93話 誕生日前夜祭
今日は土曜日。
やっと休み。今日は予定があってドール関係も撮影も無し。もっとも、予定が無くても気を遣ってやる事ができない。いくら気を遣わなくて良いよとか好きな事して良いよとか言われても相手の本心が分からないから気を遣うのだ。フリマの事は初ちゃんに任せっぱなしで申し訳ないけれど、異世界でなら自由だし、そちらで商品は作ろう。
「そうだ。今度村瀬さんを招待した方が良いのかな……。バーベキューかピザパどちらが良いだろう。初対面だし自分で焼けるバーベキューのが良いかな。」
「うーん。この前飲みに行った時奢ったし、お礼はちゃんとしてるよ。」
この人はなんでそうも私を職場の人と合わせたくないのだろうか。そんなに私って信用無いのか。人付き合いは得意とは言えないけど、お世話になってお返し無しは気を使ってしまう。
あれ?外に気配がある。今日は1人だけだ。
家の窓から見える場所には居ない。千里眼ごしには鑑定できない。実際に遭遇しないと居ることを家族に伝えられないので様子を見に行くか迷うが…。
今日のお昼は息子の誕生日前夜祭(お昼だけど)をやるつもりだから、それが終わるまでは伝えないでおこう。こんな時まで考えなくちゃいけないのは可哀想だ。
今日は家族でささやかなパーティである。何故今日なのかというと、明日息子はデートなのである。
誕生日は明日だからまだお酒は飲めないのが残念だ。
エビパンと、鹿のローストとアボカドのサラダパスタ、そしてミネストローネ、スモークサーモンのカルパッチョ。デザートはフルーツタルトである。
「何これオシャレかよ!うめー!」
ガッツリ派の息子が意外なまでに喜んでいる。
「お誕生日おめでとう。」
「おめでとう。これプレゼント」
夫が息子にちょっと良さげな財布を渡す。
幸せだなあ。この幸せを守りたいから、私は少しでも良き妻良き母で居ようとせねば。
パーティが終わる頃には外に女子の気配は無かった。
異世界。
今日はバローマの拠点に唯花と一緒にやってきた。結界に人は入れないけど、手紙は入れられる様にポストをつけた。これで商業ギルドからの連絡は受け取れる。
その後庭を耕して雑草とカニや海老の殻を乾燥させたものをまぜ、耕した土に混ぜて果物の皮や小麦ふすまを入れ無魔法で混ぜたり捏ねたりして醗酵させ堆肥にする。ここは魔力は少ないけどゼロでは無いから、聖域の土や植物魔法は使わずに試験的に薬草を育ててみよう。
「唯花、神様が何で私をここに呼んだか聞いてる?」
唯花が自分から言って来ないのを良い事に今まで見て見ぬふりしていた事だ。
「私は直接話した訳ではないので分かりません。ただ私の中にある知識によると、聖域から出ずに1人で過ごした人は居なかったみたいです。歴代の転移者達は地球に帰れなかったみたいで、食料確保のために聖域から出る他無かった様です。英雄譚になる様な冒険をした人は文献に残っていますが、教育や物作りを広めようとした人が多いにも関わらず、何故かその転移者が亡くなったら廃れてしまうらしく、神様は残念に思っている様です。」
神様はこの街を発展させたい様だけれどやり方がまずい。
「それは発展する土台が無いから廃れるんだよ。私1人がチートで何か作れても、ここの人達が作れる様にしないと維持するのはきっと無理だよ。」
転移者があまりに破格の能力すぎてこの世界の人に寄り添えないんだ。現地の人が何をできて何ができないかを知らなければまず無理だと思うし、一部の人間が技術を磨かず即錬金術でできてしまう様では発展するはずがないのだ。
おそらく神様は、私が地球から何か持って来られる様にアイテムボックスを持たせたんだろうけれど、そんな事をすれば余計に発展を妨げる事になる。
夢でしか転移できない制限をつけたのは、発展はさせて欲しいけど侵略をさせない為だろうか。
「エリザさんにも聞いたけど、今は転移者は居ないんだよね。」
「すみません。居ないのか転移を秘匿しているのかはわかりません」
一瞬他の転移者と協力や情報共有できたらとも思ったけれど、相手の人間性を見るまでは無理だね。
「私だけ帰れるのを知られたら地球に戻せと脅されるかも知れないから、転移者が居ても自分からは絶対に接触しようとしないでね。」
「それは恐らく大丈夫ですマスター。ここへ連れてきた他の人達は地球で絶望して自死しようとした人ばかりなのです。」
「え、待って。私絶望とか無いよ。めっちゃ幸せに生きてるけど。」
謎だ。何故私が選ばれた。




