第16話-サーブ
目の前にいるのは、二体のゴブリン。
考えてみれば、モンスターが一体ずつしか現れないなどとは誰にも言われていない。
先ほどと同じように、二体のゴブリンのゲージはまだ溜まりきっていない。
ならば、先に行動できるのは蓮の方だろう。
問題は――。
(俺が攻撃できるのは一体だけ……。)
一体を先ほどと同じように倒せたとしても、もう一体は残る。
当然、残ったゴブリンは攻撃してくるはずだ。
一撃で倒せるほどの相手なのだから、受けるダメージも大したものではないかもしれない。
ただし――それはあくまでも蓮の場合だ。
「…………。」
蓮は足元を見る。
そこにいるのは、恐ろしいほどステータスの低いフリーウルフ――ロア。
(もし、こいつがロアを攻撃したら……。)
HP10。
防御1。
そして、死ねば二度と戻ってこない。
(……ヤバくないか?)
そう思った瞬間、蓮の頭から「二体くらいなら勝てるかもしれない」という考えは完全に消えた。
「ロア! スキル、【サーブ】だ!」
「ワン!」
蓮の命令に、ロアが一声鳴く。
その直後だった。
「えっ――」
目の前の景色が強制的に切り替わっていく。
そして気がついた時には、二体のゴブリンの姿はどこにもなかった。
先ほどまで歩いていたフィールドへ戻っている。
「…………。」
蓮はしばらく周囲を見渡した。
「あー……声で命令すればよかっただけか……。」
ともかく、二体のゴブリンからは逃げることができた。
そもそも勝てる戦闘だったのかどうかは考えないことにして、蓮は大きく息を吐く。
「……ん?」
そこで違和感に気づいた。
普段は白く表示されているコマンドが、なぜか黄色くなっている。
それだけではない。
(なんか……だるい?)
身体が妙に重い。
長時間ゲームを続けたことによる疲労かとも思ったが、何となく違う気がする。
「あっ……。」
蓮は慌ててコマンドを操作し、自分のステータスを開いた。
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【REN999】
HP:1/100
SP:1/50
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「…………。」
嫌な予感がして、続けてロアのステータスも確認する。
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【ロア】
HP:1/10
SP:1/5
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「…………は?」
もう一度、ロアの【サーブ】を確認する。
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【サーブ】
戦闘離脱スキル。
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「それしか書いてないじゃん……。」
今の状態では、これ以上戦闘を続けることはできない。
そう判断した蓮は、回復を優先して一度クランへ戻ることにした。
◇ ◇ ◇
「やー、RENさーん。お早いお帰りですね~♪」
クランへ戻ると、入口付近にいたポロンがいつもの調子で声をかけてきた。
「あー……ポロンさん。」
話し合いが終わってから行った戦闘は、たったの二回。
しかも、そのうち一回は戦うことすらせず完全逃亡である。
これで「お早いお帰り」と言われてしまえば、まったくもって否定できない。
「実はちょっと、まずい状況になってしまって……。」
「まずい状況?」
「はい。実は――」
蓮はポロンに、クランを出てからの出来事を説明した。
ゴブリンを一体倒したこと。
ロアにも経験値が入ったこと。
その後、二体のゴブリンと遭遇したこと。
そして――ロアに【サーブ】を使わせたこと。
「それで、逃げること自体はできたんですけど……俺もロアもHPとSPが1になっちゃって。」
「…………。」
「スキルの説明には『戦闘離脱』としか書いてなかったんですけど、これって――」
「RENさん。」
「はい?」
「ロアって……何?」
「…………え?」
「あっ、フリーウルフです。」
「…………。」
「名前、ロアにしました。」
「…………。」
「どうしました?」
「RENさん……あれ、仲間にしたの!?」
「はい。迷ったんですけどね……。」
「いや、迷ったって言ってもねぇ……行動早すぎでしょ。」
ポロンは呆れたような、それでいてどこか感心したような顔で蓮を見る。
「ていうか、そんな選択するならRENさん、転職する時にギャンブラーとか出てくるかもしれないね~。」
「ギャンブラー?」
「そ。オクさんの職業。」
「ああ……。」
そういえば、そんなことを聞いたような気がする。
その後も「二万Gなのに」とか「よくやるよね~」とか、ポロンから色々と言われた蓮だったが――。
「あの……それより俺とロア、今HPとSPが1しかないんですけど。」
「あっ、そうだった。」
「そっちの方が俺としては大問題なんですけど……。」
「じゃあ、とりあえずRENさんの拠点行こっか。回復しながら続き聞くよ。」
「お願いします……。」
こうして二人は、蓮がつい先ほど自分の拠点に決めた建物へ向かうことになった。




