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第75話 届いた傷


 モラクスが動きを止めた。


 


 


 静寂。


 


 


 


 血が、一滴。


 


 


 


 鎧を伝って落ちる。


 


 


 


「……通った」


 


 


 


 マキが呆然(ぼうぜん)と呟く。


 


 


 


 ミカも息を呑む。


 


 


 


 ユナの目が見開かれる。


 


 


 


 


 モラクスは無言だった。


 


 


 


 


 ゆっくり。


 


 


 


 


 指で傷をなぞる。


 


 


 


 


 そして。


 


 


 


 


「……へぇ」


 


 


 


 


 笑った。


 


 


 


 


「いいじゃねェか」


 


 


 


 


 ゾクリ。


 


 


 


 


 空気が震える。


 


 


 


 


 さっきまでとは違う。


 


 


 


 


 少しだけ。


 


 


 


 


 本気度が上がった。


 


 


 


 


「下がれ!」


 


 


 


 


 ヒロが叫ぶ。


 


 


 


 


 次の瞬間。


 


 


 


 


 ——ドンッ!!


 


 


 


 


「っ!?」


 


 


 


 


 見失う。


 


 


 


 


 速い。


 


 


 


 


 モラクスの拳。


 


 


 


 


 ヒロがギリギリで反応する。


 


 


 


 


 風を裂く。


 


 


 


 


 逸らす。


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


「がっ……!」


 


 


 


 


 衝撃が抜けきらない。


 


 


 


 


 身体が吹き飛ばされる。


 


 


 


 


「ヒロ!」


 


 


 


 


 ユナが叫ぶ。


 


 


 


 


『フィールド!』


 


 


 


 


 防壁(ぼうへき)展開。


 


 


 


 


 その直後。


 


 


 


 


 モラクスの(こぶし)が叩き込まれる。


 


 


 


 


 ——バキィッ!!


 


 


 


 


「きゃっ……!」


 


 


 


 


 フィールドが大きく(きし)む。


 


 


 


 


 ユナの顔が青ざめる。


 


 


 


 


「ユナさん!」


 


 


 


 


 マキが叫ぶ。


 


 


 


 


『プロテクト!』


 


 


 


 


『リカバリー!』


 


 


 


 


 支援魔法が重ね掛けされる。


 


 


 


 


「へぇ」


 


 


 


 


 モラクスが笑う。


 


 


 


 


「そっちの嬢ちゃん、いい支援するな」


 


 


 


 


「褒められても嬉しくないッス!」


 


 


 


 


 マキが叫び返す。


 


 


 


 


 その瞬間。


 


 


 


 


 ミカが突っ込む。


 


 


 


 


「スパイラルドライブ!!」


 


 


 


 


 回転。


 


 


 


 


 加速。


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


「おっと」


 


 


 


 


 モラクスが初めて避けた。


 


 


 


 


「……!」


 


 


 


 


 ミカの目が見開かれる。


 


 


 


 


 今までなら受けていた。


 


 


 


 


「避けた……?」


 


 


 


 


「いいねェ……!」


 


 


 


 


 モラクスが笑う。


 


 


 


 


「その殺す気」


 


 


 


 


「最初よりずっといい!」


 


 


 


 


 踏み込む。


 


 


 


 


 拳が放たれる。


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


「左!」


 


 


 


 


 ヒロが叫ぶ。


 


 


 


 


 ミカが即座に反応。


 


 


 


 


 回避。


 


 


 


 


 そこへ。


 


 


 


 


 ヒロの腕が動く。


 


 


 


 


 ——ヒュンッ!!


 


 


 


 


 鋭い風刃。



 


 


 


 


 モラクスの動きが、わずかにズレる。


 


 


 


 


「そこッス!!」


 


 


 


 


 マキの支援。


 


 


 


 


 加速。


 


 


 


 


 強化。


 


 


 


 


 ミカの回転がさらに増す。


 


 


 


 


「スパイラルドライブッ!!」


 


 


 


 


 直撃。


 


 


 


 


 今度は深い。


 


 


 


 


 鎧が裂ける。


 


 


 


 


 血が噴き出す。


 


 


 


 


 モラクスの身体が、わずかによろめいた。


 


 


 


 


 沈黙。


 


 


 


 


 そして。


 


 


 


 


「……ははっ」


 


 


 


 


 モラクスが笑う。


 


 


 


 


 心底楽しそうに。


 


 


 


 


「なるほどなァ」


 


 


 


 


「思ったよりやるじゃねェか」


 


 


 


 


 肩を回す。


 


 


 


 


 傷口から血が流れる。


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


 それでも余裕は消えない。


 


 


 


 


 傷口を見下ろす。








 そして笑った。








「今日は十分楽しめた」


 


 


 


 


 ヒロを見る。


 


 


 


 


 ミカを見る。


 


 


 


 


 ニヤリと笑う。


 


 


 


 


「次はもっと殺す気で来い」


 


 


 


 


「……」


 


 


 


 


 ヒロが(にら)み返す。


 


 


 


 


 すると。


 


 


 


 


 モラクスはちらりと腰の剣を見る。


 


 


 


 


「次は」


 


 


 


 


「コイツらも使ってやる」


 


 


 


 


 ゾクリ。


 


 


 


 


 全員の背筋が凍る。


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


 モラクスは笑ったまま背を向けた。


 


 


 


 


「死ぬなよ」


 


 


 


 


「せっかく面白くなってきたんだからなァ」


 


 


 


 


 霧の奥へ。


 


 


 


 


 巨大な背中が消えていく。


 


 


 


 


 静寂。


 


 


 


 


 その瞬間。


 


 


 


 


「……はぁっ」


 


 


 


 


 ユナが膝をついた。


 


 


 


 


 フィールドが消える。


 


 


 


 


「ユナ!」


 


 


 


 


 ヒロが駆け寄る。


 


 


 


 


「だ、大丈夫……」


 


 


 


 


 だが顔色は悪い。


 


 


 


 


「ヒロさんも!」


 


 


 


 


 マキが慌てて回復魔法をかける。


 


 


 


 


「……生きてるネ」


 


 


 


 


 ミカが笑う。


 


 


 


 


 口元の血を拭いながら。


 


 


 


 


「でも」


 


 


 


 


 その目は鋭い。


 


 


 


 


「次はもっと強くならないとダメネ」


 


 


 


 


 ヒロは無言だった。


 


 


 


 


 拳を握る。


 


 


 


 


 震えていた。


 


 


 


 


 恐怖。


 


 


 


 


 興奮。


 


 


 


 


 そして——


 


 


 


 


 確かな実感。


 


 


 


 


 少しだけ。


 


 


 


 


 届き始めている。

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