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第一話



 私が、休まなくてもよくなってから、どれくらいの年月が経ったのだろう。


 私は、休まなくてもいい。休まなくても死ぬことは無い。

 でも、私は休みたい。いっぱい休みたい。


 そうだ。いつか、いっぱい休もう。友達と一緒に。



――― ◇ ――― ◇ ――― ◇ ――― ◇ ――― ◇ ―――



『グゥガァァァァァァァァァ』


 緑深い森林に巨大な生物の唸り声が静寂を突き破るかのように響き渡る。その声に鳥は飛び去り、小動物は我先にと逃げ出す。

 ズシンズシンと割と軽快なテンポで、重い物が落ちる様な地響きが奥の方から聞こえてくる。

 その音から逃げる人影が二つ。

 一つは、少し長めの茶髪で茶色い瞳持つ軽装備の男性で右腕には子供、左腕には案山子の様な物を抱え走っていた。

 その人影が隣のもう一つの人影に話しかける。


「しつこい奴だな!!」

「お腹が減ってるからじゃないの?」

『ルゥグゥガァァァ』

「ほらね」


 答えた人影は、ポニーテールの金髪で青色の瞳を持つ、腕の長さほどの魔術師の魔杖を片手に持った女性だった。

 その二人を食らいつこうと大柄の魔物が追いかけている。



「俺たちなんか食っても美味しかね~よ」

「失礼ね! 私は美味しいわよ!」


 見た目は鋭い牙が並ぶ大きな口を持ち、太く強靭な後ろ足で走る巨大な爬虫類だった。申し訳程度に付いているような前足の爪でさえ鋭く人にとっては大きい。そんな魔物と呼ばれる怪物が口から涎を垂らしながら、細い木々など物ともせずに砕き倒しながら二人を追いかけていた。



「食ったことがね~から、わかんね~よ」

「あら? 食べてみる?」


 そんな状況にもかかわらず、二人は軽口を叩きながら森の中を駆け抜けていた。二人にとっては日常茶飯事なのだろうか、悲壮感は感じられない。


「残念。俺の舌は肥えてるからな」

「それ、どういう意味よ!!」

「そんなことより、このままだと埒がねぇー」

「そうね、どっかで応戦するしかないわね」

「広い所に出たらやるぞ!!」

「わかったわ!」


『ルゥガァァァァァァァ』



 しばらく走ると開けた所に出る。二人は一瞬目配せをすると男は右に、女は左に分かれて走り出す。

 獲物が左右に分かれ、魔物は躊躇するかのように止まって左右に顔を向ける。どっちが捕まえ易いだろうか? そんな声が聞こえてくる。

 その魔物の躊躇を吹き飛ばすかのように横っ面に火球が弾ける。左の女性が放ったものだ。

 魔物には大して効かなかったが、女性に対し苛立ちと食欲が増した。その心に突き動かされるように女性へと迫る。

 ひらりと横にかわすと今度は氷の粒を魔物の足に飛ばす。

 魔物はその足を庇うかのように太く長い尻尾を横殴りに振り回す。

 女性は太い木の様な尻尾を今度は高く飛び超える。

 何かしらの術、魔術等で体を強化しているのかもしれない。それくらい優雅に軽やかに魔物の攻撃を捌く。

 そんな女性の動きに気を取られている魔物に、斜め後ろから向こうに荷物を置いて来た男性が切りかかる。その両手には片刃の小剣が一本ずつ握られ、魔物の片足を切り裂く。



『グッガァァァ』


 痛みに声を上げつつ体をひねる様に男性に噛みつく。ガツンと勢い良く閉じられた咢には、残念ながら男性の姿は無かった。

 男性は魔物の足元を掻い潜り反対に抜けつつ、足を切りつける。

 男性の方も軽やかに魔物の攻撃を避けてカウンター気味に攻撃を当てる。

 魔物は翻弄され切り刻まれ、傷からは黒い血の様な物が吹き出て消えていった。しかし、タフなのか物ともせずに攻撃の手を緩めなかった。



「か~、タフな野郎だ!」


 魔物のタフさに見かねたのか、男性は吐き捨てるかのように言う。

 女性の方は、炎に水、氷に雷、石を魔術で作りながら魔物に当てる。


「炎は効かないわね。氷が効きそうだわ」

「そうか! じゃ~隙を作ってくれ! 動きを鈍らす!」

「わかったわ!

 じゃ……いくわよ!!」


『ルゥグゥゥゥゥッッッッ』


 女性はそう言うと魔物の目の前に閃光を放った。突如の目つぶしに魔物は頭振って振り払おうとする。

 その時、その鋭い嗅覚で男性の匂いを近くに感じて体を動かすが、それよりも早く男性が魔物の足の指先を切り飛ばす。


『グギャァァァァァァァァァァ』


 一段と大きな叫び声を上げながら、視力の戻った眼で男性を睨みつける。タフとはいえ流石に足の指先は痛かったのだろう。



「よう、どうしたそれで終わりか?」


 言葉は分からずとも馬鹿にしたのは分かったのか、怒って鼻息を上げながら男性を攻撃する。

 しかし、先ほどよりも鈍く精細さに欠けていた。その隙を突く様に男性は切り飛ばした足とは逆の足の指先を切り飛ばす。



『ルゥギャァァァァァァ』


 益々魔物は怒り狂い、男性を執拗に攻撃する。でも、魔物の攻撃は当たらず傷は増していった。

 傍目には戦いは男性の方が有利に運んでいる。しかし、魔物はタフだ。これくらいの傷は時間とともに回復する。切り飛ばした足の指先くらい一晩で生えてくるだろう。それくらい、普通の生物とはかけ離れていた。

 それが分かっているのだろう。魔物は諦めるという事を選択せずに男性を追いかけ回す。

 すると、急に魔力の高まりを魔物は感じた。感じた方向を見ると、それまで攻撃に参加していなかった女性が魔杖を掲げ、何かに祈る様に呪文を唱えていた。無詠唱と違いちゃんと言葉を発して詠唱する魔術は強力だ。それは長く複雑な物になればなるほど強力な威力を発生させる。そして、込められる魔力も大量になる。

 女性はこの一撃で勝負を賭けるのだろう。魔物を睨みつけ呪文を唱える。

 魔物の方もそれを感じたのだろう。攻撃しようと女性の方へ向かおうとする。


「させるかよ!!」

『ギャグガァァァ』


 横合いから魔物はその大きい眼を切りつけられ、のた打ち回る。その喧騒に紛れる様に女性は最後の言葉を紡ぐ。

 パッキィィィィィンっと甲高い音を立てながら、魔物を包むように氷の塊が顕現する。周りに冷気を漂わせる大きな花のつぼみの様であった。

 しばらくすると、パキンと小さい音を立てながら氷の塊は崩れる。魔力でできた物は現世では長くはもたない。

 それは、魔物も同じであった。その体躯が地面に倒れると輪郭が徐々に崩れていった。

 魔物が何のためにいるかは分からない。しかし、何でできているかは分かっている。それは魔力だ。そして、魔物を魔力で構成するためにある石、それが魔核石だ。必ず魔物には魔核石がある。



「おみごと」

「どういたしまして」


 近づいてきた女性に男性は声を掛けながら、その場に残った青黒い魔核石を拾い上げる。



「あんだけ苦労してこれぽっちかよ」

「ま~タフなだけだからね。

 火を噴いたり、雷を発したりしたら、もっとデカい魔核石だったかもね」

「それはそれで、いやだな」


 ため息をつきながら男性は答えると、ふと思い出したかのように首を傾げた。



「はて、俺たち何でこんなことをしてるんだっけ?」

「もう呆けた?

 それは……なんだっけ?」


「なんだっけ?」「ピコ?」


 男性と女性は新たに増えた声の方へと顔を下方に向ける。

 そこにはストレートのセミロングな黒髪と黒い瞳を持つ少女と案山子の様な物が立っていた。




 男性と女性、ジンとライラはその二人?を見てあの魔物に追われる経緯を思い出した。

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