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ヤミウタ  作者: 沙φ亜竜
第4楽章 歌姫と最後の闇歌
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17/22

-3-

 テラスステージの入り口前に着くと、すぐさま綾芽さんが声をかけてきた。


「和歌菜ちゃん、来たわね! 一緒に、歌うわよ!」

「えっ!?」


 困惑する私の腕を引き、綾芽さんはテラスステージへと身を躍らせる。


 冷たい風が吹き抜けていく。

 真夏だとは思えないほどの涼しさ。

 天気の影響と、山の中腹という立地条件が織り成す、自然の演出と言えるだろう。


 オリハルコンのメンバーが楽器を演奏し続けている横を通り過ぎ、私と綾芽さんはテラスステージの先端部へ。

 ここからだと、広場の様子がよくわかる。

 機動隊の人たちが、まるでライブに来てくれたお客さんのようにテラスステージを見上げている。


「それじゃあ、歌うわよ。曲は、『未来への祈り』。和歌菜ちゃん、覚えてる?」

「あっ、はい」


 私の答えに、満足そうな笑みを返してくれる綾芽さん。

 一旦オリハルコンのメンバーを振り返り、目配せすると、全員が頷いた。

 すかさず曲の演奏が始まる。



 ☆☆☆☆☆



『思い出して なにも知らなかったあの頃

 温かく包んでくれる 母の温もり


 思い出して すべてがまぶしかったあの頃

 夢を描いて歩いた あの並木道


 人は皆なにかを手に入れ なにかを失いながら進む

 気づいたときには遅いけれど


 遠いあの日に忘れてきた 希望という名のタカラモノ

 今ならきっと取り戻せるはず


 どうして争い続けるの? ヒトという仲間同士なのに

 どうして傷つけ合い戦うの?

 誰も傷つきたくなんてない わかっているのに


 手に手を取って まっすぐ歩いてゆけたら……

 ただそれだけを祈るわ

 光に満ちた明日が 待っているはずだから』



 ☆☆☆☆☆



 オリハルコンのメンバーの奏でる壮大なスケールのメロディーと綾芽さんの透き通った綺麗な歌声が重なり、心の奥底まで染み渡るような感覚を楽しむことができる曲。

 そんな曲なのに、私なんかの歌声を加えてしまってもいいものだろうか。

 思わず遠慮して声が小さくなっていた私に、綾芽さんは大きな声で歌うようにと合図してくれた。


 綾芽さんと一緒に歌うことができる。それだけでも感動ものなのに。

 私も主役のひとりだと言わんばかりの扱い。

 いや、実際に綾芽さんは、そういうつもりでいるのだろう。


 マイクは一本だけど。

 ふたりで顔を近づけて歌う。


 綾芽さんの甘酸っぱくて心地よい香りに、思わず頬を染めたりしつつ。

 私は一生懸命歌った。


 機動隊の人たちは投降を促す声をかけるのも忘れ、綾芽さんと私の歌う姿を見上げている。

 歌詞のある歌が禁止されてから二十年も経つ現在。

 久しぶりに感じる、もしくは初めて感じる歌声に、完全に聴き入ってくれているようだった。


「和歌菜ちゃん、よかったわよ」

「あ……ありがとうございます」


 歌い終わったあと、余韻に浸ってぼーっとしていた私に、綾芽さんはそっと声をかけてくれた。


「なにも指示してないのに、微妙にハモったりまでしてくれて、思った以上に素晴らしい歌になったわ」

「へっ?」


 続けられた言葉に、きょとんとする。

 あれ? 私、べつにハモったりした記憶なんてないんだけど……。


 でも、綾芽さんは喜んでくれているわけだし、ま、いいか。

 そう考えて、えへへと笑顔を返す。


 と、呆然としていた機動隊の人たちから、ざわめきの声が漏れ始めた。

 その声で我に返ったのか、隊長らしき人が大声で叫ぶ。


「か……歌唱罪の現行犯だ! マインドコントロールだな!?」


 拡声器を使うことすら忘れるほどの慌てぶりではあったけど、どうにか自分の立場を思い出したのだろう。


「あいつらを早急に引っ捕らえろ! おいっ、まだ入り口は見つからないのかっ!?」


 怒鳴り声は拡声器を通さなくても、私たちの耳にまで届いた。

 と、綾芽さんが一歩前に出る。

 そして大きく息を吸い込むと、澄んだ綺麗な声をテラスステージの上から響かせた。


「そちらのほうこそ、権力を使ってマインドコントロールをしている、とも言えるのではないですか?」


 ざわっ。

 機動隊に動揺が走る。


「な……なにを言っている!?」

「音楽にイメージを乗せる技術を開発した『メロディオン』という会社から、どれだけの謝礼が支払われたのでしょう?」


 今では一般的になっているメロディオン技術は、開発した会社の名前からつけられた。

 それは私も知っている知識ではあったけど。

 その会社から謝礼?

 初耳の話に、私は混乱する。


 もっとも一番混乱しているのは、この話を向けられている、機動隊の隊長さんのようだけど。


「あなた個人ではなく、組織ぐるみのようですが……。警察内部には、他にも関係者がいるんじゃないですか?」

「そ……そんなことは知らん!」


 否定しながらも、動揺しているのは明らかだ。


「闇アーティストを支えるライブハウスのネットワークを通じても、その辺りは調査していました。全国から闇アーティストが集結する今回の闇フェスには、証拠となる資料を運んでもらう意味合いもあったんです」

「そんなのは、でたらめだ! おい、お前ら、なにをしている!? 早くあの犯罪者どもを捕まえるんだ!」


 隊長さんは怒鳴り散らし、隊員たちに発破をかけた。


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