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ぴかびかどろだんご

 目を開いてすぐに感じたのは違和感だった。手足があるのに、ないような。そんなちょっとした、でも大きな違和感。そんなことを感じるのと同時に、自分が今抱き抱えられていることに気づいた。

 

「あ、起きたみたいですよ」


 と、そんな知らない女性の声を聞いて、衝撃をみたいに意識が覚醒した。このセリフは……。


「おお!」


 男は元気に質素なベッドから立ち上がると、まるで未知の生物でも見るかのように僕の手を指先で突いた。そんなほんの小さな衝撃が、思った以上に重くてそこにまた、僕は大きな違和感を感じる。


「あんまり驚かせちゃダメですよ」


 その女性は視線を僕に向けると、安心させるように頭を撫でた。間違いない。ここは僕の書いた小説の世界の中だ。このセリフにこの空間、まさに僕が想像していたあの世界と同じ。

 この質素なベッドも、狭い木の部屋も、優しい母も、元気な父も、全部知っている。まさか、こんなことが。


 小説世界に転生ならまだしも、主人公に転生か。はっきり言おう、最悪だ!

 僕の小説は無双系じゃない。だから主人公に最強の能力があるとかもなければ、なんなら魔法の才能がないのだ。


「うあ」


 思った通り、まだ言葉が喋れない。なんなら体も上手く動かないし、感覚も敏感で気持ちが悪い。そして何より、この小説は5歳まで一気に飛ぶ。つまり今から5歳までは、特に知識で無双することができない。


 めっちゃ暇やん。



*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 

 異世界に来てから一年が経過した。いや異世界と呼ぶよりは、小説世界と呼ぶ方が正しいかもしれない。動けない暇な頃に、無理矢理体を動かそうとしたことで、今は常人より筋力がつきこの歳にして走ることができる。さらには滑舌がめっちゃ悪い人くらいには話せる。

 言語は日本語だった。理由はわからないが、二次元の日本語の小説の世界に、3次元から入ったことによるものなのだろう。自分でも何言ってるかわかんなくなってきた。

 

「誕生日おめでとう!」


 ミゲルが大はしゃぎで僕の体を持ち上げた。ミゲルとは父親の名前だ。ミゲル・ベネディクト。にしても、僕よりはしゃいでるなこの人。


「はいはい、はしゃぎすぎないでくださいね」


 美しい金髪の髪に、落ち着いた雰囲気を纏う彼女はアマリア・ベネディクト。僕の母親だ。アマリアはあまりいい顔していないが、無理もない。この世界に誕生日を祝う文化はない。なんなら誕生日を死に近づく日として、嫌っているまである。だが、ミゲルの家の伝統でいつもこうやって祝っていたらしい。

  僕は顔を背けて、小さく呟いた。


「そんな設定は使ってない……」


 すると聞こえてしまったのか、ミゲルは大袈裟に驚愕の表情を作った。


「え! 今なんか喋った!?」


「な訳ないでしょ。まだ1歳ですよ、浮かれすぎです」


 アマリアは淡々と野菜を刻みながら、呆れたように強い口調で言った。やっぱり誕生日を祝う日とはどうしても思えないようだ。多分、気分としては僕たちの世界でいう、命日に近いものなのだろう。アマリアの表情からは少し悲しげなのが窺える。


「ちぇ〜、アマリアももっと浮かれようぜ!」


 ミゲルは拗ねたように腕を下げ僕を下ろすと、アマリアの方へちょっかいをかけに行った。なんて言うか、子供っぽいな。まるで高校生カップルのような、ミゲルはこんなキャラではない。僕が書かなかった5年でミゲルも大きく成長したんだろうな。とても不思議な気分だ。


「ねえねえ〜」


 ミゲルは構ってもらうと必死で頬を突いたり、つまみ食いをしたりしたが、アマリアは無反応だった。いやほんとに子供っぽいな! 待てよ、まずまずミゲルまだ18歳くらいじゃね!?


「お、どうしたルイス? そんな驚いて」


 そう改めて見ると、アマリア可愛すぎないか?  いわゆる金髪美少女。血が繋がっているのが悔しいくらいだ。ミゲルの方も茶髪イケメンだし。つまりつまり、僕もイケメンってことじゃん!


「うへへ」


 あ、でも、そういや主人公はブスに設定してたな僕……。


「ほら、ルイスも嬉しそうだぞ!」


 ミゲルは僕に指を刺して、視線を行き来させた。ま、まあいいや。別にイケメンじゃなくたって、僕はこの世界の制作者なんだ。やりたい放題のはず。


「あ、そういえば……これ!」


 ミゲルはしゃがんで自分のバッグから、何かを取り出すとそれを僕に見せた。

そして腰に手を当て、自慢げに笑った。


「泥団子だ!」


 いらなっ! ってめちゃくちゃピカピカじゃん。こんなのどうやって手で作ったんだ?


「はあ…料理できたので、その泥は早く捨ててきてください」


 アマリアは呆れてため息をつくと、野菜がたっぷり入った鍋を机に置いた。ほんと毒舌だなこの子。僕は流石に可哀想だったので、大袈裟に喜んで見せて泥団子に触れてあげた。


「わぁー」


「ほ、ほら喜んでるじゃん」


 ミゲルは少し焦りながら僕を持ち上げ、泥団子に夢中の僕をアマリアに見せつけた。


「ほんと、誰に似たんだか」


 アマリアはため息をついたが、その表情はどこか嬉しそうだった。僕の前でイチャつくなよ、リア充は爆ぜろ。まあでも、自分の家族の幸せくらいは願ってやるかな。

 その夜はどこかいつもより騒がしくて、でも居心地は悪くない日だった。

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