第18話:氷山からマンモス~サメ肌対策
最初のお手玉形の『パッド』は、半月形の低反発ウレタンをストッキングで包んだだけの小さなモノ。
左右を繋いで作ったモノは小さすぎてあまりソレっぽくなく。
改めて大きく作り直してみたものの、単純な円錐形だと、デコルテのディテールがイマイチと言うことで。
左右を水滴型にして、正面から見るといい感じにはなったものの、身体に当たる部分が真っ平でフィット感が無く浮いてしまい。
通算としては、五度目となる、挑戦。
アカネの手伝いなのか邪魔なのか解らないボケやら突っ込みやらで失敗もありつつ。
でもなんとか。
「あれ? なんか掘り下げてる?」
物体を内向きに削り込んで窪みを付けている。
「うん。今回は自分の身体に当たる内側の方から加工してみてるの」
「なるほど」
「自分の身体の曲面に合わせて、こんな感じで……」
左右と中央を少し残して、円錐の裏側に少し大きめの窪み。
ある程度形が整ったところで、上半身に着ているものを脱いで、物体を添えて確認。
「ん……真ん中はもうちょっと削った方がいいかな?」
また服を着て、ちょきちょきと物体の裏側を削る。
そしてまた脱いで、確認。
「ん……こんな感じ?」
アカネにも左右から確認してもらう。
「うん、いい感じじゃない?」
「ありがと」
裏側の加工は一旦終了して、表側。
こちらは、前回とほぼ同じ工程で。
水滴型の下側の円錐部分をまるくしつつ、水滴の上部へと自然な形で削り込んで行く。
一度行った工程なのでテキパキと。
ちょきちょき、ちょっきん。
ちょきちょき、ちょっきん、ちょきちょき。
「いやぁ、手際いいねぇ。見ててなんか気持ちいいわぁ」
「ん? そぉ?」
相変わらず。
机と自分の身体の間にゴミ袋の入り口を固定して。
その上で、加工。
自然と切りクズがゴミ袋に落ちる。
ただ、細かいクズは、ふわっと、ゴミ袋に入らずに外へポロリ。
アカネがそれをつまんでゴミ袋に、投入しているのだけれど。
アカネの居る方とは逆方向に飛んだ切りクズを拾うため、机に手をついた時。
「あ!」
「え?」
かたん、と、机の上に置いてあった飲みかけのペットボトルのコーヒーが倒れる。
運悪く、キャップがきっちりと締まっていなかったらしく。
とろり、と、零れだしてしまうコーヒー。
「わ・わ・わ、ごめん」
アカネがあわててペットボトルを立てるが、逆にその勢いでキャップが外れてコーヒーが机の上に飛び散り。
「あ・あ・あ・あぁあっ」
惨事。
「うわ……ティッシュティッシュ」
雪人とアカネ。
夫婦二人で、後始末の共同作業。
大量のティッシュを使って零れたコーヒーを拭き取ったのはいいが。
「あー……これも濡れちゃってるね」
机の上には物体から切り取った少し大きめの切りクズが置いてあったが、それもコーヒーまみれに。
「え? でも、これって……?」
コーヒーまみれになった物体の切りクズが。
「……肌の色?」
「うん、そっくりだね、カラースプレーで着色したのと」
飲んでいた……こぼれたコーヒーは、無糖のミルクコーヒー。
それを吸った低反発ウレタンが。
肌色に染まっている。
吸ったコーヒーをぎゅっと絞ってみると、少し色が薄くなり。
「いい感じ?」
「うん……いい感じ……」
まだ湿ってはいるが。
ぷにぷに、と、握ってみると。
「これなら、手触りも変わらなくていいかも?」
「氷山からマンモス?」
「……瓢箪から駒、かな?」
「そうとも言う!」
そうとしか言わないよね? とは言わない、優しい旦那さま。
しかし確かに。
ちょっとしたミスと言うか、事故から。
意外な事実に気付く事になり。
「とりあえず、これ乾いたらどうなるか、確認しようかな」
「あ、じゃあ、ベランダに干して来ようか?」
「うん、お願いできる?」
「はいよー」
濡れた小さな物体の切れ端を持ってアカネがベランダへ行って、洗濯ばさみに挟んで吊るす。
「干して来たよー」
「ありがとう」
「うまくいけばサメ肌問題も解決だね」
「うん、でも……」
「何か問題でも?」
「いや、飲み物だし、後からカビって来ないかとか、匂いとかどうなるかなって……」
「あー……」
懸念もありはするが。
「とりあえず、こっちの加工は進めるよ」
「おー、がんばろー」
もうすぐ夫婦。事実上の夫婦、ふたり、仲良く。
作業を。
つづける。




