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テラスステージの入り口前に着くと、すぐさま綾芽さんが声をかけてきた。
「和歌菜ちゃん、来たわね! 一緒に、歌うわよ!」
「えっ!?」
困惑する私の腕を引き、綾芽さんはテラスステージへと身を躍らせる。
冷たい風が吹き抜けていく。
真夏だとは思えないほどの涼しさ。
天気の影響と、山の中腹という立地条件が織り成す、自然の演出と言えるだろう。
オリハルコンのメンバーが楽器を演奏し続けている横を通り過ぎ、私と綾芽さんはテラスステージの先端部へ。
ここからだと、広場の様子がよくわかる。
機動隊の人たちが、まるでライブに来てくれたお客さんのようにテラスステージを見上げている。
「それじゃあ、歌うわよ。曲は、『未来への祈り』。和歌菜ちゃん、覚えてる?」
「あっ、はい」
私の答えに、満足そうな笑みを返してくれる綾芽さん。
一旦オリハルコンのメンバーを振り返り、目配せすると、全員が頷いた。
すかさず曲の演奏が始まる。
☆☆☆☆☆
『思い出して なにも知らなかったあの頃
温かく包んでくれる 母の温もり
思い出して すべてがまぶしかったあの頃
夢を描いて歩いた あの並木道
人は皆なにかを手に入れ なにかを失いながら進む
気づいたときには遅いけれど
遠いあの日に忘れてきた 希望という名のタカラモノ
今ならきっと取り戻せるはず
どうして争い続けるの? ヒトという仲間同士なのに
どうして傷つけ合い戦うの?
誰も傷つきたくなんてない わかっているのに
手に手を取って まっすぐ歩いてゆけたら……
ただそれだけを祈るわ
光に満ちた明日が 待っているはずだから』
☆☆☆☆☆
オリハルコンのメンバーの奏でる壮大なスケールのメロディーと綾芽さんの透き通った綺麗な歌声が重なり、心の奥底まで染み渡るような感覚を楽しむことができる曲。
そんな曲なのに、私なんかの歌声を加えてしまってもいいものだろうか。
思わず遠慮して声が小さくなっていた私に、綾芽さんは大きな声で歌うようにと合図してくれた。
綾芽さんと一緒に歌うことができる。それだけでも感動ものなのに。
私も主役のひとりだと言わんばかりの扱い。
いや、実際に綾芽さんは、そういうつもりでいるのだろう。
マイクは一本だけど。
ふたりで顔を近づけて歌う。
綾芽さんの甘酸っぱくて心地よい香りに、思わず頬を染めたりしつつ。
私は一生懸命歌った。
機動隊の人たちは投降を促す声をかけるのも忘れ、綾芽さんと私の歌う姿を見上げている。
歌詞のある歌が禁止されてから二十年も経つ現在。
久しぶりに感じる、もしくは初めて感じる歌声に、完全に聴き入ってくれているようだった。
「和歌菜ちゃん、よかったわよ」
「あ……ありがとうございます」
歌い終わったあと、余韻に浸ってぼーっとしていた私に、綾芽さんはそっと声をかけてくれた。
「なにも指示してないのに、微妙にハモったりまでしてくれて、思った以上に素晴らしい歌になったわ」
「へっ?」
続けられた言葉に、きょとんとする。
あれ? 私、べつにハモったりした記憶なんてないんだけど……。
でも、綾芽さんは喜んでくれているわけだし、ま、いいか。
そう考えて、えへへと笑顔を返す。
と、呆然としていた機動隊の人たちから、ざわめきの声が漏れ始めた。
その声で我に返ったのか、隊長らしき人が大声で叫ぶ。
「か……歌唱罪の現行犯だ! マインドコントロールだな!?」
拡声器を使うことすら忘れるほどの慌てぶりではあったけど、どうにか自分の立場を思い出したのだろう。
「あいつらを早急に引っ捕らえろ! おいっ、まだ入り口は見つからないのかっ!?」
怒鳴り声は拡声器を通さなくても、私たちの耳にまで届いた。
と、綾芽さんが一歩前に出る。
そして大きく息を吸い込むと、澄んだ綺麗な声をテラスステージの上から響かせた。
「そちらのほうこそ、権力を使ってマインドコントロールをしている、とも言えるのではないですか?」
ざわっ。
機動隊に動揺が走る。
「な……なにを言っている!?」
「音楽にイメージを乗せる技術を開発した『メロディオン』という会社から、どれだけの謝礼が支払われたのでしょう?」
今では一般的になっているメロディオン技術は、開発した会社の名前からつけられた。
それは私も知っている知識ではあったけど。
その会社から謝礼?
初耳の話に、私は混乱する。
もっとも一番混乱しているのは、この話を向けられている、機動隊の隊長さんのようだけど。
「あなた個人ではなく、組織ぐるみのようですが……。警察内部には、他にも関係者がいるんじゃないですか?」
「そ……そんなことは知らん!」
否定しながらも、動揺しているのは明らかだ。
「闇アーティストを支えるライブハウスのネットワークを通じても、その辺りは調査していました。全国から闇アーティストが集結する今回の闇フェスには、証拠となる資料を運んでもらう意味合いもあったんです」
「そんなのは、でたらめだ! おい、お前ら、なにをしている!? 早くあの犯罪者どもを捕まえるんだ!」
隊長さんは怒鳴り散らし、隊員たちに発破をかけた。




