↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボスと空想好きのユア  作者: レセラン
第3章 最後の異世界編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/120

第57話「帰郷」

 森の中。

 黄緑色のサイドポニーテールの女性・チェリテットが、左右を隈(くま)なく見て歩いていた。


「ソールネム、この森で間違いないの?」


「水晶玉の反応は、この森で止まってるわ」


 紫のローブ姿の黒魔導士・ソールネムは、野球ボールサイズの青い水晶玉を見つめながらうなずいた。


「その水晶玉は間違ったことがないけど、今は変わったことはないよ?」


「何か予感がするの。フィットたちと会えるような感じが……」


「フィーヴェ中を探しても見つからないなら、やっぱり異次元かな……?」


「急ぎましょう、チェリー」


 行方不明になったフィトラグスたちを捜すソールネムとチェリテットは、彼らの無事を祈り続けた。


◇


 緑界(りょくかい)の宿屋。

 元気になったユアはおそるおそる、一階の食堂で食べるフィトラグスたちへ声を掛けた。


「お、おはよう……」


「おっは~!」


「おはよう、ユアちゃん!」


「おはよう」


 オプダット、ティミレッジ、フィトラグスが挨拶を返した。

 三人とも彼女の回復を喜び、微笑んでいた。

 ディンフルと一緒に離脱していたフィトラグスも好反応だった。


「あ、あの……、昨日のことだけど……」


 ユアがそこで言葉を詰まらせると、フィトラグスが口を開いた。


「もういいよ。今は魔法を封じられて良かったって思ってる」


「えっ……?」


「昨日、オープンに言われたんだ。もし魔法が使えるままだったら、ディンフルとやり合ってどちらかが死んでたかもしれない。自分でも怒りを抑えられずにあいつを殺してたと思う……。その前に、ディンフルのことだから魔法でフィーヴェへ帰るか、ユアを異次元へ送ってたかもしれないけどな」


 浮かない表情のフィトラグスの後で、オプダットが意気揚々と言った。


「それ考えたら、封じられたス(・)リ(・)ッ(・)ト(・)はあったな!」


「”メリット”ね……」


 ティミレッジはいつもどおり、彼の言い間違いを訂正した。


「私が異次元……か。もっと怒らせてたら、そうなってたかも?」


 ユアの言葉に、ティミレッジが反応した。


「“もっと怒らせてたら”って?」


「“数少ない賛成者”って理由で見逃してもらったよ」


「えぇっ?!」


 オプダット、フィトラグス、ティミレッジは驚いて声を上げた。


「お、俺たちって、竜巻が来た後すぐ、ミラーレに飛ばされたよな?」


「ディンフルもまだ魔王の気が強かったはず……。それなのに、ユアを許したのか?」


「それも賛成者……つまり、“ファンだから”って理由で?」


 オプダットとフィトラグスが振り返った後で、ティミレッジが信じられない様子で言った。


「うん。魔法も空間移動のを使おうとしたし、私を異次元へ飛ばす素振りはなかったよ」


 ユアの証言で、フィトラグスは難しい顔をして考え始めた。


「おかしくないか? あれほど人々を苦しめた魔王が、ファンってだけで人間に目をつぶるとは。甘いと言うか……」


「も、元々、優しい人なんだよ」


 ティミレッジが焦りながらディンフルをフォローした。



 四人が話していると、ディンフル本人がやって来た。

 手には物が入っている袋をぶら下げていた。


「私の悪口か?」


 からかうように言うと、フィトラグスがさらにかぶせるように皮肉を言った。


「そうだ。よくわかったな」


 ユア、ティミレッジ、オプダットの三人はおろおろとした。

 だが、当のディンフルは気にしていないようだった。


「まぁ、いい。準備が出来次第、出発だ」


 受け流されたフィトラグスだが、いつもみたいに不服そうにはしなかった。

 二人が前より丸くなったことにユアたちはほっとした。


「何か買って来たのか?」


「ああ。しかし、お前たちへの土産ではない」


 ディンフルがオプダットからの問いに答えると、フィトラグスは身の毛がよだった。

 彼の青ざめる顔に、いち早くディンフルが反応した。


「何だ、その顔は?」


「あんた、買い物したのか……?」


 先ほどの皮肉は流したが今の質問は癪(しゃく)にさわったらしく、ディンフルは眉間にしわを寄せて聞き返した。


「……どういう意味だ?」


「魔王だから、てっきりしないものだと……」


「失礼な! 魔王になる前は人間と同じようにしていた! ディファートを差別しない世界で、強奪するわけにもいかぬだろう!」


「魔王のディンフルが買い物」……ユアが描く彼の理想像になかった姿だ。


 ユアの中で、ディンフルは玉座に座りワインを飲むイメージがあった。


 だが実際の彼は、弁当屋で働き、山菜を採り、ケガ人を背負い、子どもの世話まで出来る。

 面倒を見てもらったミントはディンフルにすっかり懐き、彼を見るたびにご機嫌になるほどだった。


 ユアが色々考えている間に、ティミレッジが重要な問題に気がついた。


「買い物って、ここの通貨持っていたのですか?」


「そういえば?!」


 ユア、オプダット、フィトラグスもそろって声を上げた。


「心配無用。物々交換だ。指定された草や花を依頼の数だけ持って行けば、物品を手に入れられる」


 ミラーレでの山菜採りも難なく出来た彼なので、森での調達もお手の物だった。



 数分後、朝食と荷造りを終え、準備が整った。


「全員、いいな?」


「はい」


 すでに外で待っていたディンフルが確認すると、ユアが代表して返事をした。

 しかし覇気がなかった。何故ならこの後、彼から罰が待っているからだった。


 ユアは異世界へ飛ぶために、本のボヤージュ・リーヴルと鍵のボヤージュ・クレイスを手にした。


「ユア、それらをしまえ」


「えっ?」


「また、カエルや火の精霊みたいな奴に盗まれては困る」


「で、でも、これから使うし……」


「使わぬ」


 ディンフルが食い気味に否定すると、四人は口をあんぐりさせた。


「異世界へ飛ぶんだろ? これらを使わないと行けないぞ?」


 今度はフィトラグスの指摘に、ディンフルはため息をついた。


「すっかり忘れているな……」


 呆れながら言うと、彼は左手を上げた。

 手の中から光が現れ、ユアたち五人を包みこんだ。


◇


 ユアたちは別の森に来た。

 リーヴルとクレイスを使った時のような強風や衝撃は少なく、比較的おだやかに移動が出来た。


 緑界の森は一本ごとの木が天まで届くほど高く、空がほとんど見えなかった。

 次に来た森は、木が緑界ほど高くなく、黒に近い灰色のくもり空が大きく見えていた。


「移動はこれで最後だ」


 ディンフルの台詞の意味がわからず、四人はきょとんとした。

 ティミレッジが一番に気がついた。


「も、もしかして、ここって……?!」


「フィーヴェだ」


 フィトラグス、ティミレッジ、オプダット、ディンフルにとっては生まれ故郷であり、ユアにとってはどうしても来たかった憧れの世界だ。

 ついに五人は、目指していたフィーヴェに帰って来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。