第88話「夢の中の助言」
リマネスと駅で鉢合わせしボディガードを倒せたが、今日は帰ることにした。
「しつこい奴だ。休日まで襲って来るとは……」
「ディン様、ケガはない?」
「俺は大丈夫だ。むしろ、向こうの方がしているだろう」
ユアは心配するがムダだった。
ディーン(ディンフル)の言うとおり、階段から落ちたボディガードたちの方がケガをしていたからだ。
すると彼は急に、人通りが少ない場所へユアを連れて行った。
「試してみるぞ」とユアの手を取り、もう片方の手を上げて魔法を使った。
しかし、やはり空間移動は出来なかった。
「何でまた使えなくなったの?」
「探索魔法は使える。空間移動のみがダメかもしれぬ」
「でも私、ずっと異世界に行ってたよ」
「その力も、今は使えないのだろう?」
ディーンに言われて、ユアは思い出した。
使えないのは、彼の空間移動だけではなかった。
「引き続き、方法を探る。俺も、仮の姿で居続けるのは疲れるのでな……」
その夜、職員補助の仕事を終えたディーンは部屋のベッドに入った。
前日に夜ふかしして睡眠が足りてなかったので、すぐ眠りにつけた。
◇
夢を見た。
ディンフルの姿に戻った自身の前に、火の精霊・サラマンデルが姿を現した。
「元気にしておるか?」
「お前か……」
望んでいない再会にディンフルは思わず嫌な顔をしてみせた。
「“お前か”とは何じゃ?! せっかく来てやったと言うのに!」
「頼んでおらぬ」
「じゃあ、リアリティアから異世界へ飛ぶ方法を知らなくてもいいのじゃな?」
きっぱりと言うディンフルへ、サラマンデルは意味深なことを告げた。
「異世界へ飛ぶ方法?! 知っているのか?」
「当たり前じゃ! わしを誰だと思っておる? 炎の力でどんな世界の情報も集められるのじゃぞ! あと、今は魔法でお前の夢に出て、テレパシーを送っておる」
サラマンデルに反論され、ディンフルは少し考え込んだ。
「ちょっと待て……。前に、“リアリティアまでは探れぬ”と言っていなかったか? どうやって、私へ魔法を届けているのだ?」
「実は、お前さんにこっそりと、追跡用の火の粉をつけておいた」
「火の粉?!」
ディンフルは急に自身の身を探り始めた。
どこか燃えていないか心配になったのだ。
「安心せい、燃えるものではない。それをつけたおかげで、リアリティアの仕組みやら、お前さんらの居場所が何となくじゃがわかった気がする」
「何となくか……」
「わしの火の粉をつけても、深くは探れんようじゃ。さすがは幻の異世界と言われるだけある」
リアリティアに感心すると、サラマンデルは本題へ移った。
「いいか? 何度も話しておるが、リアリティアと異世界の間には、扉がある。扉と言っても、ミラーレに住む……」
「弁当屋の看板娘でないのだろう? 以前聞いたぞ」
サラマンデルの話をディンフルはさえぎった。
「……そうじゃ、言っておったな。いや、覚えとったぞちゃんと! わしはそこまで衰えておらん!」
彼はごまかすように早口で言うと、話を戻した。
「その扉には番人がいる。今現在、その者によって閉ざされておる。行き来出来なくなっているのは、そのせいじゃ」
「どおりで、ユアの能力や私の魔法が効かぬわけか。フィーヴェへ行くなら、番人に扉を開くよう頼めばいいのだな?」
「そうじゃ。だから魔法で行こうとしたり、アイテムやユアの力に頼るのでなく、番人を探せ。お前さんの魔法で簡単に見つかるはずじゃ」
「なるほど」
サラマンデルの助言で、ディンフルは希望を得た。
「しかし、帰る先はフィーヴェで良いのか? あそこには、もう帰らんつもりじゃろう?」
彼の質問にディンフルは、はっとした。
確かに、謝罪に行ったものの国王から話は聞けず、国民から罵声を浴びせられた上にトマトまで投げつけられた。
フィトラグスたちとも、別れを告げて来た。
一人ならともかく、ユアも一緒となると、どこへ行けばいいのかディンフルは迷った。
「ゆっくり考えるがいい。それでは、良い夢を!」
サラマンデルはそう言うと、ディンフルの前から消えてしまった。
翌朝、ヒントを得て満足したはずのディンフルだったが、サラマンデルが夢に出たこと自体が心地良くなく、悪い目覚めとなった。
◇
ディンフルがサラマンデルの夢を見る一日前のフィーヴェ。
とある田舎町に、武闘家のオプダットとチェリネットが引っ越しの手伝いをしに来ていた。
ちょうど、今日の作業が終わったところである。
「あ~、クタクタ……」
チェリテットが疲れて地面に座り込んだ。
その横には、ここまで乗って来た馬車がある。
「俺もヘトヘトだ。でも、まだ働けるぞ!」
「ヘトヘトか元気か、どっちよ?!」
「”疲れてるけど働ける”って意味だよ! お前、今の作業でダウンしてたら立派な武闘家になれないぞ!」
「別に“武闘家になったら引っ越しを手伝え”なんて決まり、ないでしょ……」
今日は、医者のアティントスの知り合いの手伝いだった。
アティントスはオプダットにとっては恩人なので、進んで手伝いに入った。チェリテットはその付き添い。
「やあ、オプダットにチェリテット。今日は本当にありがとう」
アティントスが二人のところにやって来て、持っていた飲み物を手渡した。
「いえいえ。これぐらい当然ですから」
「何かあったら、すぐ言ってくれよな! 俺たち、火山の中や海の中、どこにでも行くからさ!」
「“火の中、水の中”でしょ!」
オプダットの言い間違いにチェリテットがツッコむと、「火山や海中へ引っ越す人は見たことないね」とアティントスも苦笑いした。
「でも、また手伝ってもらうかもしれないよ。何せ、彼は転勤や異動が多いから」
「その時も任せて下さい!」
「俺たち、百力で頑張るよ!」
「“百万力”ね! “万”がないと頼っていいかわからないでしょ!」
オプダットは訂正されるも笑ってごまかした。
ふと、横へ視線を向けると、近くの木の隅で小さい塊を見つけた。
「何だ、あれ?」
チェリテットとアティントスもそちらへ向く。
オプダットが近づくと、それはうずくまる人の姿に見えた。
「人だ!」
彼の声に気づいた相手は振り向くと、瞬時に立ち上がり駆け出した。
だが、すぐに倒れてしまった。
よく見ると相手は十歳前後の子供で、身に着けているのはボロボロの布切れだった。
髪も手入れされていないのか伸び放題で、布から出ている肌も汗や泥で汚れていた。
「孤児かな?」
アティントスとチェリテットも駆けつけ、オプダットは子供に手を差し出した。
「ビックリさせて悪かったな。大丈夫か?」
だが子供はその手を払い除け、三人を睨みつけた。
鋭い眼光の奥に見える瞳孔は、猫のように細長かった。
「その目……、ディファート?!」
アティントスが驚愕の声を上げる。
「何、あれ?」
次にチェリテットが、遠くで馬に乗った兵士たちを見つけた。
全員、こちらへ向かっていた。
兵士たちはオプダットたちの前で馬を止めた。
ねずみ色の鎧を着て、同じ色の兜をかぶっていた。
「ディファートを見ていないか? 髪は長くて、ボロを着ているガキだ」
兵士たちはオプダットたちが見つけたディファートを探していた。
「子供」ではなく「ガキ」と言う辺り、良い気が感じられなかった。
「さあ……? 見てないなぁ~」
目を泳がせながら答えるオプダット。
不審に思った兵士が「本当か?」と圧をかけながら聞くと……。
「もしかして、あれですか?」
チェリテットが遠くを指さしながら言った。
「今、あそこに見える小さな町に入って行きました。髪も長くて、服も汚れてましたよ」
「よし、行くぞ!」
兵士たちは馬を走らせ、オプダットたちから去って行った。
「もう大丈夫だぜ!」
オプダットは馬車の戸を開け、中にいるディファートへ声をかけた。
兵士たちが来ると、急いでこの中へかくまったのだ。
子供はまだ警戒しながらも、不思議そうな表情を浮かべていた。
「どうして助けたんだ?」と言わんばかりだった。
「安心しな。兄ちゃんたちは、ディファートの味方だ!」
子供は目を見開いた。
自分を助けてくれる人間に出会うのは初めてのようだ。
しかし、横からアティントスが意見した。
「でも、これからどうするんだい? 助けたはいいけど、引き取れるのかい? 僕らの町・チャロナグでは、まだディファートへ抵抗があるし、子供を養うのは大変なんだよ。それにさっきの兵士たち、血眼になって探してたから、ウソがバレたらオプダットまで……」
「大丈夫です。フィットも……あ、フィトラグス王子もディファートと和解する世界にしようと考えてくれているので」
心配するアティントスを、チェリテットがなだめるように言った。
「それに、私もいます。ディンフルの話を聞いて、一方的にディファートを責めるのは良くないと思ったので」
彼女の言葉でアティントスが考え込んでいると、馬車からディファートの子供が初めて口を開いた。
「……ディン兄ちゃんを、知ってるの……?」
三人は一斉に子供へ向いた。
「ディン兄ちゃんって、ディンフルのことか?」
「僕と同じディファートだけど、魔王になってしまった人だよ……。でも、とっても優しいお兄ちゃんだったんだ」
「もっと詳しく聞かせてもらっていい? 私はチェリテット。チェリーって呼んで」
「俺はオプダット! オープンでいいぜ!」
二人から自己紹介を受け、子供は目を丸くした後で顔を輝かせた。
「僕、カタリスト。十三歳だよ」
オプダットたちは、カタリストをかくまいながら町へ連れて帰った。




