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第10話 束の間の静けさ


 街へ戻る道中。


 


 ヒロは、ふと森の奥を振り返った。


 


(……なんだったんだ、あれ)


 


「……なあ」


 


「ん?」


 


「さっきの子、結局なんだったんだろうな」


 


 白い少女。


 


 あの違和感。


 


「……分からない」


 


 ユナはすぐに答えなかった。


 


 少しだけ間を置いてから、そう言った。


 


「この辺りで見たことないし」


 


「だよな」


 


 ヒロは軽く頷く。


 


「迷子……って感じでもなかったしな」


 


「……うん」


 


 


 少しの沈黙。


 


 


(まあ、分からないもんは仕方ないか)


 


 


「ヒロ」


 


「ん?」


 


「しばらく、あまり奥には行かないで」


 


 ユナの声は、いつもより少しだけ強かった。


 


「危ないから?」


 


「……うん、それもあるけど」


 


 言葉を濁す。


 


 


(やっぱ、何か知ってる感じか)


 


 


「まあ、分かった」


 


 ヒロはあっさりと頷いた。


 


「無理するつもりもないしな」


 


 


 ユナは小さく息をつく。


 


 ほんの少しだけ、肩の力が抜けたようだった。


 


 


 街に入る。


 


 いつもの喧騒。


 


 人の声。


 


 日常。


 


 


「……なんかさ」


 


 ヒロは空を見上げた。


 


「普通にこうしてると、全部夢みたいだな」


 


 


(でも、痛みはちゃんとあったしな)


 


 


「夢じゃないよ」


 


 ユナはすぐに言った。


 


 


「……そうだな」


 


 


 ヒロは軽く笑う。


 


 


 その横で。


 


 


 ユナの手が、そっとヒロの袖を掴んでいた。


 


 


「ヒロ」


 


「ん?」


 


「……どこにも行かないでね」


 


 


 その声は、小さくて。


 


 


 けれど、はっきりしていた。


 


 


(……そんな顔するなよ)


 


 


「行かねえよ」


 


 ヒロは軽く答える。


 


 


「……うん」


 


 


 ユナはそれ以上何も言わなかった。


 


 


 ただ。


 


 


 その手は、しばらく離れなかった。


 


 


 ——数秒後。


 


 


「……ほんとに?」


 


「ん?」


 


「いや、その……」


 


 


 ユナは少しだけ視線を逸らす。


 


 


「私がいなくても、ちゃんと帰ってくる?」


 


 


「当たり前だろ」


 


 


 即答。


 


 


(まあ……帰ってくるしかないしな)


 


 


「……ふーん」


 


 


 ユナは小さく頬を膨らませた。


 


 


「もうちょっと悩んでもよくない?」


 


 


 そのとき。


 


 


 遠くで、何かが弾けるような音がした。

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