第35話-ゲームの沙汰もG次第
「その犬コロか?」
「はい。【フリーウルフの心】を使ってるんですけど……」
蓮の中では、自分がどの職業になりたいかというよりも、ロアと今後どう付き合っていくか。
そちらの方が職業選択の基準として合っている気がした。
「育成士か召喚士なら、どっちかになった時に登録し直す感じだな。他の二つの場合は別に今までと一緒じゃねぇか……普通にやられたら終わりの、一回きりのNPCって感じだ」
「それなら育成士か召喚士のどちらかですよね」
モルスの話を聞きながらなんとなくは想像していたが、やっぱりその二つのどちらかなんだなと、蓮は改めて思う。
「もしも、それが嫌だってんならトレード先探してやるか? そこまで育成終わってんなら、オークションの心よりもいい値段つくんじゃねぇか……」
「いや、それはちょっと……」
蓮には子どもたちとの約束がある。
それだけに、明らかに目の色が変わったモルスにロアを任せるわけにはいかないと確信する。
「まー、ここで俺の考え言っちまってもいいんだけどよ……それもどうだかなぁ……って感じがするしよ」
「えっ……? そうなんですか?」
ここまで親切に教えてくれたモルス。
蓮にとって、今のモルスの発言は少し予想外のものだった。
「お前よ、この店って結構いい場所にあるって思わねぇか?」
「あー……まー……確かに、はい」
モルスに言われて、蓮はこの店の場所を思い返す。
この店はギルドを出て一番近くにある。
ギルドには多くのプレイヤーが集まるだけに、武器屋の場所としては申し分ない立地だ。
「俺は、自分で言うのもなんだけど、かなりの古参プレイヤーなのよ。このゲームで一番最初に土地が解放された時に、迷わずここ買ったんだわ」
「あっ……そうなんですか……?」
蓮には、いまいちモルスの話の意図が掴めていない。
「だけどな……俺、今ランクⅣなのよ……」
「そっ……そうなんですか……」
(話が更にズレてきた気が……)
「要はよ。長年うだつが上がれねぇ俺が、こっからのお前に言えるのは情報であって、アドバイスじゃねぇってことだよ。このゲームはそんぐらい面倒くせぇんだよ」
(自分で決めろってことか……)
「クランに戻って相談してみましょうかね……」
「それもありだな。色んな奴の話聞いて、最終的にお前が決断下すんだったら全然いいんじゃねぇか?」
「ですよね」
筋道が見えたわけではなかったが、とりあえず情報集めはもう少し続けてもいいかと蓮は思った。
「あとよ。なんかあった時のために、フレンド登録しておくか?」
(あー……クランでやったあれか)
「はい。お願いします」
「フレンド登録しとくとよ、別に店に来なくても売買できるようになったりして便利だからな」
「えっ……そうなんですか?」
「おう。お前、この店、全然客来てねぇだろ? お得意様はみんな通信販売だぞ。面倒くせぇもんな」
(あっ……そういう感じなんだ……)
蓮はやっぱり情報は大切だなと改めて思う。
「まー、なんだ。たまに営業も行くかもしれんが、それはご愛嬌ってことで頼むわ」
「あー……まー……ほどほどにお願いします」
(ホント、この人ブレないよな……)
なんだかんだ思いながらも、蓮はモルスのことが嫌いではなかった。
そして店を出ようとしたところで、モルスが思い出したように声をかけてくる。
「じゃ、まー、最後に一つ言っとくわ」
蓮が振り返ると、モルスはニヤリと笑った。
「地獄の沙汰も金次第って言葉あるよな。でもよ、このゲームの場合――」
そこで一度言葉を切り、モルスは得意げに続けた。
「ゲームの沙汰もG次第ってわけなんだよ! せいぜい大いに悩み給え、ルーキー冒険者よ」
この言葉が、この先ずっと蓮につきまとっていくことを――この時の蓮はまだ知らない。




