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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第4章 リアリティア編
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第88話「夢の中の助言」

 リマネスと駅で鉢合わせしボディガードを倒せたが、今日は帰ることにした。


「しつこい奴だ。休日まで襲って来るとは」

「ディン様、ケガは無い?」

「俺は大丈夫だ。むしろ、向こうの方がしているだろう」


 ユアは心配するが無駄だった。

 ディーン(ディンフル)の言うとおり、階段から落ちたボディガードたちの方がケガをしていたからだ。


 すると彼は急に、人通りが少ない場所へユアを連れて行った。


「試してみるぞ」とユアの手を取り、もう片方の手を上げて魔法を使った。

 しかし、やはり空間移動は出来なかった。


「何でまた使えなくなったの?」

「こちらが聞きたい。リアリティアでは魔法が使えないのかもしれぬ」

「でも私、ずっと異世界に行ってたよ」

「その力も、今は使えないのだろう?」


 ディーンに言われて、ユアは思い出した。使えないのは彼の魔法だけでは無かった。


「引き続き、方法を探る。俺も、仮の姿で居続けるのは疲れるのでな……」


                 ◇


 その夜、職員補助の仕事を終えたディーンは部屋のベッドに入った。

 前日に夜更かしして睡眠が足りてなかったので、すぐ眠りにつけた。



 夢を見た。

 ディンフルの姿に戻った自身の前に、火の精霊・サラマンデルが姿を現した。


「元気にしておるか?」

「お前か……」


 望んでいない再会にディンフルは思わず嫌な顔をしてみせた。


「“お前か”とは何じゃ?! せっかく来てやったと言うのに!」

「頼んでおらぬ」

「じゃあ、リアリティアからアンリアルへ飛ぶ方法を知らなくてもいいのじゃな?」


 きっぱりと言うディンフルへサラマンデルは意味深なことを言い出した。


「アンリアルへ飛ぶ方法?! 知っているのか?」

「当たり前じゃ! わしを誰だと思っておる? 炎の力でどんな世界の情報も集められるのじゃぞ! あと、今は魔法でお前の夢に出て、テレパシーを送っておる」

「何故、夢にまで? 現実でも絡むのは不快だと言うのに……」

「さらばじゃ」


 カチンときたサラマンデルが去ろうとすると、ディンフルは「冗談だ、すまぬ」と慌てて止めた。


「初めから素直になれば良いものを! いいか? 何度も話しておるが、リアリティアと異世界の間には扉がある。扉と言っても、ミラーレに住む……」

「弁当屋の看板娘でないのだろう? 以前聞いたぞ」


 サラマンデルの話をディンフルは遮った。


「……そうじゃ、言っておったな。いや、覚えとったぞちゃんと! わしはそこまで衰えておらん!」


 彼は焦り出し、ごまかすように早口で言った。


「話を戻すが、その扉には番人がいる。今現在、その者によって閉ざされておる。行き来できなくなっているのは、そのせいじゃ」

「フィーヴェへ行くなら、番人に扉を開くよう頼めばいいのだな?」

「そうじゃ。だから魔法で出ようとしたり、アイテムやユアの力に頼るのでなく、番人を探せ。お前さんの魔力で簡単に見つかるはずじゃ」

「なるほど」


 サラマンデルの助言で、ディンフルは希望を得た。


「しかし、帰る先はフィーヴェで良いのか? あそこにはもう帰らんつもりじゃろう?」


 彼の質問にディンフルは、はっとした。

 確かに謝罪に行ったものの国王から話は聞けず、国民から罵声を浴びせられた上にトマトまで投げ付けられた。

 フィトラグスたちとも、別れを告げて来た。


 一人ならともかくユアも一緒となると、どこへ行けばいいのかディンフルは迷った。


「ゆっくり考えるがいい。それでは、良い夢を!」


 サラマンデルはそう言うと、ディンフルの前から消えてしまった。


 翌朝、ヒントを得て満足したはずのディンフルだったが、サラマンデルが夢に出たこと自体が心地良くなく、悪い目覚めとなった。


                 ◇


 一日前のフィーヴェ。

 とある田舎町に、武闘家のオプダットとチェリネットが来ていた。引っ越しの手伝いをしていたのだ。

 ちょうど、今日の作業が終わったところである。


「あ~、クタクタ……」


 チェリテットが疲れて地面に座り込んだ。

 その横には、ここまで乗って来た馬車がある。


「俺もヘトヘトだ。でも、まだ働けるぞ!」

「ヘトヘトか元気か、どっちよ?!」

「”疲れてるけど働ける”って意味だよ! お前、今の作業でダウンしてたら立派な武闘家になれないぞ!」

「別に“武闘家になったら引っ越しを手伝え”なんて決まり、無いでしょ……」


 今日は、医者のアティントスの知り合いの手伝いだった。

 アティントスはオプダットにとっては恩人なので、進んで手伝いに入った。チェリテットはその付き添い。


「やあ、オプダットにチェリテット。今日は本当にありがとう」


 アティントスが二人のところにやって来て、持っていた飲み物を手渡した。


「いえいえ。これぐらい当然ですから」

「何かあったら、すぐ言ってくれよな! 俺たち、火山の中や海の中、どこにでも行くからさ!」

「“火の中、水の中”でしょ!」


 オプダットの言い間違いにチェリテットがつっこむと、「火山や海中へ引っ越す人は見たこと無いね」とアティントスも苦笑いした。


「でも、また手伝ってもらうかもしれないよ。何せ、彼は転勤や異動が多いから」

「その時も任せて下さい!」

「俺たち、百力(ひゃくりき)で頑張るよ!」

「“百()力”ね! “万”がないと頼っていいかわからないでしょ!」


 オプダットは訂正されるも笑ってごまかした。


 ふと、横へ視線を向けると、近くの木の隅で小さい塊を見つけた。


「何だ、あれ?」


 チェリテットとアティントスもそちらへ向く。

 オプダットが近付くと、それは(うずくま)る人の姿に見えた。


「人だ!」


 彼の声に気付いた相手は振り向くと、瞬時に立ち上がり駆け出した。

 しかし、すぐに倒れてしまった。


 よく見ると相手は十歳前後の子供で、身に着けているのはボロボロの布切れだった。

 髪も手入れされていないのか伸び放題で、布から出ている肌も汗や泥で汚れていた。


孤児(みなしご)かな?」


 アティントスとチェリテットも駆けつけ、オプダットは子供に手を差し出した。


「ビックリさせて悪かったな。大丈夫か?」


 だが子供はその手を払い除け、三人を睨みつけた。

 鋭い眼光の奥に見える瞳孔は、猫のように細長かった。


「その目……、ディファート?!」


 アティントスが驚愕の声を上げる。


「何、あれ?」


 次にチェリテットが、遠くで馬に乗った兵士たちを見つけた。

 全員、こちらへ向かっていた。



 兵士たちはオプダットたちの前で馬を止めた。

 ねずみ色の鎧を着て、同じ色の兜をかぶっていた。


「ディファートを見ていないか? 髪は長くて、ボロを着ているガキだ」


 兵士たちはオプダットたちが見つけたディファートを探していた。

「子供」ではなく「ガキ」と言う辺り、良い気が感じられなかった。


「さあ……? 見てないなぁ~」


 目を泳がせながら答えるオプダット。

 不審に思った兵士が「本当か?」と圧を掛けながら聞くと……。


「もしかして、あれですか?」


 チェリテットが遠くを指さしながら言った。


「今、あそこに見える小さな町に入って行きました。髪も長くて、服も汚れてましたよ」

「よし、行くぞ!」


 兵士たちは馬を走らせ、オプダットたちから去って行った。



「もう大丈夫だぜ!」


 オプダットは馬車の戸を開け、中にいるディファートへ声を掛けた。

 兵士たちが来ると、急いでこの中へかくまったのだ。

 子供はまだ警戒しながら不思議そうな表情を浮かべていた。「どうして助けたんだ?」と言わんばかりだった。


「安心しな。兄ちゃんたちはディファートの味方だ!」


 子供は目を見開いた。自分を助けてくれる人間に出会うのは初めてのようだ。

 しかし、横からアティントスが意見した。


「でも、これからどうするんだい? 助けたはいいけど、引き取れるのかい? 僕らの町・チャロナグでは、まだディファートへ抵抗があるし、子供を養うのは大変なんだよ。それにさっきの兵士たち、血眼になって探してたから、ウソがバレたらオプダットまで……」

「大丈夫です。フィットも……あ、フィトラグス王子もディファートと和解する世界にしようと考えてくれているので」

「フィトラグス王子が?」


 心配するアティントスをなだめるようにチェリテットが言った。

 

「それに私もいます。ディンフルの話を聞いて、一方的にディファートを責めるのは良くないと思ったので」



 彼女の言葉でアティントスが考え込んでいると、馬車からディファートの子供が初めて口を開いた。


「……ディン兄ちゃんを、知ってるの……?」


 三人は一斉に子供へ向いた。


「ディン兄ちゃんって、ディンフルのことか?」

「僕と同じディファートだけど、魔王になってしまった人だよ……。とっても優しいお兄ちゃんだったんだ」


 子供は十三歳の男の子で、名前は「カタリスト」と言う。

 詳しく話を聞くために、オプダットたちはその子供を町へ連れて帰ることにした。

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