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「おはよう、ミラ、デューク」
「ああ、おはよう」
「おはようございます。オズ兄様」
丁度良かった。
「オズワルド、少し聞きたい事があるんだが時間取れるか?」
「大丈夫だよ。・・・私もデュークに聞いて欲しいことがあるんだ」
俺たちは放課後に学院内に王族に与えられている個室で話し合うことにした。
ミラには聞かせられない話になるだろうから一緒には行けない。
その間はセナに任せることになるが大丈夫だろう。
だがその考えが甘かった。
「悪かったな呼び出して」
「いや、私もデュークに信じてもらえるか分からないが聞いて欲しい話がある・・・兄上のことだ」
俺もカイルのことだったから丁度いい。
「・・・信じられないかもしれないが、私には前回の・・・・・・取り返しのつかない過ちを犯した記憶があるんだ」
これは俺も驚いたね。
記憶があるのは俺たち家族だけではなかったのか?
話を聞くと、オズワルドは8歳の時から前回を夢に見るようになったそうだ。
怖くて誰にも相談出来ず、10歳になった時に陛下から前回の己の過ちを教えられたそうだ。
すぐにミラを助け出すようお願いしたが、その時には既に俺たちが助け出していたと。
怖くて相談も出来なかった自分を卑怯で臆病者だと、今にも泣き出しそうな顔で卑下していた。
最近になって前回を思い出したと言う。
そして、そこからがオズワルドがミラを虐げていた理由だった。
あの違和感は間違っていなかった。
だがカイルが?
5歳までしかミラには会っていなかったはずだ。
その時12歳のカイルが?
オズワルドがカイルの異常性に気付いたのは、カイルに呼ばれてカイルの自室を訪れていた時だったそうだ。
その時オズワルドは一年遅れて入学するミラに会えることを楽しみにしていた時期で、カイルに素直にその気持ちを打ち明けていたそうだが、話の最中だというのに眠気に襲われたそうだ。
その時カイルの侍従が会議だと呼びに来て『オズワルドはそのまま寝てていいよ。私は少しだけここを離れるよ』と会議の為に部屋から出て行った。
すぐに目は覚めたそうだが、寝かされていたベッド脇にカイルの日記が・・・
人の日記を盗み読むことに罪悪感はあれど、誘惑に負けて読んでしまった、と・・・(気持ちは分かるがそれはアウトだ!)
そこにはカイルのミラに対する執着がびっしりと、ミラが学院を卒業後に攫って閉じ込めるための部屋を用意していることが書かれていた。
嘘だと、冗談だと思いながらも、実際にカイルの自室には隠し扉からしか出入りが出来ない部屋が用意されていた。と・・・豪奢で煌びやかな高貴な女性らしい部屋だったらしい。
誰にも相談できず、一人悩んで出した結論が・・・婚約破棄。
そして国外追放。
侯爵令嬢をなんの権力もないただの王子が下した命令だが、カイルに見つかる前に国から逃したかったと・・・
ミラがカイルから逃れられるのならば結果、自分がどうなっても構わなかったと・・・
(やはりオズワルドは俺の親友だった。それを俺は・・・理由も聞かずこの手で・・・)
ここまで聞いたら、昨日俺が感じた違和感の正体が分かった。
ミラだけでなく久しぶりに会った俺には見向きもせず、ずっとミラとばかり話していたカイル。
カイルもミラを狙っていたのか・・・
だが、続けてオズワルドが言った言葉に戦慄する。
『兄上はミラが家で虐待されている事も、学院で嘲笑われ、虐げられ、侮辱されている事も、孤独だという事も知っていたんだ・・・』
「日記の最後に書かれていたんだ・・・だから攫って、閉じ込めて、今まで虐げてきた人達とはまったく違う、優しく、甘やかせて・・・兄上に依存させる計画だったんだと思う」
「じゃあ、前回のオズワルドも知っていたのだろう?」
「違う・・・今回の日記に書かれていたんだ」
詳しく聞けば、俺たちがミラを助け出したのが俺が8歳の頃だ。
その時カイルは14歳。
陛下は俺と同じ8歳のオズワルドには話すにはまだ早いと、カイルにだけ前回の出来事を話したらしい。
だから前回のミラの状況を知っていたと・・・
で、前回の記憶が蘇ってきたオズワルドは、今回もこっそりとカイルの日記を盗み読んだらしい。
そして、既に隠し部屋も用意されていたと・・・
でも今のミラは前回とまったく違う環境で幸せに過ごしている。
それなのに?
「結局兄上はミラを独り占めしたいんだよ。ミラがどんなにデュークを思っていても引き離して自分の物にするつもりなんだよ」
必ず守ると、幸せにすると誓ったんだ。
あと一年と少しで俺のお嫁ちゃんになると決まっているんだ。
誰にも俺からミラを奪わせたりしない。
これからはオズワルドと情報交換をする事を約束して別れた。
俺を待つミラのところに向かっている時に、いつもと学院内の雰囲気が違う気がした。
嫌な予感がして自然と俺は走り出していた。




