54 普通じゃない?
(大樹)
「レオンハルトくん……?」
目的の森まで飛んだ俺が、肩からレオンハルトを降ろして睨みつけると、レオンハルトは負けじと冷たい氷の様な目で俺を見下ろす。
「なんですか?」
「いや、お前、『なんですか?』じゃねぇよ。
何でそんなに怒ってんの?それにああいう恥ずかしい事を公共の場で言うなよ……。
王宮内だけの閉鎖されている場所ならまだしも、一応世間的には男同士って抵抗あるんだからさ。」
「────はぁ……。」
レオンハルトは大きなため息をつくと、突然俺の身体を結構な勢いで突き飛ばした。
────バンッ!!
大きな音を立てて後ろにあった木に背中をぶつけ、おおお??と驚いていると、そのままレオンハルトは俺の両手を普通だったら折れそうな程の力で強く掴む。
そして纏めて後ろにあった大きな木に縫い付け、顔をググッ……と近づけてきた。
「それって浮気するためですか?俺との事知られたくないのって。
そうですよね。俺を捨てて、新しい男を見つけるのに都合がいいからでしょう!」
「えっ……えぇぇぇぇ〜〜……??」
ぶっ飛び思考に、もうおじさんはついていけない。
怒り狂っているレオンハルトをチラッと見上げ、その後静かに目を閉じた。
だってさ、だってさ?俺達、毎日エッチしてるんだぜ?
一日お休みの時なんか、朝起きてニャンニャン、そのままご飯を食べさせ合いながらニャンニャン、そしてお風呂一緒に入ってニャンニャン。
そこから広い庭をおニャンニャン周り?と言いたくなるくらい色んな所でニャンニャンしてさ、夜は当然の様にニャンニャ〜ンなわけ。
本番しない時も、ペタペタペタペタ、さわさわさわさわ……チュッチュッしてくるもんだから、ナイスバディの女が目の前で股を広げて『OK〜♬』って言ってくれたって勃たないくらいには、俺の性欲は空っぽどころかマイナス。
そもそも俺、元々は完全なノーマル趣向だから男は論外なんだってぇ……。
モヤモヤモヤ〜!
そんな日々の思い出とその時の想いに浸っていると、突然始まる貪るようなキスにギョッ!と目を見開いた。
「────〜っ!!……もう……!!またっ……可愛いおねだりで誤魔化して!!」
レオンハルトは、怒りながらベロベロチューチューしてくるけど……。
おねだりなんて一回もしてない!!
目を閉じただけぇぇ〜────……。
…………。
◇◇
────パチャパチャ……。
丁度いい川を見つけたため、とりあえず身体を洗う俺。
むっつりしながら身体を洗う俺の手伝い────と言いながら、また身体を汚そうとしてくるレオンハルトとのささやかな攻防が、繰り広げられている。
「全く〜……何なんだよ、お前は〜。若い男が好きだとか、男漁りとか、おねだりとか?
お前の目には一体何が見えてんだよ……。」
これは割りと真面目にそう思っている。
俺は本当にただの平凡外見の年相応のおっさんなわけで、正直絶世の美少年とかなら分かるが、そんな俺にここまで執着する理由がサッパリ分からない。
ペッタリと後ろでくっつき、俺の肩を犬の様にペロペロと舐め回しているレオンハルトを睨みつけて言うと、ムッ!とした気配が漂う。
「真実しか写っていませんよ。大樹様は隙あらば他へ行こうとする。」
「いや……だからさ────……まぁ、もうどうでもいいか……。」
舐め回していた肩を今度はカプカプと噛みだしたレオンハルトに、まともな話をするのは諦めた。
多分、ちょっと人より嫉妬深くて、だいぶ趣味が悪いんだろう。
俺も趣味がいいとは言えないので人の事は言えないし?
訳わからんを極めるレオンハルトの行動を思い浮かべて、プッと密かに笑う。
っていうか、そもそも嫉妬するのは本当は俺の方なんだぞ〜?
未だに諦めていない侍女だっているの、気づいてないのかね?
王宮内でもそれなりに殺意を持って睨みつけくる女の全ては、レオンハルトを取った俺に対して。
どうせ男同士だからそのうち飽きるだろうと、未だにレオンハルトを虎視眈々と狙っている感じがビシビシと伝わり、その恐ろしい視線達を思い出し思わずブルル……と震えた。
王子という身分を無くしても、魔法が得意なレオンハルトは様々な魔法を開発しては、その著作権?的なモノのお陰でお金はがっぽり、更に顔!スタイル!強さ!頭も良いよ!とくれば……まぁ、モテるのは分かる。
そしてそんなモテモテレオンハルトとは対称的に、俺の評価は最低レベル。
多分王子という身分を捨てさせた最強の悪女……いや、悪オヤジと思われている様だ。
はぁ〜とため息をつきながら、とりあえず噛んでくるレオンハルトに一回離れる様に言ったが、レオンハルトはまたドス黒いオーラを出してくる。
そして俺の体を回して自分と対面させると、そのままギュッと抱きついてきた。
同じ歳くらいになったレオンハルトは前より筋肉量が増えたせいで、結構な体格差がある。
安定感抜群の腕の中で大人しく身を任せながら、若い時の体とどっちがいいかと、もし聞かれても……正直、若い身体だろうがおっさんの身体だろうがどっちだっていい。
結局、外見はどうでも良いくらいこの嫉妬深くて面倒くさい男が、俺は大好き……な〜んちゃって!
ハハハ〜と笑いながら、レオンハルトの背に手を回すと、「小悪魔……。」という声がポツリと聞こえ、悪魔から降格したらしい事にホッと胸を撫で下ろした。
そうしてもう一発……とばかりに手をお尻に伸ばそうとしたレオンハルトからスッ!!と一瞬で離れ、お仕事モードに思考を切り替える。
空を見ると、昼はとっくに過ぎてもう暗くなり始めていた。
「依頼された花はもっと先にあるから、そろそろ急ぐぞ。
花が咲いたら直ぐにニコラの所に持っていこう。ほら、お仕事、お仕事〜。」
川からさっさと上がりタオルで頭を拭いていると、レオンハルトも直ぐに上がり、正面から抱きついてきて自分も拭いてアピールをしてくる。
それを察して、よしよしと拭いてやると、一応落ち着いたのかドス黒いオーラは消えていた。
……しっかし、こんなに嫉妬ぶかくて仮に王になった後、沢山の女と結婚して大丈夫だったのかね?
レオンハルトの頭を拭きながら、そんな考えがフッと頭を過る。
さっきも結構な強さで木に叩きつけられたし、多分少し弱い女だったら頭をぶつけて即死する事もあるんじゃね?
手首なんかあんなに握られては千切れるんじゃ……?
今までも多々あったのだが、レオンハルトの嫉妬深さは普通ではないような気がしないでもない。
さっきみたいに常人には理解できない、なにかしらのトリガーがONすると、力加減ができなくなる様だ。
俺は兵士、かつ強化された新人類であるため基本はノーダメージだが……それでも一瞬は痣の様なモノが残るくらいだから、下手をしたら男相手でも骨くらいは持ってかれると思われる。
ノーダメージな自分の身体を見下ろし、思わずヒヤッと汗を掻いた。
コイツが王様になってたら何人か死んでたかもな、側妃か正妃が。
そんな恐ろしい未来を思い浮かべ、俺強くてラッキーラッキー♬と歌いながら服を着る。
そしてその後は荷物を背負うと、そのまま目的の花を探しに森の奥へと進み始めた。




