12 始祖の女王様
今回この国に現れたユニークモンスターの名付け名は────【始祖の女王】。
そしてその恐るべきユニークな能力は《周りにいる味方モンスター達のパワーアップ》だそうだ。
そいつが初めて人里に姿を現した時。
騎士団が速やかにその討伐に向かったそうだが、まずその異様な姿形に恐れおののいたらしい。
全体的には、樹齢が予想できないほどの古い樹木の形をしていて、さらにその幹の部分には長い髪の女性に見える巨大な人間がめり込む様に同化していたとのこと。
慌てて武器を構えた騎士団員達をあざ笑うかの様に、その女王様は白い霧を突然周りに散布し始め、それを浴びた全てのモンスター達がパワーアップ。
更に凶暴化までして一斉に襲ってきたため、騎士団は【始祖の女王】とその他の強化モンスター達を、なんとか森の奥の方へと押し戻せたものの、甚大な被害を受けてしまった。
「それは大変だったな。」
騎士団達と王子様を連れて【始祖の女王】が現在いるとされている森を目指しつつ、突然近づいてきた無表情騎士君のアルベルトに前回の騎士団の戦いについて聞く。
そして記憶の中にストックされているユニークモンスター達の記録を思い出すと、前回は《食べた生物の能力をコピーする能力》、その前など《固形の姿を持たない》など、いずれも未知の能力で沢山の騎士や街の人々が犠牲になってた。
この世界で周期的に起こる大厄災。
それがユニークモンスターの出現という事か……。
「健闘虚しく、騎士団の完全なる敗北でした。
ユニークモンスターの恐ろしさは、単純な身体能力の強さだけではなく、その特異性の高い能力にあります。」
「なるほどな。それで苦肉の策としての聖女召喚ってわけか。」
このままもう一度襲われたら国は滅亡する。
そう危惧した国の上層部は、今まで同様この国の禁呪とも呼ばれる聖女召喚を使ってそいつを倒して貰おうという事になったらしい。
────で、召喚されたのが俺ぇ〜。
可憐な少女が召喚されてくると思って張り切っていたのに、ただのおじさんが来ちゃった的な?
「ぷぷ────っ!!」
思わず吹き出してしまい、怪訝そうなアルベルトに手を振って何でもないアピールをした。
とりあえずそいつは現在、最初に現れた広い樹海の様な森の中で、自らを守る軍隊の様に、他のモンスター達を森の至る場所に配置させて森の奥に隠れ住んでいるらしい。
つまり今は軍隊を揃えて戦力を整えているまっ最中……という事のようだ。。
「ふ〜む……。」
俺は腕を組み、その後の展開を考えた。
多分ある程度自身の駒を揃えたら、雪崩の様に一気に人里を襲って一網打尽にするつもりなんだろう。
その考えは、森に近づくにつれビシビシ感じる沢山の攻撃的な気配から確信へと変わる。
「ちなみに強化されたモンスターは、騎士達何人くらいで勝てそうな感じなんだ?」
「強化される前のレベルによって強さが左右される為、正確にお答えする事は難しいですが……だいたい20人くらいでやっと一匹です。
元の実力が高いモンスターである場合は、もっと必要になるでしょう。
現在この場にいる騎士達は約300ですので10体以上が同時に襲ってくる場合は一旦下がる事を検討すべきです。
前回はそれ以上の数で襲われてしまったため、討伐は断念致しました。」
「うむ、良い状況判断だ。」
俺が素直に褒めるとアルベルトはパァッ!と明るい雰囲気を出してきたが……直ぐに顔を曇らせる。
「本当はもっと早く撤退したかったのですが……上の許可が降りなかったんです。
そのせいで、死者こそ出なかったものの、無駄に多くの怪我人をだしてしまった……悔しい……。」
悔しさを滲ませ視線を下に下げるアルベルトに、同情めいた気持ちが芽生える。
この国が聖女に対して行ってきた事や、今まで直接自身の目で見たザイラスとレオンハルトの人間性を見てしまえば、短期間でもうお腹が一杯だと言いたくなるくらい上層部の考え方は分かった気がした。
「そいつは酷いな。」
「この国において身分は絶対なのです。────ですのでどうか十分にご注意を……。」
最後は顔を近づけヒソヒソと耳打ちされたため、どうやらアルベルトはオレに『気をつけろ』という注意喚起をする為に近づいてきたのだと気づく。
いい青年だ。
感心しながらお礼を告げようとしたその時、突然「アルベルト。」と名を呼ぶ、非常に不機嫌な声が割って入って来た。




