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11.安堵




順を追って話した。


黒邪のことは詳しく話せないから「“妖”という人間や動物たちが持つ負の感情から生み出される存在がいて、その始祖であり王とされる強い妖が美緒に憑りついていた」と説明した。


「美緒が、美緒じゃなかった……?」


「ずっと、偽物だったっていうの……?」


当たり前だけど、混乱する話だと思う。

生まれた時から黒邪が憑りついていたから、両親にとっては今までずっと見てきた美緒が実は妖に操られている状態だったと言われても信じがたいこと。


「……その妖は陰陽師が美緒から追い出してくれたからもう大丈夫」


「そうか……」


「美緒はもう大丈夫なのね……?」


「うん。もう美緒は“美緒”として話せるし動ける」



今日何度目かの静寂がしばし空間を支配する。

一度には処理しきれない量と内容の情報を一気に伝えることになってしまったから……


「……実はお母さんたちを保護してくれていた人達が陰陽師なんだけど、」


「えっ!?」


“陰陽師”という存在については公にはされていない存在だから話そうか悩んだけど、お兄ちゃんのこともある。それに、山奥で暮らしていて別々に行動していたはずのお父さんとお母さんの両方を保護したということで不思議に思われているんじゃないかって思ったから伝えてしまうことにした。


「そ、そうだったのか……でも、色々不思議だったことに合点が行った」


「……2人が倒れてしまったのも何年も洗脳していた妖が封印されたからだったの」


「そう、だったのか……」


「……私たち何も知らない、いいえ、知ろうとしていなかったのね……」


「……」


「……」


「──……この件は天代宮の過失もある。千年前、我ら天代宮が妖の王を取り逃がしてしまったためにそなたら一家の平穏を乱してしまった。許されることではないが、謝罪しよう」


お母さんとお父さんに対して頭を下げる麗叶さん。


「そ、そんなっ、お顔をあげてくださいっ!」


お父さんの懇願に近い言葉を受けて、麗叶さんは顔をあげる。


神族を統べる天代宮である麗叶さんから謝罪を受けるというのは、受ける側にとって大きな負担となる。

それは普段は神族と関りがないような人間にとってももちろんそうで、麗叶さんもそれが分かっているからあえて軽く頭を下げるに留めたのだと思う。


……私だって自分よりもはるかに立場の上の存在からの謝罪なんてもらっても困ってしまう。

神族は真の意味で雲の上の存在だし、謝罪を受けたら反対に自分が迷惑をかけてしまったという気持ちが大きくなってしまうと思うから。


「……話を逸らしてしまったようだ。すまない」


「いえ。麗叶さんが私たちに心を尽くしてくださっていることが改めて分かりました。……ただ、お父さんも言っていた通り謝罪は必要ありませんよ? 今私が両親と話すことができているのも、美緒が無事だったのも麗叶さんのお力があってこそです。回り回って今があるんですから」


私と麗叶さんのやり取りを見て、美緒がずっと操られている状態にあったと知って悲壮感を滲ませていた両親の顔が少し和らぐ。

……いつも通りの麗叶さんとのやり取りだけど、両親の前だと急に恥ずかしくなってきた……


「は、話を戻すんだけど、さっき言った通り今日ずっと意識がなかった美緒の目が覚めたの」


「えぇ」

「あぁ」


「美緒は早くお母さんとお父さんに会いたいみたいだから、今までの事情も含めて話しておきたかったんだ」


今日お母さんとお父さんに会いに来た一番の理由。

美緒は混乱させちゃうから今までの自分のことは伝えなくていいって言ってたから、2人には何も知らないフリをしてほしいということもお願いしなきゃだけど。


「そうだったのか……」


「美緒はいつ帰ってくるの?」


「お医者さんに診てもらって問題がなければ明日にでも帰ってこられると思う。もちろん、お母さんとお父さんもそれで良ければ」


2人は一度顔を見合わせたけどすぐに頷いて私に向き直った。


「父さんたちは全く問題ない」


「えぇ、私たちも早く会いたいわ」


「わかった。美緒の様子がわかったらまた連絡するね」


「よかった……ありがとう」


「美緒が帰ってくるにあたって必要な準備や配慮なんかはあるか?」


お父さんの問いに一応伝えておこうと思っていたことを伝える。


「準備は大丈夫なんだけど、美緒は自分が操られていたことをお母さんとお父さんには伝えなくていいって言っていたの。混乱させちゃうからって」


私がそう言うと2人は少し首を傾げたけど、すぐに私が何を言いたいのか察してくれたみたい。お父さんが納得したように口を開いた。


「つまり、父さんたちは咲空からは何も聞いていないという体で美緒に接すればいいんだな?」


「うん。……本人が望んだわけじゃないけど、今までのことから“美緒”を誤解してほしくなかったの。私もまだ少ししか話せていないけど、本当に優しい良い子だった。本人が一番混乱してるだろうからそれとなくサポートもしてほしくて……それでこうして話すことにしたの」


「そうね……私たちも何も知らないままだと今の美緒を余計に傷つけてしまうかもしれなかった……教えてもらえて助かったわ」


「あぁ。少し厳しくした方がいいかもしれないと考えていたんだ」


「ふふっ、美緒に会うのが楽しみね」


「そうだな」


よかった。

“美緒”もずっと両親と話がしたいと思っていたはずだから、こうして両親が美緒を受け入れてくれている様子を見て安心した。


きっと、今までの違いから戸惑うこともあるだろうけど、今の両親や美緒なら大丈夫だと思える。



「それにしても、咲空は“美緒”に会ったんだな」


「うん。ここに来る前に会ってきた」


「来る前に? 陰陽師の方々がいらっしゃるのはかなり遠い場所だったし大変だったんじゃない?」


「あ、麗叶さんのおかげで遠い場所でも一瞬で行き来できるの」


「?……あ、なるほど。時空を越える術でしたか? 私共も聴いたことがあります」


お父さんは少し不思議そうにしたけどすぐに思い当たることがあったみたい。


……名前は出ていないけど、朋夜から聞いたのだと思う。

彼が毎日のようにこの家に通っていたのは、朋夜の神力量では毎日この人間の世界と雲上眩界を往復するのが難しいからだというのは私も聞いていたし……



両親は始終恐縮した様子ではあったけど、麗叶さんも交えて他愛もない普通の家族のような会話に花を咲かせた。


……少しは安心させられたかな……?


お父さんもお母さんも黒邪の術が解けてからはすごく私のことを気にかけてくれていて、家を出た時に助けてくれた人のところでお世話になっているとは伝えていても、私を助けてくれたのがどんな人なのか、その人と私はどこに住んでいるのかなんてことは全く伝えられていなかった。


それまで家族らしい関わり方をして来なかった両親だけど、本来は愛情深くて優しい人達だったから……今までの罪悪感からも私がどんな生活をしているのかはずっと気になっていたと思う。


実は神族の半身で、幸運にも助けられたなんて考えられるはずもない。


挨拶をしたいという両親の言葉を躱し続けてきたし……


連絡先を交換していないから定期的に連絡を取り合うこともできなかったから余計に不安だったと思う。




「……咲空が幸せそうで本当によかったわ」




そう言うお母さんとその隣で微笑むお父さんの顔には安心と喜びと、少しの寂しさが混ざったような表情が浮かべられていた。
























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