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10.激白





「──お母さん、今日は大切な話があって来ました」


「たいせつな、はなし……?」


お母さんは私の隣に立つ麗叶さんに完全に意識を奪われているようでいても私の声が耳に届いたようで、呆然と私の言葉を繰り返している。

……私の声が耳に届いてはいても、驚きすぎて言葉の意味をうまく処理できていないって感じではあるけど……


「うん。突然来ちゃってごめんなさい……中に入ってもいい?」


「中に……」


「……お母さん?」


「──あっ、あぁ、ごめんなさい……その方は……いいえ、なんでもないわ。さぁ、入って」


「ありがとう……お邪魔します」


「……」


麗叶さんは言葉を発しはしなかったけど、お母さんに会釈をしてから私の後について家に上がった。


……黒邪の術が解けてから何度か両親に会いにこの家に来ているけど、久しぶりに来た時も家に入る時に自然と『お邪魔します』という言葉が出てしまった。両親にはいつも寂しそうな表情を浮かべさせてしまうけど、何か言われたことはない。


きっと、今の両親に向かって『ただいま』と言えば、一度も返されたことがなかった……かつての私が求めていた『おかえり』という言葉をもらえると思う。

でも、私の帰る家はここではなくなってしまった。この家は実家ではあっても、私の心が帰る場所であったことはなかった。一度も。

だからきっと、両親も私のそんな気持ちを察して、何も言わずにただ私の訪れを喜ぶ言葉をくれるんだと思う。


今日のお母さんは驚きすぎて考える余裕をなくしてしまったかもしれないけど……


……最初は麗叶さんに姿を消してもらうべきだったかな?

思っていた以上に驚かせてしまったみたい。


今日は麗叶さんのことも含めて今まで以上に話せなかったことを話しに来たんだし、すぐに姿を見せてもらうならば、麗叶さんの話が出るまでの間の話を姿を消した状態でするというのも両親からしたら快くはないだろうから最初から隣にいてもらおうと思ったんだけど……


……うん、麗叶さんの存在を考えればどのタイミングで姿を現してもらっても驚かせてしまうことには変わりないだろうし、これでよかったはず……











* * *












リビングのソファでは本を読んでいた様子のお父さんも、お母さんの後に付いて部屋に入った私を「来てくれてありがとう」と笑顔で迎え入れた数瞬後、さらに私の後に付いて部屋に入った麗叶さんを見て目を見開いて固まってしまった。


「お父さん」


「あ……どうぞ、いらっしゃいました……」


お母さんはすでにある程度の平常心を取り戻していたみたいで、固まってしまったお父さんに声を掛けてくれたけど、きっと頭の中はまだ混乱していると思う。


……整った容姿と美しい白銀の髪を見れば麗叶さんが神族であることは一目瞭然。

私の家族は日常的に朋夜と会っていたから普通の人達よりもずっと神族との交流が深いけど、麗叶さんの気配というか……その身を取り巻く神聖で荘厳な空気は朋夜よりもずっとずっと重い。



「お父さん、咲空が大切な話があるんですって」


「そうか……こっちで話そう」


お父さんが麗叶さんと私を「こちらへどうぞ」とダイニングテーブルの方へ案内する。







全員が座ってもその場を支配していた静寂を打ち破ったのは麗叶さん。


「我の名は天代宮麗叶」


「!?」


「あ、天代宮様……!?」


「うむ。そして、咲空の半身である」


「そう、でしたか……」


麗叶さんが名乗った時には、目の前にいる存在が神族であるということはわかっていても思っていた以上に高位であったためか言葉を失ったようだったけど、私が麗叶さんの半身であるということに対しては2人ともどこか納得したような様子。


「驚かないの? 私が半身だったこと……」


「……ずっと、不思議には思っていたの。咲空の顔の火傷はその……酷いものだったし、時間も経ってしまっていたでしょう? それに、神族である朋夜様の神術によるものだった……」


「最初は綺麗に治って良かったとしか思っていなかったんだが、時間が経つほどに人間の技術でそんなに綺麗に、何もなかったかのように治すことなんてできるのかって疑問が沸き上がってきたんだ……」


「それで、もし治せるとしたら神族の方にしか無理なんじゃないかって……もしそうなら、咲空も神族の半身だったんじゃないかって」


「まさか、神族でも最高位であらせられる天代宮様だとは思ってもいませんでしたが……」


代わる代わる口を開く様子から、何度もこのことについて話していたんだろうなということが分かる。

……お父さんもお母さんも私のことを助けてくれた人について会ってお礼を言いたいとは言っても深くは聞いてこなかったけど、なんとなく予想していたんだ……



「天代宮様……咲空を、娘を助けてくださり誠にありがとうございました」



お父さんがお礼を言って頭を下げるのに合わせて、お母さんも深く頭を下げる。


「……よい。当然のことをしただけのこと。顔をあげよ」


「「……」」



2人ともしばらく頭を下げたままでいたけど、何十秒か経ってゆっくりとこちらに向き直った。



「……申し遅れましたが、咲空の父の姫野颯太(そうた)と申します」


「母の彩斗美(さとみ)と申します」


「此度は突然の来訪を受け入れてくれたこと、感謝する。今後は顔を合わせる機会が増えるだろうが、よろしく頼む」


「こちらこそよろしくお願いいたします。こうしてお越しいただけたこと、重ねて感謝申し上げます」


「うむ」




再び訪れたしばしの静寂。

そして、今度の静寂を打ち破ったのはお母さん。


「……咲空」


「なに?」


「大切な話というのは、天代宮様のことだけではないのでしょう?」


「! う、うん」


なんで分かったんだろう?

麗叶さんのことも両親に会いに来た理由の一つではあるけど、それを今日にしたのは美緒のことを伝えるため。……それと、できたらお兄ちゃんのことも。



「美緒のことで……」


「美緒?」


「うん。お父さんとお母さんには雲上眩界にいるって伝わってるよね?」


「え、えぇ……倒れていた私達を助けてくれた方々がそう伝言を預かったって……。でも、連絡をしても返信がないの。雲上眩界は圏外で電波が届かないのかもしれないけど……」


「朋夜様と雲上眩界にいるならば危険はないんだろうが、2ヶ月も連絡が取れないとなるとな……」


やっぱり2ヶ月も音沙汰なしとなると心配をかけてしまっていたみたい。

雲上眩界にいるとなると警察なんかにも相談のしようがないし、半身の神族と一緒にいるというのは安全が保証された状態であるとも言えるから、気を揉ませてしまっていたと思う。


「……実は、美緒はずっと意識がない状態だったの」


「えっ、」


「だ、大丈夫なのか?」


「今日目を覚ましたよ。……混乱はしてるけど、体調は大丈夫そう」


「そ、そう……」


「それで、美緒がこの家に帰ってくる前に伝えておかないことがあって……」


なんて言えばいいんだろう……

今までの美緒が、生まれてからずっと慈しんできた娘が、ずっと身体を乗っ取られていた状態だったなんて……


「……咲空、教えてほしい……ゆっくりでいい。全部、聞くから」



お父さんの強い意志を感じさせる声。

隣でうなずくお母さんも優しいけど覚悟のこもった目をしていた。













































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