53 やめろって……
( 大樹 )
「 何だ〜?おっさん、善良な一般人に絡んじゃだめでしょ〜。 」
「 俺達最初から見てたけど、そいつ何にもしてなかったぜぇ〜? 」
「 あ〜らら。
カッコつけたかったんだろうけど、勘違いだったんだから誠意は見せねぇとなぁ? 」
まさに悪い奴らのお決まりパターンのセリフに、シーン……と押し黙ると、そいつらはギャハハ!と一斉に笑う。
そして全員がナイフを抜くと、財布を盗った男が俺の頬にそのナイフをピタピタと当てる。
そして脅しの為か、その刃先を俺の首筋に当て、ス────ッと心臓辺りまで撫でるように下げた、その瞬間────その男が何者かに思い切り殴られ、横に勢いよく吹っ飛んでしまった。
おおおお???!
びっくりして殴った犯人に視線を移せば、そこにはレオンハルトが。
奴らが絡みだして直ぐにレオンハルトが近づいてきたのには気づいていたが、まさか派手にぶん殴るとは思わなくて、少々驚いてしまう。
唖然としながらレオンハルトを見上げれば……大激怒!!
ドス黒いオーラがにじみ出ている程怒っているレオンハルトに、話しかけようと開きかけていた口を思わず閉じた。
仲間が一人ふっ飛ばされ、倒れて動かない仲間、レオンハルト、仲間、レオンハルトを交互に見た男たちは、怒り狂いながらナイフを捨てて腰に差していた剣を一斉に抜く。
どうやら、レオンハルトを一目見て、強敵と思ったらしく突然の本気モードへ突入した様だ。
そのせいで周囲からは一斉に悲鳴が上がり始めた。
「 突然何だ!!てめぇは!!もしかして兵士か何かか? 」
「 クソがっ!!弱そうなおっさん一人かと思っていたが、めんどくせぇのがついていやがったか! 」
えっ?弱そうなおっさんって俺の事??
ガガ────ン!と密かにショックを受けていると、レオンハルトがピクリと肩を小さく揺らす。
「 ……ほぅ?一人だと思ったから連れ去ろうとでもしたのか?
それで?何をするつもりだった?
……確かによってたかって触れればイチコロですからね、大樹様は。 」
えっ?よってたかってきても瞬殺できるんだけど……??
言っている事に強い違和感を感じて首を傾けていると、男たちはレオンハルトの気迫……というか怒気に当てられジリジリと後退したが、レオンハルトは早かった。
一瞬で奴らの間を通り剣の柄の方で当て身を食らわせていくと、そのまま全員が派手に吹っ飛び気絶。
周りからは拍手喝采が巻き起こる。
おお〜……。
鮮やかな剣捌きは健在で、とても10年閉じこもっていたとは思えない程だったので思わず拍手したのだが、レオンハルトは怒気を漂わせたまま俺の方を静かに見つめた。
国の治安を乱す輩は全員気絶したというのに、何故怒ったままなのか?
本気で分からなくて、ハテナマークをぴょんぴょんと飛ばしている間に、レオンハルトはゆっくりゆっくりと俺に近づいてきて正面に立つと、覆いかぶさる勢いで俺を見下ろす。
「 大樹様は若い男が大好きなんですね。
嬉しかったですか?触って貰えて。 」
「 はっ???わ、若い男……???
触って……?? 」
意味不明な事をツラツラ言われて面くらい、思考を高速で回しだした。
若い男 イコール さっきの男たち??
触ってもらう イコール ナイフでピタピタ??
あ〜……もしかして喧嘩をウキウキ買ってたと思われた感じ??
「 いや、別に好きじゃねぇさ。
悪いヤツらに絡まれたって別に嬉しくないが……まぁ、髭剃りの時はいいかもしれないよな。 」
先程ピタピタとナイフを当てられた頬を差しながら戯けて言うと、レオンハルトの黒いオーラが大爆発。
ビクッ!!と身体を震わせると、その不穏な雰囲気を察知した周りもざわざわとし始めた。
「 ……へぇ〜?じゃあ、悪いヤツらじゃなきゃいいんですね。
好きになると?そうですか。
────それで?触れてもらいたいと?いつもみたいに気持ちよくしてもらいたいと、そういうことですか。
……とんだ尻軽だ。 」
「 はぁぁぁぁ────────!!?? 」
何だか不味い方向へ話が行きかけている事に気づき、慌てて俺はレオンハルトの口を塞ぐ。
すると、そのせいでレオンハルトの被っていたフードがズレて、顔が丸見えに。
周りのざわめきは大声に変わる。
「 レ、レオンハルト王子!!! 」
「 う、嘘・・確か、噂ではニコラ王に暗殺されたって……。 」
「 いや、俺は国外追放だと聞いたぞ?
そこで打倒!王家の革命軍のリーダーになったって……。 」
ざわざわ、ぺちゃくちゃ────!
それを超聴覚で聞きながら、俺は、ええ〜……と汗をドバッと掻いた。
な……何か凄い噂が広がっている……。
まさか国民の間でそんな噂が広がっているとは知らず驚いたが、確かに考えてみれば、レオンハルトが急に表舞台に出てこなくなり今まで影に隠れていたニコラが王になれば、国民的にはアレ??とはなるか〜と納得してしまう。
多分王宮側が何を言っても、噂に尾ひれどころか巨大うなぎでもくっついちゃっても無理はないだろう。
うわ〜……と困りながら、周りを見渡していると、突然顎をガツッ!!と乱暴に掴まれ、唇が触れ合うくらいの距離まで迫られた。
「 もう新しい男を探しているんですか?
あんなに毎日毎日私に抱かれているくせに……まだ足りないっていうんですか!! 」
直接的な言葉と怒鳴り声に俺は真っ白。
多分周りの人達も一斉にざわつくのを止めたから、内容はバッチリ聞こえたらしい。
驚きと・・何より羞恥で固まってしまったが、レオンハルトに周りは見えてない様で、そのままガミガミと俺を罵る。
「 俺はもう若い男に入りませんからね、大樹様と同じ年代になってしまったし。
だからって酷くないですか?歳を取ったから俺の事を捨てるんですね!! 」
「 ずっとずっと貴方を探し続けて、やっと会えたのに……俺の心を弄んで……っ!!
この悪魔っ!人でなし!!浮気者!!淫乱!!おねだり上手!! 」
「 気持ちいい事してくれるなら誰でもいいんだ……。
私の事を好きだって言ったくせに……。
いつも ” もっとして ” って言ってすり寄ってくるくせに……。 」
そこでスーパーキャパ・オーバー。
直ぐ様俺はレオンハルトを肩に担ぎ上げると、そのまま固まって微動だにしなくなった国民達を置いて、そのままシュワッチと飛んで逃げた。




