むか~し、むかし。
あるところに、一人の騎士様がおられました。
その一太刀は、山を砕き、敵軍を打ち払い、魔物を切り刻みました。
そうです。
騎士様の世界には、不思議があり、魔法があり、モンスターまでおりました。
騎士様の比類無き強さ、高潔な生き様、そしてその美しい白磁色の鎧。それ以上に見目麗しいお姿から、国王を始め国民から尊敬と敬意込めてこう呼ばれていました。
『純白の騎士』と。
ただ、それも今は昔。
今は「アレ」または、「ソレ」と呼ばれています。
それは王国の危機に立ち向かい、魔王とも魔神とも呼ぶべき強大な何かを討ち果たしたあの日から。
強大なるモノは事切れる間際、騎士様へ『我を倒した者よ。汝に祝福を。その強さを更なるものとし、いかなるモノも、汝を打ち倒すことは給わぬだろう』と。
その言葉通り、騎士様は比類なき力を得ました。
より強い力、より早く動く足、いかなる傷もたちどころに治る身体をです。
……人の姿を捨てる事と共に。
左半身は、美しい女人の姿。
もう半身は、醜悪を形にしたモノへと変わり果てました。
しかし、鎧で隠してしまえば良い話。でも、そうはうまくいきません。
極端に膨れ上がった右半身の肌は緑色に変わり、その表面は絶えず気泡が弾け、嗅ぐに耐えない悪臭と不快な汁をその都度撒き散らします。
気泡の弾けに合わせて緑の肌も裂けるのですが、その汁が直ぐに塞ぎます。
それを繰り返す光景はとても見るに耐えません。
その汁はなぜか布を溶かすだけでなく、鋼の鎧をも溶かしてしまいました。
当然、騎士様の呪われた姿を何とかしようと国をあげて手を施しましたが、どれも叶う事はありませんでした。
そんな姿になっても、これまでの功績から誰も騎士様を虐げる事はありません。
騎士様は歪んだ御姿になった後も、国の安寧に勤めました。
その姿に多くのものが感動を覚えていました。
騎士様の功績を、肌を持ってお知りに成られる方々が存命の間は。
騎士様は、醜悪な姿にあわせ人を超えた寿命を得ていたのです。
子の子。その孫。孫の孫。
騎士様は忠義に従い、国を守り続けました。
いつしか騎士様の元の姿を知る者は無く、騎士様も人の姿を残す左半身を人目に晒すことも無くなり、騎士様は『騎士様』と呼ばれなくなりました。
それでも騎士様は戦い続けます。
――今日も。
――今も。




