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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第3章 最後の異世界編
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第55話「救出」

「戻って来てくれたんだな?!」


 ユアのピンチに駆けつけ、巨大虫(きょだいむし)を追い払ってくれたディンフルへオプダットが声を弾ませた。

 ディンフルはユアを指しながら答えた。


「こいつに用があって来ただけだ」


「ユアちゃんに用があるって、もしかして……?」ティミレッジも「許してもらえるのでは」とわずかに希望を抱いた。


「それよりも、何故三人もいてモンスターを止めぬ? 魔法も戻ったと言うのに」

「しょうがねぇだろ! 儀式はもう始まっていたし、ムカデだって高い場所に現れたんだから! あんたみたいに飛べるマントも持ってないんだよ!」


 ディンフルの指摘にフィトラグスがとげとげしく反応した。



 弾かれた巨大虫が戻り、今度はディンフルへ牙を剥け始めた。


「貴様が五〇〇年に一度現れる奴か。フン、大したことはない」


 ディンフルは大剣を構えると、下にいる緑王(りょくおう)へ尋ねた。


「この巨大虫とやらを倒せば、儀式はしなくても良いのだな?」

「え、ええ。生贄を捧げるのは、巨大虫を封じるためですので……」


「なら……」とディンフルは武器に魔法を込めた。大剣に紫の光が宿る。

 ディンフルは巨大虫へ駆け、大剣を思い切り振った。剣先から黒と紫の光が出た。



「シャッテン・グリーフ!!」



 虫に黒と紫の光が当たる。

 同時に大剣で頭部を斬られると、全身が黒いモヤとなって消滅してしまった。

 悩みの種になっていた巨大虫があっという間に倒された。


「これで、儀式は無しだ」


 緑王と祈祷師たちは唖然とした。

 感謝を告げるはずが、あまりにも一瞬だったので驚きで言葉が出なかった。



 ディンフルは大剣でツタを斬ると、ユアを大樹から解放した。

 彼女はまだ目覚めなかった。


 彼はユアを抱き、地面に降り立った。

 フィトラグスらも集まって来た。


「ユア!」

「しっかりしろ!」


 オプダットとフィトラグスが呼びかけるが、返事はない。


「よし、ティミー! 白魔法だ!」


 オプダットが指示を出すが、ティミレッジは悲しげな顔でユアを見つめていた。


「ティミー?」

「……魔法を使っても、ユアちゃんは目を覚まさないよ」


 そう言うと彼は俯いた。


「やってみないとわからないだろ!」

「わかるよ。ユアちゃんから生気が感じられないもん」

「俺らがダウンした時、白魔法で回復してくれてたじゃねぇか?」

「その時は生気があったから魔法も効いたんだよ。でも、今のユアちゃんには効かない。断言出来るよ」


 フィトラグスたちは息をのんだ。

 さらにディンフルも目を見張り、ユアへ呼び掛けた。


「目を覚ませ」


 やはり反応がないので次は大きな声で名前を呼び、体を揺すった。


「ユア!」


 やはり微動だにせず、ユアの体はぐったりと垂れてしまった。力がまったく入っていなかった。



 その時、ディンフルの脳裏にある光景が浮かんだ。

 自分の胸の中で誰かが力尽きるのは、これが初めてではなかった。

 同時にユアと過ごしたこの二週間が突然、走馬灯のように駆け抜けていった。


 出会った時に顔を隠されたり、弁当屋初日で無理やり髪を束ねられたり、ドジを注意したり、滑落した時に助けに行ったり、捻挫した時におぶって行ったり、夜の公園で二人で話したり、魔物から助けたり、勝手にマントを繕われたり、魔封玉(まふうぎょく)のことで怒ったりと色々なことがあった。


 嫌われ者のディファートとして生まれたディンフルにとって、ユアは唯一自分を好きでいてくれる。

 その命が今、消えようとしていた。


「申し訳ありませんが、残念な結果になってしまいました。儀式で掛けた魔法と大樹の力で、ユアさんの命は神に捧げられたもの……」

「え……? 巨大虫はもういないのに、ユアは生贄になったってことか?」


 フィトラグスが聞くと、緑王は哀愁に満ちた表情で頷いた。


 パーティは戦慄に震えた。

 特にフィトラグスは彼女へ再び怒鳴ってしまった後悔から、胸が締め付けられた。


「ウソだろ……? そんな……」



「ユア!!」


 彼が叫ぼうとしたその時、ディンフルが胸の中のユアを抱きしめ、絶叫した。


「ディンフル……?」


 魔封玉の一件で一番怒りを露わにしていたディンフルが、誰よりも悲し気な表情を浮かべていた。

 他の者は驚きながら彼を見た。


「変な真似はよせ! 共にフィーヴェへ行くのではなかったか?! 我々の冒険を娯楽として楽しむのではなかったか?! またミラーレの弁当を食べるのではないのか!? ここで起きねば何も叶えられぬぞ! ユア!!」


 何度呼び掛けても彼女は目覚める気配がない。

 ユアを抱く彼の手が震えていた。



「死ぬな!!」



 ディンフルは叫ぶと、ユアの唇に口付けをした。


 さらに騒然とする他の者。

 フィトラグスは固まり、ティミレッジは目を輝かせ、オプダットは両手で顔を覆ってしまった。


 驚愕する周囲をよそに、ディンフルはユアから唇を離さなかった。



「ここは……?」


 ディンフルの胸の中で眠っていたユアが目を覚ました。


「ユア!!」


 声がするとディンフルは唇を離し、彼女を見つめた。


 端で、眠るミントを抱いていたミドリも「王子様のキスで目を覚ますお姫様と一緒だ」と涙を流して安堵した。


「まったく、心配させんなよ……!」

「良かった、ユアちゃん……」

「本当だぜ……」


 フィトラグス、ティミレッジ、オプダットはそれぞれ涙を流し、彼女の復活を喜んだ。


「みんな……、何で泣いてるの?」


 ユアはまだ意識が朦朧としていた。

 そのため「何故、仲間たちがここにいるのか」より泣いている方が気になった。


「泣くに決まっているだろう……」


 ディンフルが俯き、力なく言う。

 そして顔を上げるなり、目覚めたばかりのユアを怒鳴りつけた。


「この、バカ者!!」


 ユアは身を震わせ、他の三人も涙が引っ込んでしまった。


「何故、こんな危ないことに首を突っ込んだ?! 魔法の耐性も無いくせに! 私と出会ったがために生き続けようと思ったのではなかったのか?! 自害と一緒だぞ!!」

「ご、ごめんなさい……」


 ディンフルは涙して喜ぶ三人と違い、大声で彼女を叱りつけた。

 怒気に圧倒されながらも、ユアは彼が本気で心配していることを思い知った。


 傍で聞いていたティミレッジとオプダットは「ディンフルと出会ったから生きようと思った」の件は初耳で首を傾げ、菓子界で知っていたフィトラグスは冴えない表情をした。


「でもディンフル……、私のことを許せないでしょ? 私が、魔法を、封じた、か、ら……」


 ユアは語尾へ行くにつれて、言葉が途切れ途切れになった。

 目覚めることは出来ても、まだ疲れが残っていた。


 言い終える前に彼女はまた気を失ってしまった。

 それでも先ほどみたいに生気を失くしたわけではなく、今度は普通に眠っていた。


 ディンフルは再びユアを抱きしめ、安堵の表情を浮かべた。

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