表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄による妹の幸せ計画  作者: 夕鈴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/2

兄による妹の幸せ計画

価値観はそれぞれである。

俺は悪女のような妹に公爵家を乗っ取られている名ばかりの公爵と世間から同情を受けている男である。

声高らかに否定するが優しい、脅されてなど、周囲は俺の言葉を本気にしない。


「お兄様、こちら、間違ってます。確認してください」

「ありがとう。アリー。どこが?」

「ここの数字が違っています」


俺の仕上げた書類を確認し、丁寧に教えてくれる賢い妹アマリリスは公爵家の守護者のような存在である。

俺が19歳の時に国中で病が流行し、俺もベッドから起き上がれない状況で領地を救ったのは当時、留学から帰って来たばかりの13歳の妹のアマリリスである。

すでに成人していた俺に爵位が引き継がれたが俺は病で動けなかった。


「お兄様、ここにサインだけくださいませ。私を公爵の代行に任命して」


熱で朦朧とした俺は可愛らしい妹の声に頷き、サインをした。

アマリリスは俺からの任命書を親戚に見せ、13歳という史上最年少の公爵代理になった。


「お元気になったら全てお話します。私が用意するもの以外は口にしないでくださいませ」


アマリリスは俺の耳に囁き、薬も食事も自ら用意し俺の看病にあたっていた。

俺の寝室に大きめの机を入れ、そこで書類の処理と看病を同時進行する華奢な妹は俺の視線に気づくとすぐに視線を向けてくれた。


「私を心配するなら、さっさと元気になってくださいませ」


目元に隈のある小さな妹の声に頷くしか俺はできなかった。

優しい看病の言葉はなかったって?

妹が睡眠時間を削って必死に戦っているのに、求めすぎだろう?


「ありがとう」

「妹ですから、当然です。お兄様は私を信じて養生してくださいませ」


アマリリスは罪悪感に襲われそうになる俺の心がわかるのか、いつも言葉をくれた。

俺達を助けようとするフリをして、公爵家を牛耳ろうとする親戚を遠ざけ、アマリリスの宝物の水晶を話し相手にして公爵家を見事に守った。

俺は緩やかに体が回復し、23歳の誕生日には完全に回復し、アマリリスの指導を受けながら公爵として取り組んでいる。


「落ちた体力と筋力はすぐには戻りません。まずは姿勢を保持して、談笑から。ダンスを公爵らしく断るのは、できるでしょう?」


アマリリスのフォローを受けながら俺は社交界に復活した。

しつこく付き纏う令嬢達や気難しい相手には優秀な妹が間に入り、俺の体力を考慮して調整してくれるおかげで、落ちた体力も徐々に戻っている。

両親が亡くなり、傾いた公爵家は優秀な妹のおかげで飛ぶ鳥を落とす勢いで資産も増えている。

公爵家としてはいいことだが、現実は甘くない。


アマリリスが公爵代理になってからさらに資産を増やした公爵家は領民の支持を得るだけでなく、王家に目をつけられ、王命で婚約者が決まった。

許しがたいのは公爵の俺だけでなく、妹のアマリリスの婚約も決めたことだ。

抗議しようとする俺は「王命に逆らうと公爵家で処理しないといけないことが増えるので、やめてください」と目元に隈のある妹に止められ、しぶしぶ受け入れた。

王家が選ぶなら婚約者はまともかと思ったら甘かった。

王家が選んだ俺の婚約者の伯爵令嬢のアイナは可愛らしいと称えられているが、俺には欠片もわからない。

俺の妹の美人で可憐なアマリリスを一方的に敵視している成人した令嬢だ。

勝手に俺の執務室に飛び込み、涙を流しながら騒ぐアイナをアマリリスは美しく微笑みながら冷たい瞳で見つめている。


「アトラス様がお可哀想。淑女はでしゃばるものでは…」

「執務室に勝手に入ってこないでください。訪問するなら先触れを出してください」

「アマリリス様、ひどい!!私はアトラス様の婚約者なのに」

「アリーではなく、俺が心から思って話しているんです。公爵夫人になるなら、もっと礼節と教養を身に着けてください。何度お教えすれば伝わりますか」

「アマリリス様に脅されていらっしゃるんでしょう」


どんな表情も気品のあるアマリリスとは正反対の子供のような癇癪持ちの伯爵令嬢アイナ。

アイナは第二王子の幼馴染で、第二王子はアイナに好意を抱いているがアイナは婚約者候補に選ばれなかった。

美しく、優秀なうちのアマリリスが王子の婚約者に選ばれてからは、アイナはアマリリスを貶めるような行動をし、アイナの非常識すぎる行動にアマリリスは軽蔑したが、公爵令嬢の義務として指摘したのに、アイナの行動は悪化するばかり。

アマリリスの指導力のせいじゃなく、正さないアイナに非があるのに被害者ぶっている。

俺は真面目な妹のストレスが心配になり、間に入った。


「世の中には相容れないものがいる。俺の婚約者だから、アリーは相手をしなくていい。教師はこっちでつけるから」

「かしこまりました」


アイナへの視線は冷たいが、俺の言葉を受け入れたアマリリスは時間の無駄と最近はアイナは見ないフリをしている。

愛など欠片もない名ばかりの夫婦でも構わないが、公爵夫人に必要な礼節は身に付けてもらわないといけない。


「なんで、私は婚約者なのにダンスに誘ってくれないの!?」

「俺はダンスが下手だから、婚約者でも下手な者とは踊れない。踊りたいなら好きに踊っていいよ。じゃあ」

「アマリリス様としか踊らないくせに!!アマリリス様はひどい!!」


エスコートしていた瞳を潤ませ騒ぐアイナの腕を解くと、アイナは飛び出していく。

品位の欠片もない。

アイナも招待されていたためエスコートしていたが、パートナーがいなくても支障はない。

追いかけないのかって?

追いかける必要もないし、妹のパートナーの第二王子が追いかけるだろうから、妹を探すほうが優先だ。

婚約が決まってから、美しく着飾った妹をエスコートする機会が減ったからエスコートできるなら役得だ。


「お兄様は容姿端麗に産んでくれたお母様に感謝すべきですわ」

「ここを抜けて、墓参りに行くか?」

「いいえ。まだご挨拶を終えていない方々がたくさんいるでしょう?しっかりしてくださいませ」


微笑みながら、教師モードのアマリリスに微笑み返し、エスコートをする。

体を押し付けてこない妹のエスコートは身体的にも楽だ。

アイナは体を密着させてくるから重いし、動きにくいし、見苦しい。

王子の幼馴染なのに、エスコートを受けるのも下手って、言葉を失うよな。


****


アマリリスをうちまで送ってくれた第二王子に感謝を告げて送り返そうとしたが、話があると捕まった。

アマリリスが用意した酒の席で俺は第二王子に命じられ人払いした。


「アイナを大事にしてくれないか」


聡明と評価される第二王子は婚約者よりも幼馴染を優先している自覚はないのだろうか。

妹に王子との関係には口を出さないで欲しいと言われているんだよなぁ。


「聞こえなかった?」

「失礼しました。きちんと教育の手配をし、支度金も送り、公爵家の婚約者に相応しいものは用意していますが」

「公爵の態度では僕はアイナを託せない」

「王家が認めてくれるなら、喜んで殿下に託しますよ。俺の最大限の譲歩が今なので、これ以上求められても……待ってください。協力します。是非、殿下が彼女を手に入れてください。うちの醜聞は気にせず、どうぞ、どうぞ」

「え?」

「俺も他の女が好きな男に大事な妹を託すのは思うところがあったんです。うちのアリーは引く手数多ですから」


第二王子と妹の関係に口は出せないが、他との関係ならいいよな?

第二王子は俺が思いついた素晴らしい閃きに、ゆっくりと頷いた。

慣習だらけの社交界でも時に既成事実さえあればなんとかなることを俺は知っている。

生家の許しを得られないから、既成事実を先に作り、婚姻し、公爵家の継承権を失った伯父のように。

亡き父上は公爵家の恥の教材としてしか役に立たない伯父夫婦の頭には花が咲いているから、過酷な現実に気付かないと呆れていた。

見たいものだけしか、認識せず、自分本位の幸せな世界に浸ろうとする俺の婚約者も同類だろう。


「公爵邸に泊まっていいの!?私の誕生日をお祝いしてくれるの!?」

「君のために催したことはなかったから。特別に無礼講にするよ」

「二人っきり!?」

「まさか。盛大に内輪でお祝いするよ」


執務室に飛び込んできたアイナを咎めず、提案すると笑顔で抱き着こうとするアイナを躱す。

飛びつこうとするアイナの重さやぶつかれば痛いだろう装飾品の衝撃に耐えるのはごめんだ。

恋人に抱き上げられ、美しい庭園の散歩に憧れると話されても、品位もないし、俺の腕力じゃ持ち上げるのも不可能だ。


「きちんと授業を受けるように。俺は予定があるからこれで」


満面の笑みを浮かべるアイナに微笑みながら、書類を片付け部屋を出る。

しばらくして追いかけてきたアイナを教育係に託し、俺の陰謀が始まった。

アイナの誕生会にはアイナの友人とアマリリスと第二王子を招待した。

無礼講のためアマリリスは挨拶だけしてすぐに退席した。

俺も途中で呼びに来るように命じていた従者に声を掛けられ、エスコートするアイナを第二王子に託し退室した。

公爵家の豪華な料理と酒に酔った客を帰すためにパーティーの終わり際に戻り、アイナを部屋まで送った。


「もう少し、一緒にいて」

「お茶を淹れようか」


俺は腕を掴んで離さないアイナに頷き、椅子に座らせ、子を宿しやすくする薬を混ぜたお茶を振舞った。

アイナが一杯飲んだのを確認し、部屋を出た。

俺の寝室は第二王子に使うように手配してあるので、俺はアマリリスの執務室に行くとアマリリスがいた。


「急な案件か?」

「目が冴えて、眠れないので片付けようと思っただけです。お兄様はどうして?」

「今夜はアリーと過ごしたくて」

「明日はお父様とお母様の命日ですものね」


仕事を片付けた妹が酒の用意をするのを手伝った。

来客用のソファに座り、俺は妹と酒を飲みながら昔話に花を咲かせた。

しばらくしてソファで意識を失った。


「お嬢様!!」


翌朝執事の慌ただしい声に目を開けると、ソファからゆっくりと起き上がる妹は美しかった。



「初めてソファで寝ました。体が痛い」

「え?アトラス様がなぜ、ここに!?」

「騒がしい。なんだ、災害でも起こったか?」

「アトラス様の寝室に、でも、」

「俺の寝室?行けばいいか。アリーは準備を整えてから、朝食の席で会おう」


俺が寝室に向かうと、ベッドでぐっすりと眠る第二王子と、その腕の中にはアイナがいた。

俺は笑いたくなるのを我慢して、真剣な顔を作った。


「お兄様、あら?これは、」

「え?どうして?」

「おめでとうございます。とりあえず、医師を手配しましょう」


互いの婚約者の不貞にも冷静なアマリリスが、驚いた顔をしているアイナに微笑み、侍女に命令を出した。

俺はアマリリスにアイナ達を任せ、王宮に謁見願いの申請を出した。

色々あったがアイナは見事身籠り、俺達の婚約は破棄されることが決まった。

国王陛下の生誕祭で公表され、冷酷な公爵家から虐げられる被害者の令嬢を救った第二王子の無理やりな美談が囁かれている。

聡明な第二王子の予想外のスキャンダルに絶句する者も多いが、生誕祭で一番の話題をさらったのは隣国の王太子だった。


「このたびはおめでとうございます。友好のため―――」


来賓からの陛下への祝辞を聞き流していると、突然周囲の空気が変わった。

季節外れのアマリリスの花束を持った隣国の王子がアマリリスの前に跪いた。


「お慕いしています。どうか、僕の妃になってください」

「お待ちください。いきなり妹に、求婚って、」


アマリリスを背に庇い、王子の前に立った。


「お兄様は黙ってください」


俺の背から出てきたアマリリスは花束を受け取った。

花束の中の手紙を開き、頷いたアマリリスが微笑んだ。


「よろしくお願いします。季節外れのアマリリスを育てるなんて流石です」


第二王子に婚約破棄された冷酷な公爵令嬢は、強国の未来の国王の妃の座を手に入れた。

アマリリスに求婚した王子エズラは、大人しげな外見に反して兄王子を圧倒的な知力で追い落とした男だった。


「アマリリスに相応しくなるには、世界征服でもしたほうがいいと思ったけど、時間がかかるだろう?アマリリスが誰かのものになる前になれそうなのが、アマリリスの母国で一番力を持つ男より価値のある男と思ったんだ」


うちの国王よりも価値があるという隣国の王太子の言葉は、歴史も国土も技術、全てで劣るうちでは反論できなかった。

アマリリスが喜んだ手紙には愛の言葉ではなく、公爵家との契約について書かれ、うちの利が詰まったものだった。

アマリリスが嫁ぐのは寂しいが、幸せそうだからいいか。


「エズラにならアマリリスを託せるよ」

「手放してくれて感謝する。幸せにするよ」


元婚約者と夫となる男が親しそうに結婚式で話す場面は妹の好きな言葉であるファンタジーかもしれない。

妹を貶めたがるここよりも、絶対権力者の夫に溺愛される国のほうが幸せに過ごせるかもしれない。

花嫁を抱き上げ、馬車に乗せるという選ばれた男達にしかできない場面を再現する義弟と幼い頃から苦労した妹の旅立ちに号泣したのは仕方がない。

俺の隣でそっとハンカチを差し出す、新たな婚約者の隣国の公爵令嬢はアマリリスのファンなのでうまくやれている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ