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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第3章 最後の異世界編
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第64話「生来の能力」

「こ、これから、インベクルへ?!」


 ユアはまたもや、興奮して声を上げた。

 ゲームのプレイヤーである彼女にとって、憧れの世界をようやく歩ける。

 フィトラグスの故郷・インベクル王国も行ってみたい中の一つだった。


「ちょっと待って。この子も連れて行くの?」


 ソールネムは心配した後で「自分の世界に帰らなくていいの?」とユアへ尋ねた。

 ミラーレのまりねを思わせる質問だったので、ユアはあの日に怒られた記憶が鮮明に蘇って来た。


「は、はい。私はもう、こちらで暮らしていくって決めたので……」

「えぇっ?!」


 ディンフル以外が一斉に声を上げた。


「それは初耳だよ! ユアちゃん、本気で言ってるの?」

「フィーヴェはユアにとっては、ゲームの中の世界だろ?」

「“暮らす”って、行く当てはあるのか?」


 ティミレッジ、オプダット、フィトラグスが順番に聞いた。

 旅に出る前日、ディンフルには話したが他のパーティにはまだ言っていなかった。


「そういえば、前に言っていた考えはまとまったか? フィーヴェに着いたら、ディファートに対する考えを変える話だ」


 今度はディンフルが尋ねた。

 同じく旅に出る前日、ディファートへの考えを変えないとフィーヴェで暮らしていくのは難しいと彼から助言を受けていた。


「そ、それなら大丈夫じゃない? これからディファートのことでフィットのお父さ……じゃなくて、国王様のところへ行くんでしょ?」


 フィトラグスの父親なら聞き入れてくれるだろうと、ユアはすっかりその気でいた。


「反対される可能性も十分にあり得る。あと、こちらの世界を知っているのだろう? インベクルの国王がどれほど厳格か存じないのか?」


 フィトラグスの父親が厳格な王ということは、フィーヴェの誰もが知っていた。

 ユアは主要のキャラクターは暗記済みだが、その家族は未知だった。彼らが出るゲームは発売したばかりなのでネットの情報も少なく、攻略本も出ていなかったからだ。



「そもそもあなた、どこの出身なの?」


 ソールネムの質問で流れが変わった。


「リアリティア……です」

「リアリティア?!」


 ユアが緊張しながら答えると、ソールネムは驚いて復唱した。リアリティアを知っているようだ。

 対してチェリテットは初めて聞くらしく、ソールネムへ「知ってるの?」と尋ねた。


「ええ。異世界は星の数ほどあるらしいけど、リアリティアだけはここアンリアルからは“唯一行けない幻の世界”って言われているのよ」


 ソールネムがアンリアルまで知っていることに、今度はフィトラグスたちが驚いた。


「何で知ってるんだ? リアリティアもアンリアルも、フィーヴェでは教えられてないのに」

「異世界の仕組みを知っている精霊がいるの。私はその人から聞いたわ」

「もしや、サラマンデルとやらではなかろうな?」

「……会ったのね」


 ディンフルの質問にソールネムは怪訝な顔で答えた。

 何かイヤなことを思い出したらしく、ユアたちもこれ以上追及しないことに決めた。

 五人も彼から色々と教えてもらったが面倒くさい部分もあったので、後々振り返る際はソールネムと同じ反応をしていたかもしれなかった。


「彼からも“リアリティアは存在しないものと思った方がいい”って言われたから、おとぎ話の一つだと思うことにしたの。まさか、その住民と会えるなんて思わなかったわ」

「いや、私こそ……」


 ソールネムはリアリティア出身のユアに会えたことに感激しているように思えた。表情がクールなのでわかりにくかったが、声が先ほどより弾んでいる気がした。

 逆にユアも、憧れのゲームのキャラクターたちに会えたことに改めて感動していた。


「僕も、ユアちゃんは特別な感じがしたんだ」


 ティミレッジも話に加わった。


「実はミラーレで、僕たちの戦いが娯楽になっている話を聞いた時から、“リアリティアから来たのかな”って考えてたんだ」

「え? ティミー、リアリティアを知ってたの?」

「うん。僕はソールネムさんから聞いたんだ。だけど、アンリアルや変動破(へんどうは)については炎界(えんかい)が初耳だった」


「ユアさん。差し支えなかったら話してもらえないかしら? どうやって、リアリティアから来たのか」

「“どうやって”って、ユアも変動破で飛ばされたんだろ?」


 オプダットが言うと、ユアは俯いて首を横に振った。


「変動破は関係ない。私は……」


 全員が一斉にユアを見た。



「自分でこっちに来たの」


 彼女の答えに他の者は衝撃を受け、言葉を失った。


「何と言った……?」

「……だから、自分で来たの」


 言葉の意味がわからず、ディンフルが焦りながら聞き返した。


「魔法とは無縁のお前が自分で来られるなど……」


 比較的長くユアと過ごして来たディンフルも、今回は一番理解しがたかった。


「詳しく教えて?」

「は、はい……」


 ソールネムに促され、ユアは返事をした。

 話したく無さそうな様子だった。これまでも彼女は自分の世界について聞かれると黙ったり、場所を変えて逃げていたが、今回は話さざるを得ない状況になった。



「私は、子供の時から空想の世界へ行く力を持っていたの。例えば、イマスト(ファイブ)の世界に行きたいと思ったら、最初の一回目だけはその世界の情報が詰まったものを手に持って念じないと行けないの。今回はそのためにゲームを買ったんだ。今はゲームソフトしかイマスト(ファイブ)の情報が詰まっているものが無いから。買ってすぐに店の外で“ディンフルに会いたい”って強く念じたら、ミラーレの公園にいたの」


 告白しながらユアはリュックを開け、「イマジネーション・ストーリー(ファイブ)」のゲームソフトを取り出し、皆に見せた。


「これ、俺らじゃん?!」

「すごい……。本当にあるんだ!」

「よく見せてくれ!」


 自分たちが出ているゲームソフトを見たオプダット、ティミレッジ、フィトラグスがヒートアップした。


「こいつらには見せてなかったのか?」

「そういえば、まだだったわ……」


 異世界でこのソフトを見せたのは、初日のミラーレでディンフルが最初で最後だった。

 後ろで見ていたソールネムとチェリテットも、イマストのゲームソフトに興味津々だった。


 ソールネムは質問を続けた。


「幼少期からということは、これまでも色んな世界に行ってたってこと?」

「うん。ゲームの世界に飛ぶのは今回が初めてじゃないんだ」


 ユアのさらなる告白に、他の者は再び息をのんだ。

 今度はディンフルが尋ねた。


「なら、魔封玉(まふうぎょく)を持っていたのは……?」

「あれは十四の時に、イマストIV(フォー)のキャラにもらったんだ」

「四作目?! 僕らの作品が五作目でしょ? つまり、先輩だ!」


 ティミレッジは珍しく興奮し、声が震えていた。


「てことは、一作目からイマストのキャラに会って来たの?」

「うん。歴代のキャラたちと会って、話して来た」


 ゲームでは自分たちの先輩に当たるキャラたちに、ユアがすでに会って来た話でディンフルたちは呆然とした。


「信じられないよね、こんな話?」

「まず、俺らの戦いが娯楽になってるとこから信じられないけどな……」


 反応に困る他の者をユアが心配すると、フィトラグスが代表で答えた。


「だが、何故そんな力を持っている?」

「それはわからない。気が付いたら使えてたんだ」

「なら、その力があれば、アイテム無しで異世界間の移動も可能ではなかったか?」

「行き来できるのはリアリティアと空想の世界だけで、他の世界はわからない。やったことないから。まさか、ミラーレや菓子界みたいな世界も存在するなんて思わなかったから」

「何故、今まで隠していた?」

「……言ったら、“元の世界に帰れ”とか言うでしょ?」


 ディンフルからの問いにユアは不安そうな顔で答えた。


「前から気になってたんだけど、リアリティアで何があったの? この話になると毎回、ユアちゃんから拒絶反応が出てる気がするんだよね」


 ティミレッジの質問に、さらにユアの体が硬直した。

 それに気づいた彼は「話せないなら無理しなくていいよ」と慌てて取り消した。


「あなたの事情も城でお話しした方が良さそうね。国王様がリアリティアを知っているかはわからないけど、話す価値はあると思うわ」

「じゃあ、この子もインベクル行き決定だね?」


 ソールネムの提案にチェリテットが言った。

 これでユアもインベクル王国へ行けることになり、本人はもちろん他の者も賛成した。


 一行は目的の場所に向かって歩き始めた。


                 ◇


「前にあちらで“人生に絶望した”と話していたが、私を見つけるまでに空想へ逃げると言う発想は無かったのか?」


 歩きながらディンフルが尋ねた。

 見知らぬ世界へ逃げ出すことはユアには可能である。

 しかし、ミラーレで一日子供が行方不明になったまりねが「生きた心地がしなかった」と発言した辺り、本来オススメは出来ないものだ。


 最後尾を歩いていたユアは立ち止まり、たどたどしく答えた。


「それは……ディンフルに会うまでは、”二度と使わない”って決めてたから……」

「何故だ?」


 先頭を歩いていたディンフルが彼女へ振り向いた。


 途端に彼は列の後ろ目掛けて走り出した。

 他の者が一斉に振り返ると、ユアの背後に巨大な黒い穴が現れ、彼女を吸い込み始めていた。


 ディンフルは瞬時に大剣を出し、近くの木に刺すとユアへ指示を出した。


「肩紐を片方持ったまま、リュックを投げろ!!」


 言われるままユアが片方の肩紐を持ったままリュックを投げると、ディンフルがもう片方の肩紐を受け取り、自身の方へ引っ張り始めた。


 しかし穴の吸引力の方が強く、ユアの足が浮き、体も真横を向き始めた。

 肩紐を持つ手もしびれてきた。


「もう、ダメ……」

「諦めるな!! 聞きたいことがまだ山ほどある! ユアも、我々と居たいだろう……?!」


 ディンフルが元気づけるも、凄まじい吸引力のせいか引っ張られたリュックが少しずつ裂け始めた。

 一番軽いポーションバーの包み紙が飛び出してしまい、穴の向こうへ吸い込まれてしまった。

 気を取られたユアは思わず、肩紐を掴む力を緩めてしまった。


 その瞬間、ユアは向こう側へと消えてしまった。



「ユアァーーー!!」



 穴はユアを吸い込むと消えてしまい、辺りに静けさが残った。



「な、何、今の?!」

「わからない。あんな魔法、初めて見たわ……」


 男性陣四人は絶句し、チェリテットとソールネムも混乱していた。


「ユア……」


 ディンフルはユアを助けられなかったショックで体の力が抜け、その場で膝をついてしまった。


 近くには、持ち主を失くした上に破損したリュックが寂し気に転がっていた。




 大穴に吸い込まれたユアの安否は?

 彼女がリアリティアを拒絶する理由は?

 ディンフルとディファートの未来は?


 まだまだ問題が残る彼らの運命や、いかに?


(第4章へ続く)

これで第3章は完結です。


「いいね」と思った方は、評価とブクマ登録お願いします。

セルフチェックはしておりますが、気になる箇所がありましたらご指摘お願いいたします。今後の改善に役立てていきます。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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[良い点] 今後の展開に目が離せなくなりました。第四章も楽しみにしています!
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