第一話 不服
【まえがき】
神様は。
きっと、なんでも知っている。
そう思っていた。
でも。
神様だって、知らないことくらいある。
これは。
そんな神様に、
少しだけ「不服」を申し立てる物語。
――あなたは。
自身の可能性について考えることはありますか?
ずっと不思議に思っていた。
なぜ、自分には声が掛からなかったのだろう。
これは遥か昔……。
神様が多くの動物を集め、干支を決めるためのレースを開催した話である。
子(鼠)。
丑(牛)。
寅(虎)。
卯(兎)。
辰(龍)。
巳(蛇)。
午(馬)。
未(羊)。
申(猿)。
酉(鶏)。
戌(犬)。
亥(猪)。etc……。
多くの動物たちは神様からの命を受け、レースに参加した。
そして、その結果により干支が決まった。
僕は、その話を知っている。
だからこそ。
「……僕、呼ばれてないよね?」
静かに呟いた。
返事はない。
「呼ばれてないよね?」
もう一度確認する。
やはり返事はない。
「……なんで?」
いろいろ考えた。
別に、干支に入れなかったことを怒っているわけではない。
そもそも、自分はレースに参加していない。
参加していないのだから、負けてもいない。
「僕が干支じゃないのって……僕の実力とは関係なくない?」
むしろ問題なのは、その前だ。
たくさん調べた。
イタチ。
彼にも、神様から声が掛かっていた。
レースにも参加していた。
ゴール直前、自分より後ろの動物に順番を譲り、その結果、干支の座を逃したらしい。
「……呼ばれてるじゃん」
そして、猫。
猫にも、ちゃんと声が掛かっていた。
ただ、ずる賢い子(鼠)にレースは別日に変更になったと教えられ、レースに参加できなかったらしい。
「……猫も呼ばれてるじゃん」
鋭い眼光が天を見据える。
イタチも呼ばれた。
猫も呼ばれた。
なら?
「……僕には?」
静かに空気が揺れる。
「僕だけ?」
もちろん、誰も答えない。
ゆっくりと顔を伏せた。
「……声、掛けなかったよね?」
その瞬間。
何かが壊れた。
干支になれなかったことではない。
負けたことでもない。
そもそも――
自分が最初から選考の場にすら呼ばれていなかった。
「……不公平じゃない?」
もし、自分にも声が掛かっていたら。
もし、自分もレースに参加していたら。
「……僕が干支になれないわけないよね?」
根拠はない。
しかし、彼には確信があった。
「だって僕、アザラシだよ?」
それが何の根拠になるのかは、本人にも分からない。
だが、本人には十分だった。
「……不服」
静かな海に、アザラシの声だけが響く。
その日。
アザラシは決意した。
干支の座を手に入れられなかったからではない。
声すら掛けられなかったことで失われた、なにかを取り戻すことを。
「……」
そして――
アザラシの聖戦が、今始まる。




