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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第4章 リアリティア編
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第83話「魔王と通学」

 リマネスは決まりが悪くなり、屋敷へ帰って行った。


 ユアはしばらく、ここグロウス学園に居られるようになった。

 実の兄(という設定の)ディーンと暮らせるよう考えてもらえることにもなった。


「驚いたな。まさか、裏で汚い取り引きがされていたとは……」


 ベランダで夜空を見つめながら、ディーンがつぶやいた。


 ユアがかつて居た部屋を再び使えるようになった。他の利用者は別室で、この部屋にはユアとディーンの二人しかいなかった。


「たぶん、園長は脅されてたんだと思う」


 ユアの言葉を疑問に思い、ディーンが振り向いた。


「何故そう言える? リマネスを庇った上に、お前の話も聞いて来なかったのだぞ?」

「それは、ひどいと思ってる。でも、学園の経営が上手くいってないのも知ってた。その状態で寄付金や物資がたくさんもらえる話があったら、すがりつくじゃない?」

「弱みを利用されたということか。やはりリマネスは汚い奴だ! それで、園長は許すのか?」


 ユアは少しだけ考えてから口を開いた。


「しばらくは許せない。でも育ての親でもあるから、恨みたくもないんだ」


 理解したディーンは「そうか」とだけ返事をした。


「それより、疑問が残っている。何故、リマネスはお前と暮らしたがる? いじめると言うことは、好いていないのは確かだ。”好きだから、ちょっかいを出す”というレベルでもない。それなのに里子として迎え、俺が引き取ろうとしたら全力で拒否をした。嫌っているなら共に暮らそうとは思わない筈。何がしたいのかわからぬ……」

「私もわからない。ただ、“いじめられている時が一番可愛い”って言われたことは覚えてる」

「最低の極みだ……。親はどういう教育をしているやら!」


 ディーンは部屋に入り、後ろ手でベランダの窓を閉めた。


「それがね……、リマネスはずっと親と暮らしてないんだよ」

「どういうことだ?」

「仕事の都合で、ずっと海外にいるんだって。私も会ったことないよ。里子として屋敷にいることを知ってるのかもわからないし」


 ディーンは目を丸くした。

 本来、引き取り先の家族に挨拶を済まさなければいけないが、リマネスの両親は会ったことが無い上に、ユアを引き取っていることすら知らないようだった。


「それで了承してもらえたのか……? 屋敷にはリマネスと使用人、執事、あとはボディガードしかいないのだろう? 使用人では家族とは呼べぬ」

「たぶん、“普通の家族より人数が多いから大丈夫”と思ったんだよ。親がリマネスを置いて出て行ったのもそんな理由だと思う」

「どんな家だ……」


 ディーンは呆れて、それ以上の言葉が出なくなった。



 ユアは久しぶりに過ごす部屋で、ディーンと一夜を共にした。


 翌日は学校だった。

 制服は昨日から着ていたが、カバンはリマネスの屋敷に置いたままだった。

 おそらく今日から自力で通うことになるので、カバンがないのが一番の問題だった。


 その不安から、いつもより早く目を覚ますユア。

 ベッドから出て、ブラシで髪をとかしながら隣のベッドを見ると……、魔王の姿のディンフルが眠っていた。


「ギャアーーーーー!!」


 ユアの絶叫でディンフルも飛び起きた。


「ど、どうした?!」

「ディ、ディ、ディン様……! 元に戻ってる?!」

「あぁ……。効果は一日しかもたぬのだ」

「そ、それじゃあ、もうディーンに変身できないの?!」

「心配無用」


 ディンフルはベッドから立ち上がると、昨日のように頭からマントに包まり、すぐに外した。

 あっという間にディーンの姿に変わった。


「ホッ……」

「変身出来なくなっては、兄妹(きょうだい)設定が成立しなくなるからな」


 思えば、彼と同じ部屋で眠るのはこれが初めてだった。


 ミラーレではユアが弁当屋で、ディンフルは図書館と、別々に寝泊まりしていた。

 だが先ほど、しかとこの目で見てしまった。一目惚れした時の姿の推しがベッドで眠っているのを。

 ミラーレの公園のベンチで眠る彼を見たことはあるが、ベッドで、しかも自分の隣で眠るのは初めてだった。

 ユアは新たなディンフルの姿を見られて朝から満足だった。



 ユアがさっきの絶叫から落ち着いたところで、入口からかすかな物音がした。

 ドアが少しだけ開いており、彼女より年下の少女が外から覗き込んでいた。


「ユアちゃん……!」

「リビムちゃん!」


 ユアは今度は喜びの声を上げてドアを開けると、覗いていた少女と抱き合った。

 リビムとは、ディーンがディンフルの姿でいる時、彼に自動販売機の使い方を教えてくれた中学生の少女だ。

 彼女はグロウス学園の利用者で、ユアとは仲良しだった。


(昨日、コーヒーをご馳走してくれた子? この学園の者だったのか……)


 ディーンはすぐに気付いたが、リビムは彼がディンフルだと気付いていない。

 彼女は目を輝かせながらディーンを見た。ユアの兄だという話は園長から聞いていたようだ。


「もしかして、ユアちゃんのお兄さん?!」

「そうだよ! かっこいいでしょ!?」


 ユアも、リビムと同じく目を輝かせながらディーンを見つめた。


「何故、お前までときめく……?」


                 ◇


 朝食を終え、支度をすると二人は玄関に来た。今日はディーンも同伴である。

 見かけた園長が声を掛ける。


「お兄さんも一緒ですか?」

「ああ。妹が()()()()()()世話になっているので、挨拶に」


 ディーンは「色んな意味で」を敢えて強調して言った。

 学校のこともユアから聞いており、教師たちに言いたいことがあった。


「わ、わかりました。それよりユアちゃん……」


 ディーンとの話を終えると、園長は次にユアへ話しかけた。

 ユアも昨夜溜まりに溜まった本音をぶつけ、園長も罪悪感からかお互いに緊張していた。


「き、昨日のことだけど……」

「失礼。時間が迫っている」ディーンが遮った。


 時計を見ると、本当に出発時間が近かった。


 ユアは園長へお辞儀すると、ディーンと共に駅まで走った。

 いつもはリマネスの家のリムジンで登校していたが、今日から電車で行かなければならなかった。

 ユアは初めての電車通学、ディーンは電車そのものが初めてだった。


 前日、あらかじめ園長が時間を調べてくれたのと、通学用にチャージ済みのICカードも渡してくれていた。これで改札も難なく通れるし、電車も間違えずに乗れる。


 二人で並んでホームに立ち、リビムの話になった。


「あの子はグロウス学園の子だったのだな?」

「知ってるの?」

「お前を探している時に魔王の姿で話した。その際に自動販売機というものの使い方を教わったり、コーヒーを奢ってもらった」

「リビムちゃんもディンフルが好きだからだよ」

「本人がそう言ってたな。しかし他の通行人と違い、俺をコスプレの者と思っていないように見えた」

「きっと、信じてるからだよ」


 ディーンは目を丸くしてユアを見つめた。


「何を?」

「ディンフルが本物だってこと。あの子、”架空はリアリティアと同じようにどこかにあって、同じように時間が流れてる”って思ってるんだ」

「異世界を知っているのか?」

「たぶん、私のせいかな……?」


 ユアは苦笑いしながら話し始めた。


 昔から、異世界へ飛ぶ力を持っているユアは好きな空想作品の世界へ行き、キャラクターたちと喋ってきた。

 その時の経験を同じ学園の者たちに話したことがある。しかし、誰も信じてくれなかった。

 年上や同級生は「あれは大人が子供を喜ばすために考えてくれたウソの世界だ。存在するもんか」とユアをウソつき呼ばわりした。

 年下の子たちも小さいうちは目を輝かせていたが、歳を重ねるにつれて聞いてくれなくなり、ユアを「妄想のお姉ちゃん」と言う者もいた。


 その中でも、リビムだけは今も信じてくれていた。

 彼女は八歳の頃から学園を利用しているが、他の子と違ったのはリビムの方から「◯◯の世界はどうだった?」「楽しかった?」と今でも聞いて来るし、架空の世界はどこかに存在していると信じていた。

 このことからユアは、実際の異世界の話はリビムにしかしなくなっていた。


 そして、ユアが朝食を取りに行く時に聞いた話では、リビムはディンフルが好きだという。

 ユアと同様に一目惚れし、イマスト(ファイブ)の発売を心から待ち望んでいた。


 だが、学園にソフトは無かった。

 ゲームは職員が買い与えるのだが、イマスト(ファイブ)はあまりの人気で品薄になり、未だに手に入らないようだ。

 ユアは自分のお金で買ったことは誰にも言わなかった。焼失し、今は手元に無いからだ。



 話しているうちに電車が来た。

 ディーンの話では、フィーヴェには列車はあるがリアリティアの電車とは大きく違うそうだ。

 彼が驚いたのは列車よりも広い車内だけでなく、朝の通勤通学ラッシュの満員電車の混み具合だった。

 人がなだれ込むように入って来て、ユアもディーンも圧倒された。


「リアリティアの列車は、こんなに息苦しいのか……?」

「ず、ずっと、こんなんじゃないよ……」


 途中、電車が大きく揺れ、将棋倒しにでもなりそうなぐらいに人の波が動いた。

 ディーンはユアを抱え、ドアに手を突いた。


「大丈夫か?」

「は、は、はいぃ!」


 ユアの胸は今までで最高潮に高鳴っていた。

 何故なら今の状況は、世間で一時耳にしていた「壁ドン」に加えてハグまでされていたからだ。

 しかも、相手は現在の推しである。


(き、昨日からと言い、“いつか叶ったらいいな”って思ってることが全部叶ってる! これは私が我慢して来たことのご褒美か? それとも、何かの前触れか……?!)


 ユアがそんなこんなを考えているうちに目的の駅に到着した。

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