に偏ったため、体が弱いが聡明な第二王子が王太子妃とともに王太子を補助するというのが王族の未来の形だった。

婚約が決まる前から公爵令嬢のアマリリスは王族との面識があり、華奢なフィンリーは力が弱いが、優しく、視野が広く、話も上手く、アマリリスにとっては相性のいい相手だった。

アマリリスは婚約後の初めてのフィンリーとの二人きりのお茶会で、初めて優しさではなく、後悔が宿る瞳を向けられた。


「アマリリスには申し訳なく思っている。それでも、私は...」

「私は政略結婚に愛は求めていません。でも、苦しんでいる婚約者に気付かないフリをするほど、薄情でもありません。ねぇ、殿下は賢く簡単な方法とは逆の方法を選びたいのでしょう?」

「馬鹿だろう?」

「覚悟を決めて、あえてお馬鹿な方法を選んでも殿下なら好ましく思いますわ」

「君は私にはもったいないほど、魅力的で素敵なご令嬢だよ」

「光栄です。婚約者という名のお友達になるのはいかがでしょう」

「こんなひどい男でも、許されるなら光栄だ。アマリリスは大丈夫かい?」


苦笑するフィンリーを見て、アマリリスは婚約者の味方をすることを決めた。


「殿下を追い詰めたのは、お兄様の所為でもありますもの。殿下の愛しい君の策の先に、私達の幸せはありません。愛しい君も王族らしくあろうとする殿下を魅了した責任はとるべきですわ。王族の心を奪い、操ろうとする手腕は見事ですが、策が甘い。外面だけは公爵らしい仮面をつけているお兄様は押し付けられた婚約者を大事にできるほど器用ではないのはよく見ればわかるでしょ?下調べはきちんとしないと」


アマリリスの策にフィンリーが修正をし、一見従順に見えそうな第二王子達の謀が始まった。

アマリリスは星が綺麗な夜はバルコニーでお茶を飲みながら水晶に話しかけるのが日課である。


「今日は星が綺麗なのかい?」

「ええ。美しいわ。忙しいはずなのに、いつ話しかけても返事があるのはファンタジーかしら?」

「君が笑ってくれるなら、その解釈も素敵でいいよ」

「ふふふ。ねぇ、エズラ、ここはファンタジーで溢れているの。シンデレラって知ってる?心優しい少女を助ける魔法使いがいるなら、健気な王子様を助ける魔法使いと悪役が一緒ってどうかしら?」

「面白いと思うよ。僕の出番はあるかい?」

「大切なお友達を駒にはしたくないのよ」


最近は王子妃教育を受けているアマリリスはエズラの研究の話を楽しそうに聞く。

議論を交わしながら探求心を刺激してくれた楽しい授業とは程遠い、王族になるための授業の後のエズラとの会話は一際楽しかった。


「風が冷たいから暖かくして、休むんだよ。また、連絡くれるのを楽しみにしているよ。おやすみ」

「ありがとう。エズラもね。おやすみなさい………………朝まで夜通しおしゃべりもファンタジーね」



***


アマリリスは悪循環という言葉を振り返っていた。

全ての国民を愛するように育てられたフィンリーは優しく、気遣いのできる男である。

病に倒れ、完治したとはいえ寝たきり生活が長かった兄のアトラスは成人男性はもちろん、幼い頃から体が弱いフィンリーよりも筋力も体力もない。

異性を意識もできないため、フィンリーのように胸を押し当てても異性を意識し赤面することはなく、重たい、暑苦しいと印象が悪くなる。

躓いたアイナの腰を抱くこともなく、体幹の悪さに引き、避ける。

転んでいるアイナを見つけたら、近くの使用人に任せて通り過ぎる。

弱者にさらに優しいフィンリーは頼りないアイナに惹かれたが、アトラスは教育の悪さに呆れ、どんどんアイナへの評価が下がっていく。



「お兄様に好きな異性の好みの概念があるのかはわからないけど、お兄様はいっぱいいっぱいだから、さらに負担になるような者は本能的に拒んでいるのかしら……殿下を落とした方法だと逆効果」


アトラスは実妹のアマリリスが転んでも、使用人に手当を命じるが手を差し出すことはない。

転ばない方法を厳しく教える公爵家では、アイナの振舞いは、マナー違反にあたるため、選択肢は教育に力を入れるか排除の二択で、優しさが向けられることはない。

留学するまで、アマリリスは気づかなかったが、公爵家としてふさわしいかが一番優先すべきことで、優しさという概念がなかった。

相手を支えられる自信がないなら、自分達が巻き込まれないように、さっと避けるべきが教えである。

優しさや情を優先しなかったから、建国から王国で唯一生き残った公爵家である。

留学により世界が広がったアマリリスだが、アイナはアマリリスの予想を遥かに超える行動をする令嬢だった。

気遣いのできるフィンリーのような優しい行動をアトラスがしないのはアマリリスの所為だと思い込んだ。


「紳士の鑑の殿下と平均のお兄様を比べるなんて……ないものが欲しいなら、喚くのではなく、自分で教えるしかないのに。娘の生まれなかった王妃様に気まぐれに与えられ続けたから、こうなったのかしら?でも、お兄様も残酷だわ。最適解を教えない私も意地悪?」

「人は見たいものだけ見るものだよ。答えは自分で出すからこそ価値があることも知っているだろう?」

「そうね。理想的な王子様を袖にして、外見だけの男に惹かれる女の気持ちなんてわからないもの」

「理想的な王子様か……」


*****


アマリリスは微笑みながら、アイナにドン引きしていた。

溺愛する息子の気持ちを知っていても、王族として迎え入れるための教育が不可能と……婚約者に選ばなかった王妃の意図も理解した。

アイナがアマリリスにいじめられると騒ぐほどアイナの立場が悪くなっていた。


「お可哀想に」

「まぁ、それは………」


落とし合いが日常茶飯事の世界で暮らすアマリリス達は、貶められても感情を見せれば見せるほど、能力のなさをアピールし、自分の評価を落とすだけである。

フェミニストの欠片もないアトラスでも、王国唯一の公爵家の当主の妻になりたい令嬢は多く、相応しくない令嬢は落とそうと動く。

一見アイナを優しく慰めているように見える令嬢達の言葉は能力がないなら身を引くように、身の丈に合わない過分な立場と遠回しに言っているのに、アイナは気づいていない。

王命での婚約でも、婚姻破棄された前例があるため、常識の範囲内で妨害はよくあることである。


「自爆……」


頻繁に婚約者の地雷を踏むアイナに冷たいアトラス。

公爵家に能力も利用価値もないものに優しくする風習もなく、庇うこともなかった。

悲劇のヒロインになりたいアイナを優しく慰めるフィンリーの噂はどんどん広まっていく。


「殿下がアイナを慰めるのも、一緒にいらっしゃるのもよくある光景でしたが、アイナが騒いでいないから今までは目立ってなかったのよねぇ……」


そしてアイナが騒ぐため、相応しく教育できていないアマリリスの評価も下がっている。


「相応しく教育できないなんて、公爵家もたかがしれているのねぇ」

「成人直前のお忙しいアマリリス様のお体は一つだ。すでに成人している伯爵令嬢の教育だけに力を尽くせるほど、暇ではないだろう?美しいアマリリス様と並ぶと見劣りするのは、仕方ない」

「アマリリス様の商会が新たな流行を作りましたのよ」

「まぁ!?王子妃教育も優秀で終了間近と聞きましたが、商会はさらに、さすがですわ」


アマリリスはアイナが下げた評判以上に、成果を上げているため、公爵令嬢として多少評判が下がっても問題なかった。

アマリリスは王太子妃に呼ばれ、二人でお茶を飲んでいた。


「噂を放置しているのはどうしてかしら?」

「私に殿下の心を癒すことはできません。公爵夫人の役割をこなせる方は他にもいらっしゃいますし、聡明な殿下に必要なのは、支えではありません」

「やはり、わざとね。恋する公爵の婚約者の座を手に入れたのに、フィンリー様を遠ざけず、フィンリー様の優しさを受け取っているなら、自業自得よねぇ。フィンリー様には長生きしていただかないと、それに国のためには優秀な公爵夫人のほうが欲しいもの」


アマリリスは王妃と後宮の権力の奪い合いをしている王太子妃を味方に引き入れた。

不治の病を持つフィンリー。

生きたいという気持ちを引き出せる存在が、人より死という存在と近くに過ごすフィンリーには必要である。

王宮に協力者を得たアマリリスは兄の悪巧みに気付いたので、薬を手に入れるのをこっそり手伝い見守ることにした。


「王妃様は正規の方法でアイナを第二王子妃に迎えようとしたら、時間をかけている間に暗殺するわ。それなら、王妃様が手を出せないように身籠らせるのが一番安全。でも、一つだけ、賭けをしたの」

「賭け?」

「婚前にアイナが寝室に忍びこむようなことがなければ、お兄様の策は破綻するわ。お互いの顔がわからないようにお兄様の寝室の雰囲気は工夫したけど、入らなければ何も起こらないわ」

「優しい殿下が手を出せるかが抜けてないか」

「エズラがボケるのは珍しいわ。婚約者とはいえ、身分の高い公爵を伯爵令嬢が襲おうとしたんだから、無事ではすまないでしょ?殿下が引き取らないなら、お兄様は嬉々として断罪するわ。殿下を脅すなんて、お兄様ったらお父様にそっくりな所もあるのね」

「そこにうっとりするんだ……」


素っ気ない婚約者と既成事実を作り、早く夫婦になりたかった伯爵令嬢は誕生日の夜に戻れない道を選んだ。

アマリリスは婚約破棄の手続きを終えた後、王太子妃の私的なお茶会に招かれた。


「アマリリスはフィンリー様を好きだと思っていたのは私の勘違い?」

「婚約者としては好ましい方でしたわ。でも、私は頻繁に病に倒れる殿下のお傍で、毎回無事を祈り、回復を待つなんて、心臓に悪い日課には耐えられません。病に苦しむ殿下をお支えできる方が相応しいです。アイナはうちとは相性が最悪でしたが、殿下とは最高でしょう?不治の病による別れに怯える私よりも、回復だけを信じ、看病できるのも才能です」

「まぁ、義母様との付き合い方がうまいものね。まぁ、大衆受けしなくても、一部に需要のある者を迎え入れれば策は広がるかしら。でも被害者ぶるのは気に入らないから、きちんと教えてあげようかしら」


アマリリスは恋はわからないが、好ましい友人のフィンリーには長生きしてもらいたい。

アマリリスはフィンリーの友人なので、アイナの幸せは考えない。

楽しそうな王太子妃の話に耳を傾けながら、弱ったアイナに弱いフィンリーの寵愛はさらに深まるだろうと思いつつも、アマリリスは心から友人の幸せを願った。



****


人生は予想通りにいかないものである。

アマリリスは友人のエズラからのプロポーズは予想外だった。

でも、アマリリスの欲しいものを用意した青年の手を振り払う理由もなかった。

アマリリスは母国の王族が増えた晩に、夫になった友人の腕の中で夜通しおしゃべりをしていた。


「アイナはお兄様に恋したけど、弱小伯爵家のご令嬢が公爵に嫁ぐなど、ファンタジーでしょ?ファンタジーを現実にするために、アイナは王妃様との縁を利用したわ。王妃様の溺愛される殿下を恋に落とし、アイナは王妃様に公爵家に嫁げるなら殿下の求愛を断ってもいいと取引したのよ。この頃の殿下はアイナに恋心を抱いても、告げる気はなかったのに」

「フィンリーの王族としての決意を鈍らせるほどのことがあったの?」

「お兄様のシスコンは有名でしょ?お兄様に溺愛される私をお兄様に恋するアイナは受け入れられなかった。私に敵意を抱き、無礼を働くならお兄様のアイナへの印象はさらに悪くなり、冷遇されるでしょう?後継は養子という手もあるから公爵夫人だからってだけで、夫婦関係が保たれる保証はない。最愛のアイナの冷遇とその原因になる私を妻に迎えた殿下はアイナを守ることも助けることもできない。無理やり嫁いだ弱小伯爵家の出身の公爵夫人は夫の庇護がなければ社交界でも生き残れないわ」

「最愛の人が幸せになる未来が欠片もないなら、全てを捨てて手に入れるか」

「そうよ。でも、能力がある殿下に国を捨てさせるなんて勿体ないから、強引でもアイナが第二王子妃に迎えられるように仕向けたの。王妃様も溺愛している息子の子を身籠ったなら受け入れるでしょう?お兄様のアイナ嫌いは有名だから、お兄様との過ちは疑う余地もないし」

「まぁ、フィンリーが手放したから、僕が君を手に入れられたけど」

「殿下は体が弱いけど、優秀だから妃のフォローはいらない。殿下とアイナが幸せになるかは二人次第。お兄様も私がいなければ新たな婚約者とうまくやるでしょ?私が側にいないほうがお兄様はしっかりするもの」

「義兄上が公爵家を捨てて亡命してくるのは?」

「ありえないわ。お兄様への手紙の返事は時々で平気よ」

「義兄上の至宝をいただいたのだから、不義理はしないよ。でも君は悪い男に惹かれるんだっけ?」

「王道の王子様も好きよ。旦那様に望むのは私より長生きかしら」


楽しそうに話すアマリリスのおしゃべりをエズラは幸せそうに聞く。

この瞬間を手に入れるまで、エズラはファンタジーの欠片もない謀をしてきたことは話さない。

アマリリスが諦めていた復学を終え、王妃となり翌年フィンリーは亡くなった。

アマリリスはフィンリーの墓参りに行くと、墓前に花を供える女性を見て微笑んだ。


「アマリリス様は大嫌いだけど、感謝はしてるわ」

「殿下の最後を看取ってくださったなら私の目に狂いはなかったわ」

「大嫌いなアマリリス様の初恋の殿下は最期まで私に夢中だったわ。亡くなってから気付くなんて」

「殿下は賢いから、貴方の気持ちなんてお見通しよ。殿下が貴方に残した財産があるんだから、お花畑のまま生きればいいんじゃない?」


アマリリスはフィンリーの墓に花束を供えた。

残された家族が不自由なく生活できるようにきちんと整えて逝ったフィンリー。

フィンリーが亡くなる前の年のアマリリスの誕生日に花束とカードが届いた。

「親愛なる友の幸せを祈っている」というフィンリーからのカードを宝箱に入れたアマリリスにエズラが嫉妬し、さらに大きな花束を贈られたのは懐かしい思い出である。

アマリリスはアイナやフィンリー、エズラのように恋焦がれるはわからない。

それでも、アマリリスが里帰りすると公爵としての機能が停止する兄ではなく、首を長くして待っているだろう夫のもとに帰ろうと思う。


「初恋は紳士な王子様、夫は変幻自在の愛妻家の王様なんて最高に幸せでしょ?」


勝ち誇った微笑みを浮かべるアマリリスを見て、アイナも勝ち誇った笑みを返す。


「愛妻家の夫自慢なら負けないわ」


アマリリスは今度の墓参りには酒と肴も用意しようと思いながら、未知の令嬢から会話が通じる貴婦人に成長したアイナと笑い合う。

フィンリーがこの場にいれば、微笑むだろう。

アマリリスを迎えに来たアトラスはアイナを見て、嫌そうな顔をした。


「アリー、迎えに来た」

「呼んでないのに」

「短気な男はモテないわ」

「は?」

「わかりました。殿下の前で喧嘩しないでください。では、また」


アマリリスはアトラスの腕を掴み、初恋の男が残念な男と気づいたアイナに手を振り足を進める。

人生何があるかわからないものである。

それでも、アマリリスとフィンリーで話したハッピーエンドに向かって歩んでいることを疑わない。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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