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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第4章 リアリティア編
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第70話「苦境」

 リアリティア。

 あれからユアは何度もイマスト(ファイブ)のゲームソフトを持って念じたが、異世界へ飛べなくなっていた。


(ずっと、行けてたのに……)


 今朝もトイレでゲームソフトを隠し持っていた。

 ここでなければ一人の時間を過ごせず、それ以外はずっとリマネスに束縛されるのだ。

 トイレにこもる時間が長いと、外からリマネスがドアをノックする。


 ユアは今日も諦め、ゲームソフトを服の下に隠すと渋々外へ出た。


 今日は学校の制服に身を包んでいた。

 丸襟付きの白いブラウスに薄紫のリボンタイ、濃い紫色のボレロジャケットに、同色のジャンパースカート。どちらも袖や裾に金色のラインが引かれている。

 学校名の「ロイヤルダーク」に相応しいカラーだった。


 入学前から濃い紫色の制服が大嫌いだったユアだが、ディンフルと出会って印象が変わった。


 彼も同じ、濃い紫色のジャケットに金色のラインで自身の制服と共通点があった。

 濃い紫、黒、わずかな金色、これらの組み合わせを見ると、無性にディンフルに会いたくなる。辛い今だからこそ余計に。


 リマネスはユアが逃げ出さないように、どんな時でも手を繋いで移動した。

 ユアも振りほどきたかったが強く握られている上、自分が絶対に勝てないとわかっていたために抵抗が出来なかった。



 リマネスの家のリムジンで登校した。入学してから、この通学スタイルだ。

 財閥でない者なら一度は乗ってみたいと思うリムジンだが、ユアにとっては悪夢の乗り物だった。

 これに乗って幸せな気分になるのではなく、これからもっと辛い場所へ行くのだ。


                 ◇


 学校に着き教室に入ると、生徒たちの目がリマネスとユアへ釘付けになった。

 ユアにとっては、リアリティアに帰って来てから初めての登校だった。

 異世界へ行っている間に個人情報が拡散されたために、生徒から注目の的だった。


 ショートカット、肩までのボブヘア、巻き髪のツインテール、ポニーテールと四人の女子生徒が集まって来た。

 全員リマネスの取り巻きでこの一年間、一緒になってユアを苦しめて来た。


 四人はすでにユアを睨んでいた。


「今までどこに行ってたの?」

「二週間近くもズル休みして!」

「せっかくリマネスが、貧民のあんたを引き取ってくれたのに逃げ出すなんて!」

「自分が恵まれていることに気付かないの?!」


 一人ずつがユアを責めるように言い立てた。


「やめなさいよ、可哀想でしょ。きっと反抗期なのよ。あんなボロい施設から急にキレイなお屋敷に来たら、環境の変化で誰だっておかしくなるわ。勝手に逃げ出さないために、しばらく一緒にいることにしたの。でないと、ここを出たら不器用なユアのことよ? 行くところが無くて、()()()()()じゃない」


 リマネスが止めに入るが、敢えて「かわいそう」という言葉を強調させた。

 もちろん、ユアを助けるつもりは微塵もなかった。


 小学校から毎年リマネスと同じクラスになって以来、ユアは平穏な学生生活を送れたことがなかった。

 リマネスがクラスメートに「ユアがあなたの悪口を言っている」「あなたの物を盗んだのはユアだ」などウソの報告をし、彼女が嫌われるように仕向けて来た。

 リマネスは勉強も運動もできる優等生で、生徒や教師から一目置かれていたため、みんな彼女の言うことを信じた。


 逆にユアは、勉強も運動もダメな劣等生。信頼も厚くなく、リマネスにいじめられたことを言っても、誰も信じてくれない。

 話を聞いてもらえず落ち込むユアを見て、リマネスは毎回嬉しそうに笑うのだった。



 ユアは現在、高校三年生。ダーク校の卒業式は二月末に控えていた。

 二週間休んでいたユアは最後の授業に出られず、学期末試験も逃してしまった。

 追試は覚悟していた。下手をすれば留年もありえるが、ユアにとってはその方が良かった。学校にいる間だけ、リマネスと離れられるからだ。

 優等生のリマネスはとっくに進路も決まっているので、留年はありえなかった。


 ところが、昼休みに担任(三十代後半ぐらいの猫背でぽっちゃり体型の男性)から呼び出され、驚愕の知らせを受けた。


「ユアさん。学期末考査の追試だけど、もう受けなくていいよ」

「えっ?」

「全科目0点だけど、特別に卒業できることになった」


 義務教育の小・中学校ならともなく、高校で点数が取れていないのに卒業出来る話は聞いたことがない。


「何でですか? 私、二週間も学校を休んでいたんですよ?」

「リマネスさんだよ」


 担任のたった一言でユアは納得した。またリマネスが彼女の人生を決めたのだ。


 リマネスの家はダーク高始まって以来の財力で、学校に多額の寄付金も与えているため、生徒、教師、誰も口を出せなかった。

 どんなに悪事を働いても、リマネスの前では校長すら無力になる。

 特にユアのクラスの担任は生徒に舐められるぐらい内気な性格なので当然彼女を怒れず、一番頼りにならなかった。


 そんな彼の口からもう一つ、衝撃的なことを告げられた。


「あと、君の進学先ももう決まっている。プラチナダーク大学だ」


 ユアは目を見開いた。

 前年に進路先希望の紙が配られた時、志望校を書いて提出はしたが、ここロイヤルダーク高の姉妹校である「プラチナダーク大学」の名前は書かなかった。もちろん入試も受けていない。


 だが、聞く前からユアにはわかっていた。


「それも、リマネスですか……?」

「リマネスさんが“どうしてもユアも同じ大学に”って、入試も無しで入れるようにしたんだよ」

「私、別の大学に行きたいのに……」

「文句はリマネスさん本人に言ってくれ。彼女に逆らうと、僕の仕事が無くなっちゃうからね」


 そう言うと担任は、自分の作業に掛かり始めた。ユアへの用事はもう終わったのだ。


 ユアは担任へそれ以上言う気が失せ、諦めて職員室を出た。

 彼を元から好きではなかったが、最後の肝心なこの時期に大嫌いになった。


                 ◇


 フィーヴェ。

 後日、フィトラグスは再び仲間たちと会っていた。

 今日は国王と、ディファートについて話し合う日だった。


 フィトラグスが城の入口でティミレッジ、オプダット、ソールネム、チェリテットを出迎えた。


「久しぶりっ! 元気にしてたか?」


 オプダットが明るく声を発するが、他の四人はドン引きした。


「久しぶりって、まだ三日しか経ってないじゃない……」

「お前の日付感覚はどうなってんだよ?」


 ソールネムとフィトラグスがつっこむが「ヒヅケカンカク?」と疑問形で返され、何も言う気が起きなくなった。



 城内に入る一行。

 ティミレッジとチェリテットは生まれて初めてのお城に緊張し、オプダットはまるで田舎から都会に出てきた者のように上下左右あちこちを見回した。

 数度訪れたことがあるソールネムのみ何も気にせず、涼しい顔で歩いていた。


「故郷に帰ったら、歓迎されたんじゃないか?」


 フィトラグスが話を振ると、一番にオプダットが元気よく答えた。


「おう! みんな無事だったし、俺ら、()()()()扱いされたんだぞ!」

「それを言うなら、“英雄”でしょ!」


 相変わらず言い間違いが多い彼を、チェリテットが勢いよくつっこんだ。

 オプダットは人懐っこい性格なので町民からも人気があり、言い間違いの多さは黙認されていた。

 英雄扱いでしばらくは讃えられていたがあまりにも言い間違えたため、すぐに飽きられてしまったそうだ。


 一方で、ティミレッジはと言うと……。


「真っ先に母親が迎えてくれたよ。“魔王に何かされなかったか?”って、心配までされたよ」


 少々照れくさそうに言うと、横からソールネムが尋ねた。


「それだけ? ジェムを割った時のこととか聞かれなかった?」

「それは無かったですね。……って、えぇっ?!」


 彼女の質問に答えたティミレッジは少し考えた後で、声を上げた。


「ソ、ソールネムさん? 僕がジェムを割ったこと……?」

「とっくに知ってたわ。あなたがジェムの一つを割って、儀式をめちゃめちゃにしたこと」


 ティミレッジはジェムを割った時は誰にも見られていないと思っていたが、何故かソールネムには知られていた。


「後で罰を与えることにしてしばらく黙ってたけど、今思うと壊してくれて良かったわ。でも、感謝はしない。あの後、ディンフルがもっとたくさんの町村を異次元へ送って、相当な手間が掛かったから。それを考えたら、“余計なことをしてくれたな”とも正直思ってる」

「す、すいませんでした……!」


 頭を下げて謝るティミレッジに、ソールネムは「もういいわ」と言った。

 穏やかでもなく冷たくもなく感情は読み取れないが、「壊してくれて良かった」と言っている辺り、怒っているわけでもなさそうだった。



 国王のダトリンドは現在、別件で不在だ。

 待っている間、客室に通され、おやつまで出された。

 ケーキや他の洋菓子が数種類ずつあり、大きいケーキの上には誕生日でもないのにろうそくに火が灯されていた。


 フィトラグスはチョコ以外の味の菓子を選び、ティミレッジとオプダットもそれぞれ好きな菓子を取って食べ始めた。


「この量、菓子界じゃないんだから……」

「悪い。うちの城は客をもてなすために大量に用意するんだ」


 食べながらつっこむティミレッジへ、フィトラグスが答えた。

 チェリテットは食べたい菓子を取り過ぎて、皿からはみ出ていた。


「こんなにたくさんのお菓子、生まれて初めて……」


 皿にてんこ盛りになる菓子を見て、目を輝かせている。

 バイキングなどでも序盤で「あれ食べたい、これ食べたい」と大量に取ると、お腹いっぱいになってすべて食べきれなくなる者がいる。

 しかし、チェリテットは皿に乗せた菓子を次から次へと食べ尽くした。甘い食べ物が好きなのだ。


 いつもならこの様子をたしなめるソールネムだが、今だけ様子が違った。

 大きいケーキの上に砂糖菓子の人形が飾られており、それに目が釘付けだった。


「ソールネムさん?」

「……かわいい」


 心配して呼び掛けるティミレッジには気付かず、ソールネムは砂糖人形を慈しむように眺めていた。

 彼女は普段は冷静に振る舞っているが、可愛いものが大好きだった。


 砂糖人形は二頭身で、薄い茶色の髪にピンクの服を着て、細い羽根を生やした女の子の妖精の見た目をしていた。目は点で、それがより可愛さを増していた。


 しかし、砂糖人形は食べ物なので長期保存するわけにはいかない。



 その時、ケーキの上に灯っていたろうそくの火が突然大きくなった。

「火事だ!」と慌て始めるフィトラグスたち。


 しかし直後に聞こえた声で、安堵するのであった。


「久方ぶりじゃな。元気にしておったか?」


 声の主は炎界(えんかい)で出会った火の精霊・サラマンデルだった。

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