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俺とミラが通されたのはカイルの執務室。
部屋には俺たち3人だけだ。
側近や侍女はお茶の用意だけして退室して行った。
俺たち以外に聞かれたくない話をするのだろうと予想する。
「ミラ、デューク久しぶりだね」
「ああ、久しぶりだな」
「カイル兄様お元気でしたか?」
「元気だったよ。・・・何年もミラに会えなくて寂しかったけれどね」
それは伯父である陛下も同じだろう。
ライラ叔母上に似たミラを溺愛していたからな。
「・・・本当に綺麗になったね」
ん?
「ありがとうございます」
いま言葉に含みがあった様な・・・気の所為か?
カイルは幼いミラを本当の妹のように可愛がっていたから、美しく成長したミラに感動したのかもな。
「呼び出して悪かったね。・・・少し気になる噂を聞いて心配になったんだよ」
ああ、今の学院の状況か。
ミラが複数の男子生徒に手紙で誘ったかのような噂になっている。
最初はミラを陥れようとする、悪意のある悪戯だと同情していた男子生徒達の中にも、女子生徒の妬みや嫉妬を上手く利用したマリアに踊らされ蔑んだ目を向ける奴らが増えてきた。
特に女は執拗い。
俺なんて、婚約者が悪女で可哀想だとか言われているらしい。
アイツら大事なことを忘れているんだろうな。
ミラが陛下の姪で、公爵令嬢だと言うことを・・・
いくら学院の中では身分に囚われず生徒同士の交流を深める事を推奨しているとは言えそれは建前だ。
ミラを悪意を持って嘲笑い、蔑むのは貴族でいる資格はないと何故分からない?
「カイル兄様心遣いありがとうございます。でも心配しないで?私にはデュークがいるもの。ね?」
ね?のところで俺に微笑みかけるミラが可愛い!
それに俺を頼りにしてくれるのが嬉しい。
そうだぞ。何があっても俺がミラを守るから周りの視線や戯言など気にしなくていいんだぞ。
「・・・そうか」
その間に、これは違和感??
前回、可愛がっていたミラがどんな扱いをされていたのか知っているからか?
カイルもミラに前回の記憶が無いことは知っている。
この場で余計なことは言わないだろうが・・・
「それでも私は心配するよ。ミラは私にとって大切な女の子だからね」
さすが完璧王子。
そして、超絶美形だ。
男の俺から見ても魅力的だと思うんだ、それが目の前で悲しげに微笑まれると大抵の女はやられるだろう。
しかも、この国一番の優良物件だ。
「ありがとうございます。私にとってもカイル兄様は大切な従兄妹ですよ」
うん、ミラは大丈夫だ。
「・・・そうだね。でも本当に困った時は必ず私を頼って欲しい。私はどんな状況からもミラを守ってあげられる力があるからね」
「もう、カイル兄様は心配性ですわね。・・・では、その時はお願いしますね」
「ああミラに頼ってもらえると私も嬉しいよ」
なあ、さっきからミラとだけ話しているよな。
一応俺もカイルの従兄弟なんだけど・・・
たぶんカイルはミラを助け出してから、一度陛下に顔を見せに来た時に会ったきりか・・・
それは俺もだけど・・・
これだけ心配しているなら、前回の時にもミラの噂ぐらい耳にしていたはずだと思うのだが・・・
それも実弟オズワルドの婚約者の立場だったミラをその時には救いの手を差し伸べなかった・・・と、思う。
なぜその時に助けなかった?
なぜオズワルドはミラを虐げていた?
前回の俺の親友はそんな奴だったか?
元々、傲慢なところはあったがオズワルドも俺と同じで幼い頃からミラを好きだったと思うのだが・・・
本当にエルザに惹かれたのか?
俺が留学中にオズワルドに何かあったのか?
今のオズワルドに本当に前回の記憶はないのか?
ずっと避けていたが、一度オズワルドと話し合った方がいいかもしれない。
今は、オズワルドの側にエルザもマリアもいないのだから・・・




