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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第4章 リアリティア編
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第71話「ディファートの過ち」

 インベクル王国の客室。

 ケーキのろうそくに灯る小さい炎から、火の精霊・サラマンデルが姿を現した。


「な、何で、ケーキのろうそくからなんですか……?」


 ティミレッジが焦りながら聞いた。


「決まっておるじゃろう。わしは火の精霊。火のあるところなら、どこでも通信可能なんじゃ」

「通信?」

「こっちへは来れないけど、話すだけなら大小関係ない炎を通して出来るってことよ」


 ソールネムがぶっきらぼうに解説した。

 先ほどまでケーキの上の砂糖人形が可愛いという理由で表情がほころんでいたが、元のクールな……いや、普段よりも怖い顔になっていた。


「ソールネムも久しぶりじゃな!」


 サラマンデルは彼女を見るなり、気前よく声を掛けた。


「“久しぶり”じゃありません! どうしてくれるんですか?!」


 突然、声を荒げるソールネム。

 彼女は手の中にあるドロドロに溶けた液体を見せた。

 それは、先ほどまで慈しむように眺めていた砂糖人形だったものだ。


「あなたの温度のせいで溶けてしまったではないですか!」

「何か知らんが、そう怒るな。何なら、わしをお前さんのコレクションに加えても良いのじゃぞ?」

「結構です!!」


 珍しく怒りを爆発させるソールネムに他の者は冷や汗が止まらなかった。

 彼女のその顔を見たのはティミレッジも初めてで、「可愛いものがダメになると、普段より怖くなるんだな……」と学ぶのであった。


 この中で唯一、サラマンデルとの初対面はチェリテットだけだった。


「こ、これが火の精霊……? 初めて見た!」

「おぉ?! お前さんはフィトラグス一行の女性武闘家じゃな? 炎の流れで知っておる」

「ご存じなんですか?! 光栄です!」

「光栄に思わなくてもいいわよ。精霊だからと言って、大したことないんだから」

「なぬぅ?!」


 初めて見る精霊を敬うように接するチェリテットにソールネムが水を注した。

 その内容にサラマンデルが腹を立てる。


「それより、世界を越えて通信なんて何か用か、じいさん?」

「じいさん?!」


 マカロンを食べながら尋ねるフィトラグス。

 サラマンデルは、相変わらず年寄り扱いが気に入らなかった。


「お前たちの様子を見に来たんじゃ! 無事フィーヴェに帰り、ディンフルから世界を取り戻して、全員元の生活に戻ったようじゃからな!」

「“見に来た”って、火の力で見れるんですよね……?」


 ソールネムが呆れながら指摘すると、サラマンデルは大量の汗をかき始めた。

 汗で体の炎は消え、大型トカゲの姿になった。事情を知らず「トカゲ?!」と驚くチェリテット。

 サラマンデルは元々はトカゲの姿をしていることをティミレッジが説明した。


「本当はどんなご用でいらっしゃったんですか?」


 ソールネムに再度詰め寄られ、サラマンデルは体から炎を出し、自身の汗を蒸発させながら言った。


「ディファートの説明をしに来た。フィーヴェでは何一つ教えてもらっていないようじゃからの」

「ディファートの何を?」

「嫌われるようになったきっかけじゃ! お前さんたちも知りたいじゃろう?」


 フィトラグスたちは、はっとした。

 博識のティミレッジとソールネムですら知らないディファートの事実を知るチャンスが来た。

 これは一行にとっては願ってもいない事態だった。


「これから、インベクル国王と話すのじゃろう? わしもいいか?」

「国王様に話して下さるのですか?!」

「ディファートとの和解を望んでいるなら、事実を知る者の介入が必要じゃろ」


                 ◇


 しばらくして、フィトラグスの父であり国王のダトリンドが戻って来た。

 王の間にフィトラグスら五人と、ケーキのろうそくからソールネムの黒魔法の炎へ移ったサラマンデルが通信で参加した。


「そちらの顔がある炎は……?」

「火の精霊・サラマンデル様です。私が召喚したのではなく、炎を通じて炎界(えんかい)という異世界より通信をしております」


 驚きながら聞くダトリンドへソールネムが返答した。


「フィーヴェを代表する国王・ダトリンドだな。炎の流れでそちらのことも、フィーヴェのことも知っておる。わしはフィトラグス一行と既に友人……? いや、親友でないのは確かな関係じゃ」

「何だよ、その説明は……? 友人ですらねぇ顔見知りだろ!」


 サラマンデルの曖昧な自己紹介にフィトラグスがつっこみを入れた。


「今日はディファートの真実を、この者たちとお前さんに伝えに来た」

「ディファートの真実だと!?」

「先日、ディンフルが詫びに来たじゃろう? しかし、インベクルの正義感に溢れ過ぎた国民に邪魔され、直接話す機会が無かったようじゃな」

「それも炎の流れとやらで知ったことか?」

「話が早い。その通りじゃ。もし、そちらがディファートと和解を考えるのであればと思い、真実を話しに来た。何でも、フィーヴェではディファートについての教育に力を入れていないと聞いたのでな」


 ダトリンドは無言で頷いた。話を聞いてくれるようだ。

 サラマンデルは早速、話し始めた。



「昔、ディファートは人間と共存しておった。人間にない能力を持つ彼らは重宝され、敬われていた。ディファートも人間には友好的で、互いに助け合っていた。力を持っている以外は両者に大きな差など無く、種族関係なく平等に暮らしておった」

「そんな時代があったんだな」


 フィトラグスが感心すると、次にサラマンデルは真剣な表情になった。


「しかし……、”人間より優れている”と一部のディファートが図に乗り、人間や同族の弱者へ傍若無人に振る舞い始めたのじゃ。“俺たちは強い”、“誰のお陰でこの世界が潤っているんだ”を口癖にな」

「本当に調子に乗っているわね……」


 ソールネムがため息まじりに感想を述べた。


「彼らは戦闘力のあるディファートで、政府が力ずくでやめさせようとしても屈しなかった。それどころか“政府より強い”とますます気が大きくなり、好きこのんで悪事を働くようになったのじゃ。窃盗、恐喝、暴力などは日常茶飯事で、奴らの住む地域は特に治安が悪かった」

「悪いことしたら、仲良く出来なくなるのにな……」


 オプダットが残念そうにつぶやいた。


「ある時、悪事を注意されたことで逆上し、当時のフィーヴェの代表国の幼き王子が巻き込まれて亡くなった」

「幼き王子……?」


 フィトラグスは血の気が引いた。

「幼い王子」と言われ、真っ先に自身の弟・ノティザと重ねたのだ。


「しかし、それは事故じゃった。本人らは殺すつもりはなかったし、元々子供好きの優しい一面もあり、その王子とも親しかったのじゃ」

「じゃあ、かなり後悔したんじゃ……?」


 チェリテットは恐る恐る聞いた。


「後悔どころではすまん。彼らは普段の行いから、周囲から白い目で見られておった。いつもは気にしていなかったが、王子が亡くなった時に初めて自らを恥じたのじゃ。それから王族にはもちろん、これまで虐げて来た者たちにも平謝りをし、反省の弁を述べ続けた」

「心を入れ替えたんですね」


 ティミレッジが安堵したように言った。


「だが、亡くなったのはフィーヴェの王子。人間だったが将来は大魔法使いになれると言われるほどの魔力の持ち主だった。人々は、魔力が強く悪者にも優しいその王子を“希望の星”と崇めておった。その王子が亡くなったのじゃ。人間たちの怒りは半端なものではなかった」

「政府も抑えられないほど、調子に乗っていたからね……」


 ソールネムはまた呆れるように言った。


「本人らは心から反省し”これからは人間も弱い人も助けて生きていく”と誓いを立てたが、許してもらえず、処刑されてしまった」

「処刑?!」


 五人は驚いて声を上げた。


「これに怒った他のディファートが抗議に来るが、“あれほどのことをしたのだから刑罰は当然”、“同じディファートとして止めなかったお前たちにも責任がある”と返り討ちにされた」

「他のディファートは関係ないのに……」


 チェリテットは悲しげに言った。


「そこから、人間とディファートの間に大きな隔たりが出来たのじゃ」

「じゃあ、“一緒にいると厄介”って言うのは?」

「例のディファートを処刑した後、一部の人間も“処刑はやり過ぎだ”と声を上げた。しかし、希望の星を失った人間たちはすっかりディファート嫌いになっており、彼らを庇う同族の話も聞こうとしなかった。そして抗議する人間にも、ディファート同然の扱いをするなどして排除したのじゃ」


 ティミレッジの問いに、サラマンデルはディファートを庇う人間も虐げられる件を話した。


「それがディファートの過ちなんだな。処刑を執行した人間の気持ち、わかるな。俺もノッティーが事故や事件に巻き込まれて死んだら、相手を憎んでいた」

「私も五人きょうだいの一番上だから、フィットの気持ちわかるよ……」


 フィトラグスが哀愁を含めながら言うとチェリテットが真っ先に理解を示し、共に旅した仲間たちも納得した。

 家族と故郷を異次元へ送ったディンフルを憎んでいた様子から、フィトラグスだったら執念深く憎み続けることが前の戦いでわかったからだ。



 今まで黙って聞いていたダトリンドが口を開いた。


「話はわかった。だが、理解出来ぬことがある。確かに差別はディファートが発端で起こっているが、何故学習に出て来なくなった? ディファートは絶滅していないし、多少の知識があれば和解へリードすると思うのだが?」

「当時の人間は、いずれディファートを殲滅させるつもりでおった。だから、“子供たちにも教える必要はない”と判断し、教科書に載っていたディファートのページや関する資料を廃棄してしまった。その代わり”ディファートは悪しき存在”と口頭で伝えたのじゃ」

「そこまでしなくても……」


 オプダットが戦々恐々としながら言ったところで、兵士の一人が王の間に入って来た。


「お取込み中、すみません。国王様、先ほどの訪問先より緊急の通信が入っております」

「緊急? わかった」


 ダトリンドは玉座から立ち上がった。


「申し訳ないが、この件はまた今度だ。フィトラグスと共に戦った者たち、それから精霊のサラマンデル殿、本日は感謝申し上げる」


 国王は感謝の弁を述べると、王の間を後にした。

 結局、今回も両者の和解について聞くことが出来なかった。


 そしてフィトラグスたちは、国王にユアの話もまだ出来ていなかった。

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