第89話「番人の元へ」
フィーヴェ。
フィトラグスの国・インベクルにティミレッジ、ソールネム、オプダット、チェリテットの四人が来た。
魔王討伐の仲間がそろったのは約一ヶ月ぶりだった。
募る話もあるが緊急事態のため、すぐに王の間へ通された。
今回はソールネムが連絡を入れた際、国王・ダトリンドからも「こちらからも連絡をしようと思っていた」と言われた。
「単刀直入に申す。ここ最近の異常気象についてはご存知だな? あれは全て、超龍復活の前触れと思われる」
フィトラグス、オプダット、チェリテットは驚きで言葉が出なかった。
ティミレッジはソールネムから事前に聞いていた。
超龍復活は信じたくなかったが、国王から正式に告げられた今、確信せざるを得なかった。
一方で、オプダットとチェリテットはディファートの子供を保護したばかりで、超龍のことなど予想だにしていなかった。
「超龍って、おとぎ話じゃなかったんですか?」
「残念ながら大昔に実在していたのよ。当時、フィーヴェで最も魔力の強い魔道士たちが命を懸けて封印したのだから」
おそるおそる尋ねるチェリテットへソールネムが答えた。
倒せないほど強いので、封印という手を取るしかなかったのだ。
「もし復活したら、どうなるんですか……?」
今度はティミレッジが戦々恐々としながら尋ねた。
「フィーヴェは間違いなく滅ぶ。超龍の全長は、フィーヴェの大陸よりはるかに上回る」
「確か、海の底に封印されていたはず……。復活した時はそこから出るのですよね?」
「そうだ。大陸は崩壊する」
ソールネムに答えるダトリンド。その内容にフィトラグスたちはぞっとした。
さらに、国王からの知らせは彼らを震撼させた。
「それは序盤に過ぎない。フィーヴェの大陸が無くなった後は他の世界へ飛ぶ恐れがある。超龍は魔力にも長けており、空間移動も可能だとか。元々は別世界からこちらに来たようなのだ」
「何もフィーヴェに来なくても……」
超龍の能力について聞いたオプダットも顔が青ざめた。
「時期は定かではないが、復活は確実に来る。何せ、封印に使った魔法の効力も、そろそろ切れると言われて来たからな」
「我々はどうすればよろしいですか?」
フィトラグスはうろたえながらも真っすぐな目で国王を見た。
ダトリンドにはわかっていた。自分と同じ正義感の強いフィトラグスなら「超龍と戦ってフィーヴェを守りたい」と思うと。
国王が答える前に、彼は予想通りの発言をした。
「俺たちの力が通じるなら、超龍と戦いたいです。フィーヴェが無くなるなんて考えたくありません」
フィトラグスに続いて、ティミレッジとオプダットも言った。
「武具も魔法も昔より進化しているのですから、今度こそ超龍を倒せると思います。僕は援護しか出来ませんが、皆を勝利へ導くお手伝いをしたいです!」
「俺も戦う! 皆で力を合わせれば、超龍を何とか出来ると思うんだ。何せ、俺らはディンフルからフィーヴェを救ったえいようだからな!」
「“英雄”だし、国王様相手なんだから敬語を使いなさいよ!」
オプダットの言い方にチェリテットがつっこんだ。
そのまま、ソールネムも国王へ意見を言った。
「私も参戦します。超龍に通じるかはわかりませんが、生まれ育った世界を見捨てるなんて出来ません」
「私も同じです。世界中の戦士達を集めて、フィーヴェを守りましょう!」
「それ、いいな! アンチ団結だな!」
「“一致”!!」
ソールネムの次に言ったチェリテットへオプダットが喜んで賛成するがやはり言い間違え、全員からつっこまれてしまった。
五人の意見を聞いたダトリンドは、少し考えてから口を開いた。
「皆の覚悟はわかった。だが戦うとなれば、ディンフルを相手にしていた頃とは比べ物にならない。それだけは心しておけ」
作戦は後日立てることにし、今日は一旦解散した。
オプダットとチェリテットはディファートの孤児の報告が出来なかった。
今は超龍問題を片付けなければならなかったからだ。
◇
リアリティア。
ユアとディーン(ディンフル)は再び外出した。今日はディーンが扉の番人を魔法で探り、感じた気を辿って行く。
しかし外に出て、すぐ問題にぶち当たった。
「海外だったらどうしよう……? 明後日、学校だから今日か明日には帰りたい!」
「遠方なら空間移動だ」
「魔法使うの?」
「探るのも魔法だが? あと、リアリティアから出るにも必要だぞ」
ディーンに言われ、ユアは何も言えなくなった。
魔法が使えなければ異世界へ行くことも出来ないし、そもそもディンフルがリアリティアへ来ることも不可能だった。
幸い、探り当てた場所は電車で行ける距離だった。
ユアが初めて行く場所で、普段よく行く街よりもはるかに都会だった。
電車から降りると、ビルの高い場所に設置された画面に流行りの映像が流れており、建物もあちこちにあり、人通りも多かった。
リアリティアにまだ慣れていないディーンは早くも目移りした。
「本当にゴチャゴチャしているな……」
スクリーンにはイマストⅤの映像も流れていた。
流れ出したのはユアが初めて見る映像だった。
「うひょ~! このトレーラー、見たことない! 新たな角度のディン様だー!!」
ユアが興奮し出すと、ディーンは急いで彼女を引っ張り連れて行った。
「何すんのさ~?!」
「本人がここにいるだろう! あと、今日は遊びに来たのではない!!」
◇
ディーンに連れて行かれた先は、何とテレビ局。
ディンフルが飛ばされたところとは違う局だった。
「何でテレビ局?」
「探って来た結果だ。行くぞ」
警備員が仁王立ちでこちらを睨んでいるにも関わらず、ディーンはまっすぐ歩き始めた。
ユアが急いで止めた。
「ストーップ! ここがどこかわかってるの?!」
「わからぬが、俺が飛ばされた時と同じようなところだ」
「テレビ局に飛ばされたの? よく入れたね……」
「入れたというか、どこかの演者の準備室に着いたのだ」
「そうなの?! じゃあ、今からどうやって入るの? こういうところの見張りは厳しいよ。警備員さんも怖いし……」
「邪魔立てするなら倒せば良い」
「ここではダメなの!! 警備員さんの格好をしてるなら入りやすいけど、もうディーンに変身しているからな……」
今、ディンフルは魔法で変身し、「ディーン」と名乗っていた。しかし、変身は魔力の消費が激しく、一日に一度しか使えない。
だからと言って、力ずくで入ると逮捕は免れない。そうなるとディーンとは引き離され、ユアはリマネスの屋敷に戻されてしまう。
せっかく扉の番人を見つけられたのに大きな壁にぶち当たる二人。
そこへ一人の通行人が警備員に入館証を見せた。
警備員は「お疲れ様です」と労いの言葉を掛け、相手をそのまま通した。
「あれだ!」
すぐにひらめいたディーンはユアのキャスケットを一旦マントに戻すと、次は入館証に変身させた。
マント自体にも変身させる能力があった。
「これで良い」
「なるほど……」
一瞬で機転が利くディーンに、ユアは唖然としながらついて行った。
そして、「彼といれば不可能なことは無いのでは……?」と思うのであった。
早速、ディーンが入館証を見せる。
「お疲れ様です」
見せられた警備員が労いの声を掛け、中へ入れてくれた。
これで一安心、と思いきゃ……。
「お待ちを。入館証の提示をお願いします」
入館証を持っていないユアが止められた。
すかさずディーンが庇う。
「私の妹だ、悪さはしない。入れてやって欲しい」
「申し訳ありませんが、ご家族でも入館証を持参していない方は入れることが出来ません」
「そんな……」落胆するユア。
「失礼」
テレビ局の中から、ミカネのマネージャーであるサモレンがやって来た。
三人は彼を見るなり、驚愕した。
ミカネはリアリティアでは知らない者がなく、警備員でもファンが多かった。
そのマネージャーから直接話しかけられたのだ。平静でいられなくなるのも無理はなかった。
「私の知り合いです。どうか入れて頂けないでしょうか?」
「し、しかし、規則がありますので……」
「今回は入館証を与えなかった私の責任です。咎めるのなら、私にお願い致します」
ファンのミカネのマネージャーを怒るなど、仕事上でもその警備員には出来なかった。
彼はサモレンに従い、ディーンとユアをテレビ局内へ通した。
「ようこそお越しくださいました。さあ、参りましょうか」
サモレンは当たり前のように笑顔で案内し始めた。
突然の出来事にユアとディーンは開いた口が塞がらなかった。