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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第3章 最後の異世界編
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第53話「緑界の掟」

「この緑界(りょくかい)には、巨大虫(きょだいむし)が現れた時に生贄を神様へ捧げる掟があるのです」


 最初に言い出したのは、緑界の王・緑王(りょくおう)だった。


「生贄?」


 ユアは疑問形で復唱した。

「生贄」という言葉は知っており、彼女が住む世界のどこかでもあったが現在は存在しなかった。

 なので、おとぎ話の一つと思っていた。


「生贄を捧げることで、神様が我々の代わりに巨大虫を倒してくれるのです」


 リーフも説明に参加した。


「で、でも、生贄って、捧げられた側は死んじゃうんですよね?」


 リーフは「……はい」と悲し気に肯定した。


「生贄には条件があって、“二十歳を迎えていない十代の女性”でないとダメなんです」

「ずいぶんとピンポイントですね……。今、この世界にいるんですか?」

「ミドリ、ただ一人です……」


 ユアは言葉を失った。

 ミドリはリーフという若くて優しい夫を持っており、娘のミントもいた。

 そんな順風満帆で、まさに「これから」と言う時に家族の絆が引き裂かれようとしていた。


 だが生贄を捧げないと、巨大虫を封じることは出来ない。

 緑王は自分の世界を守りたいが、リーフたちも譲れなかった。


「本当は代わってさしあげたいですが、わたくしの年齢は条件に当てはまりません。そしてこの緑界には現在、巨大虫を倒せる者もいません」

「緑王様! 私が巨大虫を倒します! なので、ミドリを連れて行かないで下さい!」


 リーフが抗議するとミドリが口を挟んだ。


「現れた巨大虫は過去に例を見ない大きさなんでしょ? 下手するとリーフが死んでしまうわ!」

「君を失うより、ずっとマシだ!」


 人間が倒せないほどの巨大虫の話を聞いて、ユアは真っ先にディンフルの顔が思い浮かんだ。

 しかし彼はミントを村へ帰した後、どこへ行ったかわからなかった。

 頼めたとしても、聞き入れてもらえるかどうかも危うい。


「わたくしもミドリやリーフたちに生きて欲しいです。しかし、この緑界が滅ぶのも耐え難いのです」


 緑王も途方に暮れ、全員何も言えなくなってしまった。

 ミドリの胸で抱かれるミントは大人たちの不安そうな顔を見て、今にも泣き出しそうだった。



 沈黙を破るようにユアが尋ねた。


「あの……生贄の条件って、ニ十歳を迎えていない女性でしたよね?」


 他の三人は一斉に彼女を見た。


「それって、別世界の人でもいけるんですか? “どうしても緑界の人じゃないとダメ”とかあるんですか?」

「わからないです。今まで緑界の住人しか捧げて来なかったので……」


 緑王が頭をひねりながら答えた。



「だったら……、私を使っていただけませんか?」


 ユアの告白により、三人に激震が走った。


「ユアさん……? 何を言っているんですか?」

「そ、そうですよ。ご冗談を……」

「冗談なんかじゃありません。リーフさんもミドリさんも、ミントちゃんにとっては大切なご両親です。どちらも欠けてはダメです」

「ですが、生贄として捧げられたら死んでしまうんですよ?」

「……わかっています」

「私たちの話を聞いて、同情してくれたのですか? あなたにだって、心配してくれる人がいるんじゃないですか?」


 ミドリに言われるとユアの脳裏にディンフルを始め、ティミレッジ、オプダット、フィトラグス、そしてミラーレで世話になったとびらたちの顔が思い浮かんだ。

 しかし、ミラーレはまた行けるかわからないし、一緒にいる四人も今は会いづらかった。


 何より、仲間の二人からは完全に嫌われてしまった。

 今回はユアに非があるので仕方のないことだった。


「私はいいんです。もう待ってる人もいないので……」

「でも、お連れの方がいらっしゃるのですよね?」

「私が原因ではぐれたので……」


 リーフとミドリは顔を見合わせた。

 緑王も困惑していた。異世界の者を生贄にするのは初めてなので、どうしていいかわからなかった。


「審議したいところですが、時間がありません。本当によろしいのですね?」


 緑王は最後の確認をした。


「はい。ミドリさんには、これからリーフさんやミントちゃんとの時間が待っていますから」


 ユアが決断を下すとミドリは声を上げ、顔を覆って泣き出した。

 リーフも「ありがとうございます……!」と涙声で礼を言い、頭を深々と下げた。


                 ◇


 その頃、ディンフルは緑界とは違う森の中にいた。


「やはり、故郷の森は違うな」


 彼は空間移動の魔法で、ようやくフィーヴェへ帰って来た。

 もちろん一人だった。彼も今は他の四人とは会いたくなかった。


 ディンフルは共に旅した者たちのことは忘れ、こちらでの行動に戻ろうとしていた。



 しかし勇者のフィトラグスたちは別世界で、彼らの他に来ていた戦士たちも全員異次元へ送ってしまった。フィーヴェに戻っても戦う相手がいなかった。

 このまま残った町村も異次元へ送ろうと考えたが、誤ってディファートの生き残りも消してしまいかねなかった。


 自分に歯向かう者はいないので、フィーヴェを完全に支配出来るのも時間の問題だった。

 今は余計な行動はしないことに決めた。



 森の中を進んで行くと、突き当りに墓石があった。

 近年に出来たものらしく、汚れや傷は見当たらなかった。


「久しぶりだな」


 屈むと墓石に向かって優しく語り掛けた。


「会って話すことは出来なくなったが、どこからか見守ってくれているんだろう? 今のフィーヴェはお前の目にどう映っている?」


 尋ねてみるが、もちろん返事はない。

 それでもディンフルは話しかけずにはいられなかった。



 背後に気配を感じたディンフルは立ち上がり、振り返った。

 こげ茶色の髪を二つに下げた二十代前半ほどの女性が立っていた。


「エラ……?!」

「……やっぱり、ディンフルなのね?」


 エラと呼ばれた女性はディンフルを悲し気な目で見つめていた。

 彼の方は明らかに不快感を示し、ぶっきらぼうに声を掛けた。


「無事だったのだな?」

「ええ。あなたが村を異次元へ送った日、私たちは遠方の病院にいたから……」

「私()()……? 他にも逃れた者がいるのか。もしや……?」

「父の見舞いで病院へ行ってたの」


 エラが父の話を出した途端、ディンフルは眉間にしわを寄せ、固く拳を握った。


「申し訳ないが、そちらの父は一生許すつもりはない。何故入院に至ったかはわかりかねるが、天罰が下ったとしか思えぬ」

「天罰と言うより……」


 エラはそこまで言うと、言葉を詰まらせた。

 ディンフルが「何だ?」と聞くと、彼女は自分の父について話し始めた。


 ディンフルは目を見開いた。

 その内容は彼を震撼させるものであった。

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