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第23話 恋の嵐、魔王城を駆ける

冷徹と呼ばれた男が、ついに本気で恋に落ちる──!

 カイとユータの関係に大きな変化が訪れた夜、しかしその裏では、新たな魔王領の影が忍び寄る。静かな日常が、恋と危機の嵐に巻き込まれていく第23話です。

北の魔王城・謁見の間。


「──で、それで、それで!?」


 クラヴィス=ゼル=ノルドは玉座の上から身を乗り出し、エクレオ=バントラインの報告を今か今かと待ち構えていた。


 エクレオは得意満面で両手を広げ、


「いや〜! カイさんが、夜の森をぶっちぎりで駆け抜けて! “絶対助ける”って、もう恋の全力疾走! で、ユータさんを助けた瞬間、もうギュ〜って、そんでもう……」


「キスか?」


「はいっ! キスです! あれはもう……ふたりの間に“愛の魔力嵐”が吹き荒れてて……周囲の木々の葉っぱもビリビリ震えて……!」


 クラヴィスの側近たちが、ざわ……と驚きと興味の入り混じった視線を送る。


「あのカイ様が……まさか……?」

「冷徹の代名詞が、恋に堕ちたのか……?」


「……見事だ」

 クラヴィスは、ふっと口元に柔らかい笑みを浮かべる。

「冷徹な男ほど、恋すれば美しいものだ。我々は、静かに見守ることにしよう」

周囲の側近たちは、呆然としたまま言葉を失っていたが──

 一人、クラヴィスだけがどこか満足げな瞳で遠い空を見上げていた。


「それで、ユータとカイは──今、どうなっている?」


「えっと、それが……」


***

 あの夜。

 カイに縛られた縄を解かれて、そのまま強く強く抱きしめられた。


「無事でよかった……!」


 全然クールじゃなくて、震えるほど必死なカイの腕。

 その熱さに、自分でも驚くほど涙が溢れた。


「もう絶対に離さないから」


 泣きじゃくりながら、やっと心の奥にしまっていた想いが口を突いて出る。


「……カイさん、好きです」


 その瞬間、カイの瞳が大きく揺れて、次の瞬間には勢いよく唇を塞がれていた。


 激しい。あたたかい。

 初めてなのに、なぜか全てを受け入れたくなる衝動。

 だけどあまりに熱烈で、息が続かなくて──


「か、カイさん……ちょ、ちょっと待って……!」


 押し倒されそうになって、とっさにストップをかけてしまった。

 カイも我に返って、顔を真っ赤にして、そのままお互い黙り込んでしまった。


(……恥ずかしすぎて、顔見れない……)


 一方でカイも、自らのやってしまったことに頭を抱えていた。


(……やりすぎた、絶対やりすぎた……)

(嫌われてない……よな? あんなに、抱きついて、キスまで……)


 心臓の鼓動が、まだ収まらない。

ふたりはしばらく無言のまま、互いに顔を見られずにいた。キスの余韻が空気に溶けて、そっと静寂を包み込む。


 ──そのとき、ドタドタッと慌ただしい足音が響いた。


「ユータ! カイ! 無事か!」


 事務所の扉が勢いよく開き、ルシアスとセリアが駆け込んでくる。


 ふたりは急いで身を離すが、ほてった頬も、互いの呼吸も、どうにも隠せない。


 ルシアスが目ざとく二人を見比べ、口元にわずかに笑みを浮かべた。


「……無事でなによりだった。だが、今回の一件、我々にも責任がある。危険な目に遭わせてすまなかった」


 セリアも深々と頭を下げる。


 ユータは慌てて姿勢を正し、「大丈夫です」と少しぎこちなく微笑んだ──胸の中でまだ、先ほどの衝撃がくすぶっているまま。


「ただ──」


 セリアは、ふと足元に目をやった。


「……これは?」


 彼は床の隅に落ちていた小さな金属片を拾い上げる。手袋で埃を払い、刻印をじっと見つめた。


「ルシアス様、これ……“南の魔王領”の紋章です」


「なに?」


 ルシアスとユータもすぐに顔を寄せて、それを確かめる。


「間違いない、南の魔王の印だ……」


 ユータは思わず息を呑む。


 ルシアスもセリアも、改めて真剣な眼差しで金属片を見つめた。


「……まさか南の魔王領が関わっているとは。想像以上に厄介な事態だな」


 セリアも静かに頷く。


「この件は、今後も警戒が必要です」


 しばしの沈黙のあと、ルシアスは少しだけ表情を和らげ、ユータの方へ向き直った。


「ともかく、ユータ。今後はカイを“正式な護衛”として、お前の身辺を守ってもらう。四六時中──いや、寝ても覚めても一緒だ。……なぁ、カイ?」


 その言い方は、ただの命令というより、半ばからかい混じりだ。


「もちろん、ユータのこと、ちゃんと見守ってやれよ? 手抜きは許さんぞ?」


 突然話を振られたカイは、一瞬、顔を上げることもできずに固まった。

 その耳は、みるみるうちに朱に染まっていく。


「……は、はい。全力で……」


 いつもクールなはずのカイが、あきらかに動揺し、口元まで引きつっている。

 周囲の空気が、ふわっと温まったような気がした。


 ルシアスはユータの方にもウィンクを送る。


「ま、何かあったらすぐ報告しろよ? “ふたりの進捗”も、な?」


「ルシアス様、それは……!」


 ユータも思わず赤面し、俯いてしまう。

 エクレオが「推しカプ、公式誕生でーす!」と満面の笑みで両手を叩き、現場の空気は、どこか微妙な緊張と照れに包まれた。


***


 そんな中、セリアの手元に急報が届く。


「失礼します! 南の魔王領より、武装した魔族の一団が国境を越え、東領へ進軍中とのことです!」


 一瞬にして、あたたかな空気が張り詰める。


 ルシアスは表情を引き締め、即断した。


「……こうしてのんびりしている場合じゃなくなったな。全員、城へ戻る。状況を整理して、至急対策会議を開くぞ!」


 その声には、魔王としての迫力と、現場を束ねる冷静さが滲んでいる。


「セリア、先行して情報を集めてくれ。カイ、ユータの護衛を最優先だ。……みんな、急ぐぞ!」

その場に緊張が走り、誰もが、これから始まる嵐の予感をひしひしと感じていた。


──つづく


 ついにカイからユータへの熱烈な想いが暴走! クールな護衛が、恋に振り回される姿はどうでしたか? そんな中で南の魔王領から不穏な進軍。ふたりの関係も、東の国の運命も、大きく動き始めます。

 次回、恋と戦火の行方をぜひお楽しみに──!

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