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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第3章 最後の異世界編
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第51話「怒りの炎」

 森の別の場所ではオプダットが前方に、フィトラグスの後姿を見つけた。

「フィットー!」と呼ぶと彼は振り向き、驚いた顔でオプダットを見た。


「お前だけか?」


 パーティの元を去る前、彼の他にユアとティミレッジもいたが、たった一人しか迎えに来ていないのでフィトラグスは疑問を抱いた。


「ティミーはディンフルを探しに行って、ユアはあの後、走って行ってしまったぞ」

「どこへ?」

「わからねぇ。でも、悪気は無かったんだからさ……」


 元凶である彼女を庇うオプダットに、フィトラグスは不快感を示した。


「あいつのせいで、俺は魔王を倒す機会を逃したんだぞ! あれほど、“ディンフルは故郷の仇”って言って来たのに……!」

「仇って異次元へ送られただけだろ? ディンフルも言ってたじゃねぇか。“送られたみんなは無事”だって」

「でも、魔法を封じられたら不愉快だろうが! この旅でどれほど大変だったか! 元々使えないお前にはわからないよな?!」

「ああ、わからねぇ。でも俺、二人が決着つけれなくて良かったって思ってる」

「はぁ?!」


 フィトラグスが語気を強めると、オプダットは少しだけ怯んだ。


「お、怒るなよ。もし魔法が使えてフィットとディンフルが本気でやり合ってたら、弁当屋だってめちゃくちゃになってただろうし、ミラーレが第二のフィーヴェになってたかもしれないんだぞ?」

「その前にディンフルはとっくにフィーヴェへ帰ってたかもしれないし、下手すりゃユアも異次元行きだったな」


 ミラーレへ来たばかりのディンフルを見ていないが、彼ならすぐに魔法で解決してしまうと二人は思った。


「この旅で、ディンフルが本当は協力的で優しい奴だって知れたじゃねぇか」

「そんなの知ってどうするんだ?! そもそも、優しい奴は人や故郷を消したりしねぇよ!」


「確かに……」オプダットはすぐに言い負かされてしまった。


「とにかくユアも許すつもりは無い。自分の事情で人の戦いを邪魔しやがって!」

「お前たちに争って欲しくなかったんだよ! 俺と一緒だよ」

「でもお前、ラスボス戦は参加してたじゃねぇか?」

「本気で倒すつもりはなかったぜ。もしお前がトドメを刺そうとしてたら、止めるつもりだった」

「お前も自分の事情優先だな……。“ディンフルとはわかり合える”って根拠もねぇこと言うし」

「じゃあフィットは、ディンフルが死んだら満足なのか?」


 いつも陽気なオプダットは急に真剣な表情で尋ねて来た。

 彼の口から「死ぬ」という言葉が出て、フィトラグスは言葉をつぐんだ。


「誰も“死ね”とは言ってないだろ……」


 反論するも驚きが勝って強く言えなかった。


「俺が子供の時に病気だった話はしたよな?」


 オプダットは突然、幼少期の話へ切り替えた。


「病院には、俺と同じように病気と闘ってる同年代の子がいた。病室が同じなのと、病気と闘っている者同士ってことで仲良くなった奴もいる」


 何故いきなり病気だった頃の話をし出すのか疑問が晴れない。

 フィトラグスはわけがわからないまま、静かに聞き続けた。


「仲良くなった中に死んだ奴もいた」


 衝撃の告白にフィトラグスは目を見開いた。


「そいつが死んだのは朝早い時間だったが、前日の夕食時までいつも通り普通にしゃべってたんだぞ。”また明日な”って寝る前にした挨拶が最後の会話になるなんて思わなかったよ。前に菓子界で、フィットが”永遠なんて無い”って言った時に、その時のことを思い出したんだ」


 いつも明るいオプダットから、死に関する話が出てフィトラグスは返事が出来なかった。


「俺も、どっちにも死んで欲しくないな」


 オプダットは変わらず、真剣な表情のままで言った。

 おそらく、これを一番伝えたかったのだろう。命の大切さを知っているからこそ、相手が敵でも死んで欲しくないのだ。


「魔法が封じられてなかったら、最悪どっちかが死んでたかもしれないんだぞ?」


 そう言われ、フィトラグスはさらに反応に困った。


 ディンフルの戦い方では最後は異次元へ送るかもしれないが、向こうが本気で掛かって来たら自分が死んでいたかもしれない。

 逆に、故郷や家族を奪われたフィトラグスは怒りのあまり、相手を剣で刺していたかもしれない。そうなると、ディンフルが死ぬ可能性があった。


 いくら世界を救うためでも殺すことには抵抗があった。相手は同じ人間ではなくディファートだが、言葉が話せる者同士。

 オプダットの言うとおり、話せば解決できるかもしれない。フィトラグスは今頃、そんな考えが浮かんで来た。さらに……。


「さっきの炎界(えんかい)で手を取って助け合ってただろ? 俺、すっごく感動したんだぞ!」


 炎界で崖から落ちたフィトラグスをディンフルは飛行能力で助けてくれた。

 再戦したいからだそうだが、故郷を奪った敵が自身の命の恩人となった。


 次にディンフルが落ちそうになった時はフィトラグスが助けた。

 故郷や家族を戻してもらわないと、異次元に飛ばされたままだと思ったからだ。

 彼が死ぬと消された場所や人がどうなるかわからないが、フィトラグスもディンフルに生きてもらいたかった。それは事実だ。

 同時に、助けてもらったお礼でもあった。


「あ、あれは、死なれたら困るから、嫌々助けただけだ!」


 フィトラグスの反論にオプダットは思わず吹き出し、笑い始めた。


「何だよ?!」

「わ、悪い……! 今の言い方、ミラーレにいる時のディンフルにそっくりだなって思って!」

「あいつと一緒にするな!!」



 フィトラグスが怒鳴ったところで、後ろからティミレッジが「おーい!」と叫びながらやって来た。


「ティミー!!」

「ここへ来るってことは? ディンフルは?」

「会ったけど、失敗したよ。話の途中で飛んでってしまった……」


「あいつの説得なんて一番ムダだろ。世界を制圧する魔王だぞ」

「そ、そうだけど、元々は優しい人だから……」

「あのな……。今、オープンにも同じことを言ったが、優しい奴は人や故郷を消さないんだ!」

「ディンフルさんにも何か事情があったと思うんだよ!」

「何でそう言えるんだ? ティミーもオープンみたいに庇うんだな?」

「そ、そういうわけじゃないけど……」


 ティミレッジは、ディンフルとの過去を打ち明けるか迷った。


 ディンフルがさらに多くの町村やフィトラグスらの故郷を消すきっかけを作ったのは、魔王とディファートを消すジェムを壊したティミレッジだった。

 このことを知っているのは、本人と先ほど知ったディンフルのみ。フィトラグスが知るとどういう反応をされるか恐れてしまい、口が開けなかった。


 ティミレッジがおどおどしていると、フィトラグスは彼に背を向けて歩き始めた。


「フィット! どこ行くんだよ?!」

「ユアを探す」

「えっ?!」


「ボヤージュ・リーヴルとクレイスを持っているのはあいつだろ? 二つをもらって、フィーヴェへ帰してもらうんだ!」

「それだけのために……? でもランダムだから、必ずフィーヴェに行けるとは限らないよ?」

「確実に行くなら、ディンフルに頼む方が……」


 オプダットの提案をフィトラグスは「ふざけるな!!」と遮った。


「あいつの手を借りたくないから、ユアのアイテムを使うんだ!! すぐに帰れなくてもいい。どんな手を使ってでも、フィーヴェに戻りたいんだ!」


 そう言うと彼は再び歩き始めた。

 オプダットの幼少時代の話をどう受け取ったかはわからないが、フィトラグスの怒りの炎はまだまだ消えそうになかった。

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