第24話 策士ユータ、恋と村を守る!
東の魔王領に迫る南の大軍。
仲間たちと積み重ねてきた“共存”の村を守るため、ユータは建築士としての知恵と覚悟を武器に、未曾有の脅威へ立ち向かう。
数と力では敵わない状況で、希望の光となるのは“知恵”と“絆”──
そして、誰かを守りたいという強い想い。
新たな危機、そして新たな決意の幕が上がる──!
南の魔王領──。
玉座の間には、かすかな香の煙が漂い、壁には奇怪な仮面や黒曜石の装飾品がずらりと並んでいた。
高い椅子にふんぞり返るのは、痩身で鋭い目をした男──バルバロス=ネリア。
彼の長い指先が、肘掛けを小さく叩くたび、場の空気がじわりと重くなる。
「……東の連中、どうやら調子に乗っているようだな」
バルバロスの言葉に、控えていた側近、グリム=アザリエが静かに膝を折った。
「はい。フードコートにカプセル魔宿……人も魔族も東へ集まり、我が領からの流出も増加傾向にございます」
「はっ、まったく……」
バルバロスは苦々しげに唇を噛む。「商人も旅人も、みんなあっちへ。なぜだ。娯楽? 快適? ──くだらん!」
「ですが、今、我らが本気で動けば──東など、ひとたまりもありません」
「うむ。少し、思い知らせてやるさ。こちらを敵に回せばどうなるか、あの“薄ら笑いの魔王”にも、身をもって知ってもらわねばな」
バルバロスは冷たい笑みを浮かべた。「進軍だ。軍勢は……一万でいい。戦そのものが目的じゃない。あくまで“圧”をかけ、奴らの繁栄の芽を摘む。それだけだ」
「御意──」
グリムは頭を垂れ、静かに命を下された。
***
東の魔王領・軍議室。
ルシアス=アークレイドの声が、いつもより低く響く。
「……南の軍勢、一万。主力部隊は西端の街道に布陣。どうやら、ここ《トネリコの里》を狙っているな」
円卓を囲み、セリア=クロードが書類を読み上げる。「相手の指揮官は不明ですが、布陣を見るかぎり、数と勢いで押し潰すつもりでしょう」
部屋の空気が緊張に包まれる。
ユータは、胸の奥がざわめくのを感じた。
(ここで負ければ、村も、人も、魔族も……せっかく生まれた“共存”が終わってしまう)
「よし、正面から叩き潰すぞ!」
ルシアスが腕を組み、目を光らせた。「東の誇りを見せてやる!」
「……他に手はないのか」
セリアが低く呟き、資料をめくる。
「まともにぶつかれば被害は避けられません。何か、策があれば……」
その静寂の中、ユータは迷いながらも、そっと手を上げた。
「あ、あの……」
一瞬みんなの視線が集まり、ユータは小さく身をすくめる。
「その……建築の知識を活かせば、まだ工夫できるかもしれません」
「ほう、聞こうか」
ルシアスが意外そうに顔を向ける。
「……失礼します。村の地形と資材を使えば、“迎撃”以外にも方法があります」
ユータは図面と、即席の模型を広げる。
「まず、本陣の前に“段層式の簡易防壁”を築きます。
普通の壁じゃありません。村の斜面を使って、高さと角度を変えた土塁や木柵を階段状に配置する。
これで敵の隊列を細かく分断できます。勢いを殺し、密集を避けることで、“数”の利を削る作戦です」
ルシアスが身を乗り出す。「なるほど、敵の波を段差で分断し、まとまって攻め込めなくするわけか」
「はい。そして、村の北側──敵の目につきやすい場所に“木造のバリケード”を設置。
そこに偽の旗や煙を立て、“こちらが本陣だ”と錯覚させる。敵の主力部隊の注意をそちらに引きつけて、分散させます」
セリアが眼鏡を押し上げる。「陽動……心理的効果も狙えるのか。だが、材料や時間は?」
「木材は現地調達。斜面は“段層型シェア農園”の建設で培ったノウハウを流用します。ゴーレムたちも総動員で、徹夜で仕上げます」
「現実的かつ、面白い」
ルシアスは満足そうに頷いた。「よし、やってみよう! カイ、お前はユータの護衛兼補佐だ。何かあれば即報告せよ」
「了解──」
隣に立つカイは、思わず胸が熱くなるのを抑えられなかった。
(……あんな状況でも、村や人のために頭を働かせてる。やっぱりユータはすごい)
知らず知らずのうちに、カイの表情がどこか誇らしげになっていた。
「……ふっ、見たか、俺の──」
ぼそっと呟いた瞬間、隣でエクレオがひょいっと顔を寄せてくる。
「カイさん、今の顔、完全に“彼氏ヅラ”ですよ?」
「なっ……!」
「はいはい、もうバレバレですって。そんな顔で見守ってたら、周りに全部伝わってますからね~」
カイは咳払いして視線を外すが、耳まで赤くなっていた。
カイの横顔をちらりと見て、ユータも少しだけ顔を赤らめる。
(……守られてばかりじゃ、だめだ。今度は僕が、みんなを守る番だ)
***
会議が終わると、エクレオが明るく声を上げた。
「設計主任! 段層式防壁の設営チームは、私にお任せくださいね~! それと、もし敵にイケメンがいたら、とりあえずスカウトしときますから☆」
「……エクレオ、余計なことはしなくていい」
「えぇ~、本気でいく気満々なんですけどぉ?」
場が一瞬だけ和んだ。
だが、すぐにユータはゴーレムたちを引き連れ、村の地形を測量し始めた。
斜面に杭を打ち、ロープで段差の角度を確認する。
カイはユータの側を離れず、警戒を怠らない。
夜になっても作業は続いた。松明の明かりの中、ユータの声が響く。
「いいぞ、ムク! カク、そこもう少し締めて! サラ、バリケードの設計は君に頼む!」
「ははっ、現場監督がはりきってるッスね」
「美的センスは妥協できませんので!」
***
翌朝。
見事な段層防壁と陽動バリケードが完成していた。
村人たちは、不安と期待の入り混じった表情でその光景を見上げていた。
「さあ、来い……!」
ユータは、手にした図面をぐっと握りしめた。
(大丈夫。僕たちには、仲間と、知恵がある──)
カイも、すぐそばで小さく頷いた。
「必ず、守ってみせる」
ふたりの心に、小さな火が灯る。
やがて、南の大軍の足音が、地響きとともに迫り始めた──。
──つづく
大切なものを守るために、逃げずに立ち向かうユータと仲間たち。
“戦い”の本質は、力だけではない。知恵と工夫、そして人と人とが支え合う心が、この世界を変えていく。
いよいよ始まる東西魔王領の激突。
そして、その渦中で少しずつ深まる、ユータとカイの絆。
次回、激戦の幕が切って落とされる──お楽しみに!




