第8話 これは私への試練なのでしょうか?
聖女たちが暮らす居住区域とは別の建物に、この王都の教会をまとめている大司教の執務室があるのです。
私は大司教の執務室の扉の前に立ち、取次の小姓にここに来た要件を言います。
一時間でも二時間でもここで粘って待ちますわよ。
「入りなさい」
あら? 思っていたより早く入室の許可がもらえました。いつもなら一時間は待たされますのに。
「失礼します。神聖女フィエーラでございます」
私はそう名乗って、部屋の中に入って行きます。
「ちょうどよかったです」
私に声をかけてきたのが、この教会の大司教ルドラディール様です。
白地に金糸をたっぷりつかった司教の衣服をまとい、神の教えを説く人物とは思えない目つきの悪いオッサンです。
裏で悪巧みをしていても、納得できる容姿です。
まぁ、たぶん頭の上に載せている眼鏡の存在を忘れているだけなのでしょうけど。
なぜにこの場に、聖騎士ラフェシエンがいるのでしょうか? それも見慣れない白い聖騎士の隊服を身に着けてです。
「フィエーラ。青狼騎士団から護衛騎士の件を聞きましてね。代わりにラフェシエンに貴方の護衛を頼むことにしました」
「……私は女性騎士がいいと、ずっと申しているはずですが?」
「それが、他の騎士団にも色々声をかけましたよ。しかし、君が望む女性騎士が空いていないのですよ」
確かに女性の騎士は少ないでしょうが、一人ぐらいいるのではないのですか?
「不服そうですが、君の護衛は一定の基準を満たさないと、こちらとしても許可ができません。それに聞きましたよ。お忍びで二人でデートしていたそうじゃないですか」
「……お祭り散策権を使っていただけです。デートではありません」
「そうですか? 一緒に大道芸人を見て楽しんでいたとか、食べ歩きをしていたとか、神聖女が聖騎士に抱っこされて移動していたとか色々噂を聞きましたよ?」
「ぐふっ!」
本当のことですが、なにかくるものがあります。私は運んで欲しいと一言も言っていません。
「ということで良いですよね?」
あの額のメガネを消滅させましょうか。
私は私の意見などないと言わんばかりの大司教に向けて右手を掲げます。
「ちょっとそれは勘弁してくださいよ。良いですか。これは最も理にかなった采配ですよ。王都の異変もそうですが、地方でも魔物の異変の報告を受けています」
確かに護衛騎士の彼女の結婚が早まった理由がそれにあたります。
ですが、納得できません。
「神聖女フィエーラ様。道中はなるべくご不便をおかけしないようにいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします」
「はぁ、ラフェシエン様を王都の守りに残されたほうがよろしいのではないのですか?」
私に向って頭を下げるラフェシエンを横目で見ながら大司教に尋ねます。
王都もここ最近きな臭いので、防衛が必要です。
「私としては、神聖女のフィエーラの護衛の方が優先度が高いですね。あと、その手を下ろして欲しいものです。一言で消滅させられては、たまったものではありません」
「私の言葉で消滅させられるものは、魔物か魔に魅入られた者しか消滅できませんよ。まぁ、信者から金品を巻き上げている大司教様に効くかどうか、試してみたいのは常々思っております」
「寄付です。寄付」
私が散策権をもぎ取った方法は、こうやって大司教様を脅したからなのです。
人はやましいことがあると、私には近づいてきませんからね。
ええ、言葉だけで魔の者を消滅させてしまう神聖女。その存在は敬れていますが、恐怖の対象でもあるのです。
仕方がないので私は右手を下ろします。
「取り敢えず、今回のお務めだけということでよろしいのでしょうか?」
今回は諦めましょう。次のお務めまでに女性騎士を探してくれたらいいですわ。
「いいえ、フィエーラ様。本日付で私は神聖女フィエーラ様の護衛騎士となりましたので、これからよろしくお願いいたします」
……え?それは困りますわ。
「なぜ、このようなことに」
思わずぼそりと呟いてしまいました。
「それは勿論、フィエーラ様をお慕いしているからです」
……何を言われたのか一瞬理解できませんでした。おしたい? お慕い?
主よ。これは私への試練なのでしょうか?
こうして、護衛騎士が変更になった私は、南の地に旅立つことになったのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
2026.05.07
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