21 ザイラスの思惑
( レオンハルトサイド )
「 ────くぅぅぅぅっ〜!!あのニセ聖女めぇぇ〜!!!
腹立たしい男ですが、実力は本物だったみたいですね!全くなんて忌々しいぃぃぃ〜!!
もう用済み……と言いたい所ですが、あれだけの実力なら何かの役に立つかもしれません。
仕方ありません、囲い込みましょう。 」
ザイラスが苦々しい表情でそう言ったが、レオンハルトはボンヤリとしていて返事をしない。
「 殿下……? 」
不審げにザイラスが声を掛けるとビクッ!と反応をしたレオンハルトは直ぐに表情を引き締めた。
「 そ、そうだな。確かにあれだけの能力をみすみす手放しては勿体ない。
ユニークモンスターを倒したと言えど、まだ強化されてしまったモンスター達は多数残っているからな。
万が一を考えると手元に置いておきたい。
……だが、あの強さでは止められんぞ。 」
「 殿下、私に全てお任せを。
今、部屋へ案内しているのは性技に長けた極上の娼婦達でございます。
男を縛るには女と昔から決まっておりますからね。
奴は女に飢えています。私には一目で分かりました。
そんな飢えた中年には夢の様な時間を与え、その後もたっ〜ぷりと蜜を吸わせてやれば帰ろうとは思わないでしょう! 」
ニンマリと笑うザイラスだったが、レオンハルトの方は「 女……。 」と呟き、ピクリと肩を揺らす。
しかしそれに気付いたのはアルベルトだけだった。
「 見たところ戦闘能力以外は平均以下!
あんな冴えない見た目で若くもない男など、見た目麗しい女に迫られれば必ずや陥落するでしょう!
なんなら幾人か適当な若い女を入れたハーレムを用意してやれば、あっさりここに残ると言うでしょうな。
ただし、子供は作らせませんがね! 」
はっはっはっ〜!!と成功を確信し高笑いするザイラス。
確かにその通りだし、そんな事でここに残って上手く利用できるなら好都合────だと思っているのに何だか面白くない。
レオンハルトは正体不明のイライラに翻弄され始め思わず首を傾げた。
更に体はムズムズとしてしまい、その場で右へ左へとウロウロし始めると、ザイラスが「 殿下? 」「 どうされたのです?? 」と尋ねてきたが、レオンハルトの耳には入らない。
仕方なくザイラスはレオンハルトが止まるのを大人しく待ったが、ピタリと止まったレオンハルトは更に訳のわからぬ事を言い始めた。
「 ……本当に大丈夫かどうか疑わしいな。
仕方ない、様子を見にいくことにしよう。 」
「 ────へっ?? 」
ポカンとするザイラスと目を僅かに見開いたアルベルトだったが、謎のイライラに支配されているレオンハルトの目にはやはりその姿は写らない。
そしてレオンハルトは、ザイラスとアルベルトの返事を待たずに大樹が向かった待機部屋に向かって歩きだしてしまったため、ザイラスとアルベルトは不思議そうに顔を見合わせた後、慌ててレオンハルトを追いかけていった。
◇◇◇
「 え〜?本当にぃ〜? 」
「 嘘よ嘘〜。そんな話聞いたことな〜い。 」
「 いやいや、本当なんだって。
俺だってそんな馬鹿なって思っちゃったもん。
そんでよ〜…… 」
キャッキャッ!うふふ〜♬という楽しそうな声が扉の中から聞こえ、レオンハルトは扉の前で呆然と立ち尽くす。
「 …………。 」
そして扉を睨みつけながら、やがてスッ……とそこに耳をつけ聞き耳を立て始めると、アルベルトとザイラスが無言で見つめてくる視線にやっと気づき、レオンハルトは二人をジロリッと睨みつけた。
「 ……何だ? 」
「 い、いえ……。
……殿下、そこまで心配せずともあの二人は落とせぬ男はいないと言われている超高級娼婦達でして…… 」
「 ……ほぅ?それは心強いな。 」
そう言いながらも聞き耳を立てる事を止めないレオンハルトに、ザイラスは言葉を失い、仕方なく無表情で佇むアルベルトへヒソヒソと小声で話だした。
「 おい、アルベルト。殿下はどうされたのだ?
もしやあの娼婦達に惚れ込んでしまったとか・・……? 」
「 ……さぁ、どうでしょうか……。 」
アルベルトも、初めて見るレオンハルトの変化に少々戸惑いがある様子で首を軽く傾げた。
そんなアルベルトを見たザイラスはチィィィ!!と大きな舌打ちをした後、チクチクグチグチと、アルベルトに不満をぶつけ始める。
「 アルベルト、お前は殿下の専属騎士という立場だが何か勘違いしてないか?
戦ってばかりではなく、しっかりと殿下の情緒面もしっかりケアしてこその臣下だ!!
私を見ろ!完璧だろう?
非の打ち所のない完璧な臣下の私を見習い、今後はより一層殿下が100%満足する様な臣下に〜────…… 」
「 ザイラス。 」
ペラペラと御高説まで垂れ始めてしまったザイラスだったが、レオンハルトに名を呼ばれた事でそれを中断し「 はい〜! 」とニッコリ笑顔で答えると、レオンハルトは一言。
「 煩い。 」
ズバッ!と不満を言われてしまったザイラスは、ニッコリ笑顔のまま固まってしまった。
それからは扉の中から聞こえる楽しげな会話のみがその場に聞こえ、ひたすらレオンハルトはその会話に聞き耳を、そしてザイラスとアルベルトはそんなレオンハルトを見守る時間が続く。
そして────
……カチャッ。
扉が開くその直前にレオンハルトは、ササッ!と素早く扉から離れ、さも今来ましたという出で立ちで扉へ視線を送る。
それに対しザイラスもアルベルトも何も言わず、扉から出てきた娼婦達に視線を向けると、そのまま全員で少し離れた場所へ移動した。




