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ヤミウタ  作者: 沙φ亜竜
第4楽章 歌姫と最後の闇歌
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-4-

「いや、でたらめではない!」


 突然男性の声が響き渡った。

 下方から聞こえてきたその声は、当然ながら機動隊の隊長さんが放ったものではない。

 また、隊員の誰が発した声でもなかった。

 その声の主は――。


「えっ……お父さん!?」


 政治家として忙しく飛び回っているらしく、あまり家に帰ってこない私のお父さんの姿が、そこには確かにあった。

 それだけじゃなく、お父さんの隣にはお姉ちゃんも並んで立っている。

 さらには、『流氷天使』のマスターであるおじさんもいて、その他にも何人かの知らない男性が立っているようだった。


 峠は越えたみたいだけど、まだ雨が降り続いている中にあって、お父さんたちは傘も差していない。

 それを言ったら、機動隊の人たちだって同じだけど。

 その機動隊の人たちは、一斉にお父さんたちのほうを振り返った。


「なかなか全貌がつかめず、時間がかかってしまったが、ようやく確認が取れた。これから飛躍的に状況は変わっていくだろうな」


 警察の制服を着たひとりの男性が、お父さんのあとを継いで話し始める。

 その背後には、数人の警察官を従えているようだ。


「本部長! ……それに、隣の方は……」


 隊長さんは、本部長と呼ばれた人の隣に並ぶ、同じように警察の制服を着た、ヒゲを生やしてがっしりとした体格の白髪まじりの男性に視線を向けた。


「うむ。警視総監だ。警視庁からわざわざご足労願ったのだ」

「ふっ。時代の流れと思い、大っぴらな反対はできなかったが、昔は私も歌に心を和ませてもらったものだよ」


 本部長さんからの紹介を受け、警視総監さんは目を細めながら語る。


「な……っ!? 警視総監自ら、犯罪を肯定するつもりですか!?」


 驚き戸惑う隊長さんの言葉に、今度はお父さんが反論をぶつけた。


「そういうわけではない。今後、歌唱罪は撤廃される。だから歌うことは犯罪ではなくなるんだよ」

「そんな、バカな……!」

「歌唱罪が制定されたときも、多くの人がそんなバカなと思ったはずだ」


 新聞や雑誌などの記事では、普通の歌はメロディオンの勢いに押され、あまり聴かれない状況になっていて、すんなりと歌唱罪が可決されたということになっている。

 だけど、実際にはかなり強制力が働いた上での結果だったようだ。


 当初から疑問を抱いていた人はいた。

 ただ法律の改定前から上層部が揃って歌唱罪推進派の立場を取っていたため、少数派の反対勢力は完全に押さえ込まれる形となった。

 とはいえ、黒い噂は絶えなかった。


 私のお父さんは政治的な観点から情報を収集し、反対派の筆頭として水面下での活動を続けてきたらしい。

 県警の本部長さんや警視総監さんに情報を送り、協力を持ちかけたのもお父さんだったのだという。

 そういった活動をしていたからこそ、家にほとんど帰ってこなかったのだろう。


 これまでの経緯を語り終えた上で、お父さんはさらに言葉を続けた。


「先ほどテラスステージにいる彼女が語ったとおり、メロディオンとの癒着があったのは事実だ。確たる証拠や証言も揃っている。この先、警察内部でも徹底的な調査がなされるだろう」


 がっくりと項垂れる機動隊の隊長さん。あの人は、メロディオンとなんらかの関わりがあるに違いない。

 他の機動隊の人たちも、完全に戦意を喪失していた。

 県警の本部長さんや警視総監さんまで出てきてしまっては、どうしようもないと考えたのだろう。


「おそらく今回このホールを包囲した件は、あの隊長の独断的な行動だったんじゃないかな? もちろん、もっと上に黒幕が存在する可能性は高いだろうけど」


 くりおねくんが私の隣に並びながら、ぼそっとつぶやく。

 広場の状況を見るため、くりおねくんもオリハルコンのメンバーも、テラスステージの先端部まで移動してきていたようだ。


「そっか……。でも、よかった。歌を歌うの、罪じゃなくなるってことですよね?」

「そうみたいだね。さすがに、法律になっているわけだから、すぐにというわけにはいかないかもしれないけど」

「ふふっ。法律の改定は先になるとしても、歌が罪になる状況はすぐに変わるはずよ」


 そうなれば、今までみたいに隠れて歌う必要はなくなるということだ。

 とても嬉しい。

 雨はまだ降り続いている。それなのに、心はすっかり晴れ渡っていた。


「それにしても、お父さんがいきなり出てくるなんて、びっくりでした」

「僕は知ってたけどね」

「あれ? そうなんですか? だったら教えてくれてもよかったのにぃ~」


 不満で頬を膨らませる私に、くりおねくんはいつものように微笑みかけてくれる。


「もしかしたら危険があるかもしれないからね、内緒にしておいたんだ。たとえなにがあっても、和歌菜ちゃんは僕が守るつもりだったけど、それでもなるべく危険からは遠ざけておきたかったんだよ」

「くりおねくん……」


 ぽーっとした瞳でくりおねくんを見つめる。

 ふたりだけの世界。


「はいはい、そこまで」


 ……ではなかった。

 今ここには、綾芽さんやオリハルコンのメンバーもいるんだった。


「そういえば、綾芽さんがここで歌ったのって、注目させるためだったんですよね?」

「ええ、そうね。あとは、和歌菜ちゃんのお父さんや警視総監さんたちが到着するまでの時間稼ぎも兼ねて、ってところかしら」

「だったら、わかなと一緒に歌う必要はなかったんじゃ……」

「ふふっ。あたしが和歌菜ちゃんと一緒に歌いたかったのよ」

「綾芽さん……」


 憧れの歌姫である綾芽さんからそう言ってもらえて、心から嬉しくて、でもちょっと恥ずかしくて、私は真っ赤になってうつむいてしまった。


「さ……さてと、それじゃあそろそろ、あたしたちも広場に行きましょうか」


 どうやら綾芽さんのほうも照れているみたいで、少々早口でそう提案する。


「県警の人たちが、機動隊の隊長の身柄を拘束するでしょう。それで今回の件はとりあえず終了ってことになるはずよ」

「もっとも、そこから先がまた、大変そうだけどね。メロディオンと癒着があった人は、警察内部だけじゃなくて、国会議員の中にもいるようだし」

「証拠をつかんでるみたいだから、きっと大丈夫でしょう」


 そんな話をしながら、綾芽さんとくりおねくんはテラスステージから出ていこうと体を反転させる。

 私も、それにオリハルコンのメンバーも、ふたりに続こうとする。


 まさにそのときだった。

 テラスステージの下から、騒がしい声が響いてきたのは。


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