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ラスボスと空想好きのユア  作者: レセラン
第4章 リアリティア編

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第82話「論争」

 ディーン(ディンフル)は、ユアのゲームを暖炉(だんろ)に入れるようメイドに指示したのと、当選した人気歌手のグッズをクラスメートに配ったのはリマネスだと、彼女を指さして言った。

 リマネスを信じ切っている園長が怒号を上げる。


「人を指さすんじゃありません! リマネスちゃんがそんなことするわけないでしょう!」


「実際にしたのだ。ユアがすべて話してくれたぞ」


 園長が視線をやると、ユアは無言で大きくうなずいた。


「これは罰です。ユアは、我々にウソをついていたのです」


 横からリマネスが口を挟んだ。

 きっぱりとした口調だった。


「行方不明になる前、この子はゲーム屋にいました。ゲームを買ったのか聞いたら“買ってない”とウソをつきました。今朝、通学カバンからその日に買ったであろうゲームが見つかりました。ユアにはロミート家の一員になってもらうため、今まであった娯楽(ごらく)をすべて没収して来ました。ゲームなんて、もってのほかです! メイドに暖炉に入れるよう指示をしたのは、将来のためとウソをついた罰なのです!」


「いくら何でも、やりすぎではないか?」


「彼女のためです!」


 リマネスがそう言うと、ディーンは鼻で笑った。


「“あなたのため”を口癖にする者ほど、自分のために動いている。信用ならぬ」


「は?」


 リマネスが彼を睨みつけた。声のトーンにも怒りが混じっていた。

 園長がリマネスを庇うために、再び声を上げた。


「どういう意味ですか? リマネスちゃんは社長令嬢で、将来のことで忙しいはずなのにユアちゃんを気にかけてくれてるし、引き取ってくれたんですよ! 今でもこの学園にお金や物資を寄付してくれていますし、“お世話になっているから”と、高校にも寄付金を払っているのですよ! それなのに、彼女を信用出来ないとおっしゃるのですか?!」


 ディーンは冷静に言い返した。


「金持ちなら、金で何でも解決出来るからな。ここにも寄付しているのなら、怒るに怒れぬ筈(はず)」


「そんな言い方はないでしょう!」


「どうせ、周囲にだけいい顔をしているのだろう? 先ほどの常套句(じょうとうく)も、ユアを支配したいがための言葉だ」


「ユア! あなた、一体何を言ったの? そもそも、この人、誰なの?!」


 ようやく怒りを表したリマネスは、今度はユアへ怒鳴りつけた。

 当のユアは、自分の件で怯(ひる)むリマネスを見たのは初めてだ。

 少しだけ胸がすっとしていた。


「私のお兄ちゃん」


 その一言以外、何も言わなかった。

 リマネスが首を傾(かし)げていると、横から園長が助言をした。


「生き別れのお兄さんみたい」


「園長にも挨拶をしたが、妹が世話になっている。これからは兄妹(きょうだい)共に暮らすつもりでいる。だから、里親の契約を解除していただきたい」


「ダメよ」


 リマネスは即答した。


「何故だ?」


「十八年前、ユアは学園の外に捨てられていたらしいの。それも、雪の降る寒い朝に。園長先生が見つけていなかったら凍死してたかもしれないのよ。生まれたばかりの子を寒い日に捨てる親なんて、信じられないわ。そんな親から生まれたあなたも信じられない。同じ血が通っているんだから、いつかまたユアを捨てるに決まっている! 実のお兄さんでも、ユアは渡さないわ!!」


「本気で言っているのか? 散々いじめておいて?」


「いじめてないわ! ユアは昔から被害妄想が激しいのよ!!」


 思わぬ敵が現れたせいかリマネスにいつもの余裕がなく、ヒステリックに叫んだ。

 ディーンはそんな彼女に呆れながらも、冷静に対応し続けた。

 さらに、ユアから聞いていたことを加えて問いただした。


「小学校の時に“子供じみているから”と好きな物を取り上げたり、進学先を本人の許可なく勝手に決めたり、当選したグッズを周囲に配るのが被害妄想だと申すか?」


 リマネスは怯んではいたものの、あきらめる様子はなかった。


「ユアは学校に入った時でも、幼稚園の子が喜ぶような絵本を読んでたから没収したのよ! 進学先を決めてあげたのだって、ユアが優柔不断だったからよ! グッズのことだって、ユアはリマネスに引き取られたのに、まだ幸せになろうとしたのよ! それで“幸せは分け合いましょう”って教えるために、他の人に渡したのよ!」


 ディーンも負けずに反論し続けた。


「何様だ? 支援者や教師ならともかく、君はユアを注意出来る立場か? 社長令嬢はそんなに偉いのか? 絵本からでも知識は得られるし、進学先も本人の気持ちが一番ではないのか? 幸せを分け合う以前に、一人から幸せを奪っているではないか。説得力のカケラもない。君は、ずいぶんと執着(しゅうちゃく)しすぎている。それらが鬱陶(うっとう)しくなって、ユアは脱走したのだ!」


「ユアの考えが大人じゃないからよ!」


「相手の意思を無視するのは、善意とは言わぬ!」


 リマネスとディーンの論争は白熱した。

 園長はどこで止めに入ればいいかわからず、おろおろとしていた。

 ユアも自分が今まで勝てなかったリマネスが感情をむき出しに怒る姿を新鮮に思ったが、園長と同様に見守るしかなかった。


「園長先生、どう思われます?」


 リマネスからいきなり話を振られた園長は、明らかに困惑した。


「え? あ、そうね……。と、とりあえず、話し合いを……」


「今、まさにしているが?」


 ディーンに指摘され、園長は「そ、そうね!」と再び焦り出した。

 目の前で繰り広げられた論争で、頭がパニックになっていたのだ。

 それを察したディーンは違う質問をした。


「園長からすると、ユアは恵まれていると言えるか?」


 園長はまだ混乱しながらも、ゆっくりと答えた。


「え、ええ。リマネスちゃんの家は大きなお屋敷だし、お父様が何社も持つほどの社長さんだし、経済的には恵まれていると思うわ。将来は心配しなくてもいいんじゃないかしら……」


 先ほどディーンから、リマネスがして来たことを聞いたはずなのに、期待外れな答えにユアは唖然とした。


「確かに経済的には恵まれている。だが、精神面では? 束縛しすぎのように感じぬか?」


「そ、それは、リマネスちゃんがユアちゃんを大事に思っているからこその行為よ……」


 少しずつ我に返って来た園長は、まだリマネスを庇っていた。

 リマネスは勝ち誇った顔をした。


「大事に思うなら罰を与えた後のメンタルケアも必要だが、それらを行(おこな)っているようには思えぬ。本当にリマネスから大切にされているなら、半月も行方不明になったりしない筈」


 ディーンがそう言うと、園長は何かに気がついたように目を見開いた。


「た、確かに、幸せなら喜んで屋敷に戻っているわよね……」


「話を聞く限りだが、彼女はユアを好いているようには見えぬ。嫌っていじめる続けるようなら、こちらで引き取る」


「ダメよ!」


 ディーンが理由をつけて再び提案するが、リマネスはまだ折れなかった。

 ここで、ついにユアが抵抗し始めた。


「何でそうまでして縛りつけるの?! これからも一緒に暮らして“罰だから”とか“あなたのため”って理由で苦しむのは、もうイヤなの! 私はあなたのサンドバッグじゃない!!」


 ユアの大声に驚きながらも、園長がたしなめた。


「そ、そんな言い方はないでしょ! “サンドバッグ”って、いつもあなたを想ってくれていたじゃないの!」


「園長も園長だよ!」


 ユアは今度は園長へ向いた。


「私の味方をしてくれたことないじゃない! “あの子は冗談が好きだから”って、いつもガマンをさせられて来た! 園長もずっとリマネスの言いなりだったじゃない!」


「そ、そんなこと……」


「私がどれだけ辛かったか考えたことある?! 人生、奪われているんだよ!!」


 園長の言葉をさえぎり、ユアはこれまで溜まっていた思いを爆発させた。

 特に最後は渾身(こんしん)の叫びだった。リマネスがいなければ行きたい高校にも行けたし、今頃は自分が望む大学のために猛勉強をしているはずだった。

 異世界へ逃げようとも思わなかったかもしれない。


 言い終えたユアの目から涙が溢れ出した。

 彼女の思いを聞いた園長は、考えた末に口を開いた。


「……わかった。一度、他の職員や児童相談所の方と話し合ってみるわ」


「園長?!」


 突然の提案に、リマネスは思わず声を上げた。


「うちにいれば、お金の心配はいらないのに!」


「だけど、ユアちゃんは屋敷を出たがっているわ。今、お兄さんが言ってたけど、本人の気持ちが大事なんじゃないかしら……」


 急に園長が寝返ったので、リマネスはうろたえた。

 しかし、やはり彼女は折れる気がなかった。


「多額の寄付金と大量の物資を寄付したら、ユアを連れて行ってもいい話になってましたよね? ユアの味方をするなら、寄付金と差し上げた物資を返していただいてもいいですか?!」


 勢いづいた彼女から、思わぬ話を耳にしたユアとディーンは息をのんだ。

 正気に戻ったリマネスは「しまった」と言わんばかりに驚きの表情を浮かべた。


「お金や物品をもらう代わりに、私をリマネスに引き渡したんですか……?」


 園長の行為を知ったユアはショックで顔が青ざめた。


「子供の意思より金を優先したのか? これは養護施設の園長としてはどうなのだ? 屋敷のお嬢様としてもだ!」


 ディーンが二人を睨みながら言うと、リマネスと園長は言葉を失ってしまった。

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