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第二話

「ったく、どこにあるってんだ!

 歩いても歩いても、あるのはくそったれな木ばっかりだ!」


 鬱蒼と茂った森をジンは進みながら大きな声で悪態ををつく。言葉は木々に跳ね返り苛立ちさを増しているかのようだった。

 そのジンの様子に呆れながらも、自身も同じ心境なのか、何も言わずジンの後をついて行く。

 ジンが叫ぶようにそこは見渡す限り普通の森だった。目立つような物が無くどっちも見ても木々が乱立していた。起伏は激しくも無く行く手を遮る様な藪も僅かでやはり木々が目立つ森だった。そんな中を二人は歩いていた。

 歩くジンの左右の腰には小剣が一本ずつ下げられており、後ろの腰には少し太めのナイフが下げられていた。軽くて丈夫な素材で作られているのだろう、胸や肩、肘に膝をそれぞれカバーする防具にレザーのズボンに手甲とロングブーツ。

 後ろを歩くライラの手には青色の宝石らしき物を杖頭に抱く腕の長さほどの魔術師用の杖を持ち、レザーパンツに歩きやすいロングブーツを履いており、二人とも背中には背嚢を背負っていた。


「これなら、どこぞで寝ていた方がマシだぜ」

「何言ってるの。そんなので見つかるわけないでしょ」

「果報は寝て待てって言うぜ?」

「いつからあなたは王様にでもなったの?

 働かざる者食うべからずよ」

「王様よりかは働いているぜ」

「確かにそうね」


 二人はそんなことを言いながら森の中を進んでいく。


「大きな門が目印って言ったって影も形もねぇ~な、『遺跡』。

 小規模で見つけ難いのか?」

「迷宮の様に中は広くと言うからには大きいはずなんだけど」

「だったら地下か?」

「入り口の門だけ大きくて直に地下に続く階段とかがある?」

「そんな感じだな」

「それだと確かにありそうだけど……。

 周りを確認できる小高い丘とかあればいいのだけどそれも無いしね」


 二人の探す『遺跡』。

 それは多くの富と知識とを後世に残す物。

 過去幾つかの遺跡が発見され、そのどれもが発見した者には富と知識とが与えられた。一攫千金を夢見る者には垂涎の物。

 しかし、中々見つからないのが世の常。簡単に見つかれば苦労はしない代物。


「今日で二十五日目か~。一応虱潰しには探してんだがな~」

「そうなのよね~。

 ちょっとした後らしき物でも見つけれたらいいのだけど……。

 それすら無いとはね」

「言いたくはねぇが……外れか?」

「……かもね。

 でも、まだ残っている場所もあるから、そこを見るまでは探しましょう」

「だな」


 二人にとって当てが外れるのはいつもの事。そして、それでも諦めないのもいつもの事。

 軽口を叩きながらも、視線は辺りをくまなく見回し歩む。

 何が手掛かりとなるか分からない。どこにでもある様な壺の破片からも、古びた本の余白からにも遺跡へと繋がる道しるべが見つかるかもしれない。実際過去の遺跡ではそれらを道しるべに発見された物もある。



 そう、今日二人が発見した、いや出合ったモノはそんな何かへ何処かへと導く道しるべだった。

 ただ、この時は何にへとも何処へとも導くモノかは分からなかったが……。




 それは、急に開けた森の中の原っぱだった。何でそこだけ木々が無くぽっかりと開けているのかは分からないが日当たりのいい場所だった。

 その真ん中にポツンと案山子みたいな物が立っていた。

 背丈の大きさは子供ぐらいで頭は真ん丸で十字架の形をした胴体があった。全体に青色で目と思しき物が少し青く光っている。

 立っているのが覚束無いのか、何か誘う様にゆらりゆらりと少し左右に揺れていた。


「何だ? あれは」

「ゴーレム?」


 二人は警戒しながらゆっくりと原っぱに入る。所々花が咲き絨毯の様な草が敷き詰められていた。

 注意深く見ると、その案山子と思しき物の足元には草花に埋もれ何かいるらしかった。

 片手に小剣を構えながらジンは近づいて行く。ライラは入り口付近で魔杖を構えている。こういう時はジンが前でライラが後ろだ。何かあってもすぐに対応できる。

 案山子に小剣を向けながら、何がいるのか確認をする。


「子供!?」

「何ですって!?」


 それは黒髪の子供だった。死んでいるのか寝ているのかは分からなかったが、横向けに眠る様に倒れていた。

 横顔からは穏やかな表情が見て取れ、パッと見たところ外傷らしき物は見当たらなかった。


「何でこんな所に子供がいるのよ!?」

「知るかよ! 怪我らしき物はしてねぇようだが……。

 寝ているのか?」


 よくよく観察するとゆっくりとだが胸が動いて穏かな呼吸をしている様だった。それは静かな寝顔だった。


「よくこんな所で寝れるな。いや、寝るにはピッタリか」

「あなた位よ。こんな魔物が徘徊する森で寝るのは。

 いや、この子もか」

「それは俺が子供だって言いたいのか?」

「そんな事より、何で子供がここにいるか、調べることの方が先決よ。

 そのゴーレム?は何なのかしら? 護衛?」

「それなら、俺らに反応するだろう。

 おい、お前はなんだ?」

「答えるわけな「ピコ?」答えた!?」


 頭らしき物を器用に少し傾げながら案山子は答えた。思いの外見た目に反して柔軟な素材でできているらしかった。


「この子はお前の御主人様か?」

「ピコ?」

「それとも別にいるのか?」

「ピコ?」

「……」

「埒が無いわね」


 案山子は答えはするが意思の疎通は難しそうだった……。

 直には危険がなさそうなのでライラも近づいてくる。


「どうするの?」

「どうするって……どうする?」

「……それを聞いてるのよ!

 たくっこんな所に置いておくわけにはいかないでしょ」

「それはそうだけどよ。

 親御さんとか、近くにいるかもしれねぇだろ?」

「こんな所に一人置「ピコ!」ああ、二人置いて?」


 抗議するかのように声が案山子から上がる。割と高度な?案山子らしかった。


「それは何かあったとかだな」

「何かって何よ?」

「知るかよ!」

「また、適当に言って! 大体いつも……」


「う~~~ん、ふわ~~~」「ピコ!」



 二人の口論が煩かったのか、伸びをして欠伸を一つして子供は目覚めた。

 その子の髪はセミロングのストレートで瞳は髪と同じく黒く、少女であるらしかった。

 少女は寝ぼけているのか左右を見回す。

 隣にいる案山子を見つけると「おはよ!」「ピコ!」と声を掛け合う。

 そして、ジンとライラを見つけると首を傾げて問う。


「だれ?」

「誰って……。

 俺はジン。ジン・ガーランド。

 こっちはライラだ」

「初めまして、ライラ・フリューゲルよ。

 あなたのお名前は何ていうのかしら?」

「リオはね~リオって言うの~。

 この子はアオって言うの~」

「ピッコ」


 よろしくとでも言う様に案山子は頭を下げる。


「そう、よろしくね。

 ところで、リオちゃんはどうしてここにいるのかしら?」

「? リオはね~寝てたの~」

「そう……。

 他の大人の人とかいないのかしら? お父さんとかお母さんとか」

「いないよ~」

「ここへはどこから来たか覚えていないかしら?」

「あっち~」「ピコ」


 二人が指す方角は森の奥だった。

 悲壮感の欠片も感じられない事から嘘は言っていない様だが、疑問は増えるばかりだった。


「どうする?

 一旦街へ戻るか?」

「そうね。そうするしかないわね。

 街へ戻って衛兵にでも聞いてみるしかないわね」

「だな。このままここにいてもしょうがないしな」

「ねぇ~、おじさんたちは何しているの~?」

「おじっ! おじさんじゃねぇ! これでもぴっちぴちの二十代だ!」

「ぴっちぴちって柄じゃないでしょ」

「うるせ~。

 それならお前はおばさんでもいいのかよ」

「あら、私こそぴっちぴちの十八歳よ」

「俺と同い年だろうが!」

「うるさいわね~。

 乙女の歳を詮索するは野暮って言うものよ」

「そっちこそ、乙女って柄かよ」

「何ですって!!」

「ねぇ~、おじおねぇさんは何しているの~?」

「おじおねぇって、俺はおじさんじゃねぇ! ジンと呼べ! ジンと」

「じゃ~ジンたちは何しているの?」

「俺たちは遺跡を探している最中だ」

「遺跡? 探し物ゲーム?」

「探し物ゲームって。ま~似たような物だな」

「じゃ、リオたちもやる~!!」「ピコ!」

「やるって言っても……」

「ほら、やりたい人は~」


『この指と~まれ』


 そう言って、リオは人差し指を掲げる。隣の案山子も器用にその手に触れる。


「ほら!」「ピコ!」

「お、おう」


 何故だか逆らえない様なモノをそのキラキラした瞳に感じてジンはゆっくりと手を重ねる。子供のころ同じようにしたことを思い出しながら。そして……。


「……」


 何とも言えない三人からの視線と空気にライラも指を重ねる。





 それが、自分たちを紡ぐ魔法の言葉だったとは、この時思いもよらなかった。

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