第8話 双耀の道を行く者
最終試練――勝った者こそがカイの伴侶として認められる。
黄金の道は、愛する者と共に生きる未来。
蒼の道は、力を得て国を救う未来。
ミラは即断で一つを選び、ユータは迷い抜いた末に、誰も知らない“第三の道”を切り拓く――。
クラヴィスの低く響く声が、大広間を満たした。
「第二の試練はここまでだ……次は、最終試練」
その言葉を合図に、天井の燭火が揺らぎ、魂の灯珠が強く脈動する。
床の中央に浮かび上がるのは、これまでとは異なる、光の糸を複雑に編んだ転移陣。近づくほどに胸の奥を握られるような圧迫感が増していく。
その時――大広間全体に、性別も年齢も感じさせない澄んだ声が響き渡った。
『これまでの試練は、力や才覚を見るにすぎぬ。
しかし、最終試練で勝った者こそが、カイの伴侶として認められる』
観覧席がざわめき、ユータは小さく息を呑む。
(……つまり、この一戦で全てが決まるってことか)
「“魂誓”の儀の核心だ」
クラヴィスの言葉に、隣でミラが意味ありげに笑む。
「最後は、飾りや言葉じゃ通らない。本当に何を守るか……魂に突きつけられるの」
右のセーラが「ドキドキするわね〜♡」、左のグランマは「泣き言を言う暇もなく終わる」と笑う。
クラヴィスの合図で、ユータとミラはそれぞれ転移陣の上に立った。
瞬きする間もなく光が視界を覆い、足元の感覚が消える。
身体がどこまでも落ちていくような感覚――。
やがて、ふっと足が地を踏む。
そこは、空も地も境界がなく、白一色の無限空間だった。
『汝はただ一度きり選べ』
精霊の声が澄んだ響きで告げる。
『愛する者と共に行くか、己の望みを叶えるか』
ミラの前に二つの道が現れた。
左の道は、凍てつくような蒼の輝きに満ち、城門と玉座が遠くにそびえる。
国を守る地位と力を得るが、カイを永遠に失う道。
右の道は、春の陽だまりのような金色の光に包まれ、そこではカイと肩を並べて笑い合う自分がいた。
だが、その未来には貴族としての栄光も、国を導く地位もない。
「……ミラ、本気で迷うまでもないだろ」
左のグランマが低く呟く。
「栄光と力を捨ててどうする。国を守る責務を忘れたか」
「そうそう、絶対こっち(左)よ!」
右のセーラが身を乗り出す。
「だって玉座よ? 輝く未来よ? そっちを捨てて男一人に賭けるなんて――」
ミラは両隣の言葉を聞きながら、ほんの一瞬だけ視線を左右に揺らした。
玉座の先に広がる国の未来。
カイと笑い合う穏やかな日々。
「……」
沈黙の後、ミラはふっと口角を上げる。
「そんなの、決まってるじゃない」
両脇が一斉に「え?」と声を揃える中、彼女は迷わず右の道へ歩を進めた。
「私は――カイと共に行く」
その声には、彼女がこれまで隠し通してきた想いが、鮮やかな色を帯びて滲んでいた。
同じ白の世界の別次元――ユータもまた、二つの道の前に立っていた。
右の道は金色に輝き、遠くに笑顔のカイが立っている。穏やかな暮らしと引き換えに、建築士としての力はすべて失う。
左の道は蒼い光に包まれ、国を救う壮大な都市計画が完成した景色が広がる。力は限界を超えて覚醒するが、そこにカイはいない。
金色のカイが、真っ直ぐにこちらを見つめて告げる。
「……俺はいい。左へ行け。
お前の力で、国を救ってくれ。それが……俺の本当の願いだ」
その低く穏やかな声には、揺るぎない説得力と優しさが宿っていた。
胸の奥が熱く締め付けられ、ユータは思わず視線を落とす。
(……そうだ、これがカイさんらしい。俺ひとりじゃなく、多くを守れって……)
――その時だった。
左腕に、布がかすかに触れる感覚が蘇る。
あの時、少し照れたように笑いながら、傷を覆うように巻いてくれた黒いバンダナ。
指先が結び目を押さえた瞬間の温もりが、今も確かに残っている。
(……本当に、それだけがカイさんの“本心”なのか?)
脳裏に、誰もいない夜道でふと見せた横顔や、何気ない会話に滲む優しさがよみがえる。
(心のどこかでは……僕と生きる未来を望んでくれてるんじゃないのか?)
ユータは深く息を吸い込み、両の手を広げた。
右手は金色の光へ、左手は蒼い輝きへ――それぞれの光を掴み取るように手を伸ばす。
瞬間、二つの光が掌の中で渦を巻き、熱を帯びながらひとつに混ざり合った。
足元に新たな光の筋が伸びていく。
右にも左にも属さぬ、中央を真っ直ぐ貫く道。
「……僕は、どっちも諦めない」
その言葉とともに、足は迷いなく中央を進む。
一歩ごとに光が形を成し、金と蒼が溶け合って、眩い白金色の道となる。
やがて、その先に今まで存在しなかった巨大な扉が立ちはだかった。
荘厳な光に包まれた扉の上には、古代文字でこう刻まれている――
『双耀の道』
ユータは迷わず、両手でその扉を押し開けた。
転移の光が消え、ユータは再び大広間に立っていた。
同じくミラも戻ってくる。
その時、澄んだ声が響き渡った。
『勝者――ユータ=ミナト。汝は“双耀の道”を選び取った者なり』
「……双耀の道?」
聞き慣れない響きに、ユータは思わず小声で呟く。
すると、玉座から立ち上がったクラヴィスがゆっくりと歩み寄り、口元に笑みを浮かべた。
「双耀の道――それは、光と闇、相反する二つの道を一つに織り上げた者のみが辿り着ける、王の資質を示す道だ」
「王……の資質……?」
クラヴィスが低く笑う。
「……ふふ、楽しませてくれるじゃないか、ユータ」
そして、堂々と宣言する。
「よって――ユータとカイの婚礼を認める」
ミラは肩をすくめ、潔く笑った。
「完敗よ。まさか第三の道を自分で作るなんて……おめでとう」
カイは事態の急展開についていけず、きょとんとしながらも頬を赤らめている。
クラヴィスはさらに言葉を重ねた。
「ユータ……さらに追加するとお前は、魔王となる資格を得た」
「かつて我やルシアスも、この中央の道を創り出し、魔王となった。」
その道を歩いたということは……お前は、王となる資格を得たということだ」
「――えぇぇっ!?、僕が……魔王?」
大広間に、ユータの驚きが響き渡った。
──つづく。
最終試練は、ただの伴侶選びではなく“王の資質”を問うものだった――。
次回、突然告げられた「魔王となる資格」にユータはどう動くのか?
カイとの関係にも、大きな変化の予兆が……!




