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ラスボスと空想好きのユア  作者: レセラン
第3章 最後の異世界編

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第50話「緑界の家族」

 木々に囲まれた静かな森の中。

 ティミレッジとディンフルは、フィーヴェの戦いが始まる前にあったことを振り返っていた。


「まさか、あの時の白魔導士と再会し、共に旅に出るとは思わなかった」


「僕も、あの時の魔王が異世界で働いて、みんなにも優しさを振りまくとは思いませんでした」


「やめろ……」


 ティミレッジがミラーレのことも含めて言うと、ディンフルは眉間にしわを寄せた。

 彼が、ここ数日で一番思い出したくないことだった。


「しかし、ジェムが動かなくなった原因が、お前だったとは……」


 ディンフルは自身にトドメを刺そうとしたジェムの一つを、ティミレッジが壊したことを初めて知った。


「何故、そのようなことをした? 私を庇えばどうなるか、頭のいいお前ならわかる筈」


「どうしてあんなことをしたのか、自分でもわかりません。体が勝手に動いたので……。だけど、後悔はないです」


「バカだな。その結果、私はお前たちの故郷を消した。もし家族に何かあっても、同じことが言えるか? 何より、ジェムを壊した後、何か言われたのではないか?」


「やっぱり……お優しいですね!」


 ティミレッジは声を弾ませた。


「何……?」


「異次元へ送った僕たちの家族や、僕の身を案じて下さってるじゃないですか。普通の魔王なら、敵の心配なんてしませんよ」


「す、少し気になっただけだ!」


 ディンフルはすかさず否定した。

「優しい」と指摘されるのは、いつも通り不服だった。


「僕なら大丈夫です。黒魔導士のソールネムさんが近くにいましたが、気付いていませんでした。何でも“最後の抵抗”として、あなたが魔法で壊したことになっているので」


「濡れ衣だな……」


「どちらにせよ、ジェムに関わった魔導士たちも、すぐに村ごと消されたので、僕のことは誰にも知られていないです」


 ティミレッジがそう言うと、ディンフルはどこか安心した表情を浮かべた。


「僕、ずっと考えていたんです。あなたのような優しい方が世界を制圧するのは、よほどの理由があるんじゃないかって」


「私は優しくなどない。もう人間どもに媚は売らぬ」


「じゃあ、何で僕と母を助けたのですか? あの時、母は瀕死でしたし、僕も攻撃出来ない白魔導士で魔力も底をついていたんですよ。あなたなら簡単に倒せたはずです」


「不利な親子を助けたから優しいと? とんだ勘違いを。余計な火種を増やしたくなかっただけだ。お前たちに何かすれば、ビラーレルの者から怒りを買うだろう?」


「すでにフィーヴェ中から買っていたと思いますが……?」


 ティミレッジの指摘に、ディンフルは「そうだな……」と焦りを見せた。


「母と城へ行った時、正直、僕は怖かったです。世界を震撼させる魔王と戦うなんて、初めての経験だったので……。でも、あなたは助けてくれた。やってきた兵士たちも、倒れる柱も、放っておけば、僕らがやられるのは目に見えていたのに。ビックリしたけど、嬉しかったです」


「違うと言っているだろう……」


 ディンフルはうんざりしながら否定した。

 もう、抗(あらが)うのも疲れているようだった。


「魔王なら、敵を無傷のまま故郷へ帰しません。本当は、ユアちゃんと会う前から優しい人だったんじゃないですか?」


 ユアの名前を出した途端、ディンフルは視線をそらし、無言になった。

 突然、相手の様子が変わり、ティミレッジは困惑した。


「な、名前も聞きたくないのですか……?」


「当然だ。魔法が使えぬせいで、どれだけ大変だったか。お前に一番怒る権利があるのだぞ。何とも思わぬのか?」


「お、思ってないことはありません。ただ、ユアちゃんも、すごく反省しています」


「口で言うだけなら簡単だ。これまで会って来た奴は、“反省してます”だの“次から気を付けます”だの、その場しのぎの言葉を使うだけで内心は悪びれていない。叱責される間をどうやり過ごすかしか考えていない。あいつもそうだ。”敵同士を戦わせたくない”など、自分の都合で皆を振り回すとは、自分勝手にもほどがある!」


「ぜ、全員がそうとは限りませんよ。ユアちゃんは本気で悪いと思っているはずです! 元々悪い子じゃないこと、ディンフルさんも知っていますよね?」


 ディンフルは口をつぐみ、ティミレッジに背を向けた。


「パーティに戻すための思い出話なら、もうよい。……何を言われても、戻らぬ」


「ま、待ってもらえませんか? 話は終わってません!」


「一つ伝えておく。先ほど一件の村で聞いたところ、ここは”緑界(りょくかい)”という緑で生い茂った世界だそうだ。まだ歩き回るなら覚えておけ」


 最後に今いる世界の説明をすると、ディンフルはマントの飛行能力で飛んで行ってしまった。


「そんなぁ……」


 説得に失敗し、ティミレッジは膝から崩れ落ちてしまった。


◇


 その頃、ユアは切り株の上に座って休憩を取っていた。

 ディンフルとフィトラグスを怒らせただけでなく、ティミレッジとオプダットを置いて来てしまった。

「これで、あとの二人からも嫌われるに違いない」と不安に駆られていた。


(みんなに会わす顔が無い……。リーブルとクレイスを使って、私だけ他の世界へ飛ぼうかな?)


 逃げることを承知で、一人だけ他の世界へ飛ぼうと考え始めた。


(いや、そんなことしたら、もっと嫌な思いさせてしまうし、もう二度と会えなくなるかもしれない。何より、一番逃げちゃいけない時だ……!)



 考えていると、頭の上で男性の鋭い声が聞こえた。


「何をしているんですか?!」


 顔を上げると、全身緑の服を着た若い男性がいた。この世界の住民のようだ。

 表情は切迫していた。おそらく部外者の自分を警戒しているのだろうと思い、ユアは咄嗟に謝った。


「ご、ごめんなさい! 今すぐ、ここを去りますから!」


「一人で動かないで! 一緒に来て下さい!」


「へ?」


 青年はあわてて、ユアの腕を引っ張って走り始めた。


◇


 連れて来られたのは小さな村。

 村を囲う柵やそれぞれの家は、丈夫な木で出来ていた。

 村民は皆、緑、茶色、青など自然を思わせる色を基調とした服を着ていた。


 村に着いた途端、青年は先ほどと打って変わり、態度が和らいだ。


「突然、すみません。もう大丈夫ですよ。この村にいれば、巨大虫(きょだいむし)に襲われることはありません」


「きょだいむし……?」


 初めて聞く言葉に、ユアは頭をひねった。


「やはり知りませんよね……。この緑界で五〇〇年に一度現れると言われている、異様な巨体の虫です。ここは”緑界”という自然に溢れた世界ですが、基本は虫と共存しています。でも、今話した巨大虫は、人間を襲って来ます。その巨大虫が最近、現れたそうなのです」


「は、はぁ……」


 事情を聞くと、ユアの脳裏に四人の仲間が思い浮かんだ。


 いつも誰かが困ると、フィトラグスやオプダットが率先して助けようとするが、今はどこにいるかわからない。

 特にフィトラグスは今、行動を共にしてくれるかは不確かだった。

 どちらにせよ、今はここを動けそうにはない。



 その時、長く伸ばした濃い緑色の髪に、緑色と黄緑色のドレスを身にまとった女性がやって来た。


「ご無沙汰しております、リーフ」


「り、緑王(りょくおう)様?!」


 リーフと飛ばれた青年は、目の前にいる緑界の王へ驚きの声を上げた後で、ひざまずいた。


「緑王……? 女性なのに王様?」


 ユアが目を丸くしているとリーフが「失礼だぞ!」とたしなめ、緑王へひざまずくよう促した。


「よいです、リーフ。彼女は異世界から来たのでしょう? 王であるわたくしを知らないのも、無理はありません」


 緑王はユアへ向かって優しく微笑むと、すぐに視線をリーフへ戻した。


「今日はあなたへ用があります。リーフ、例の件ですが……」


 緑王は真剣な眼差しで彼に話を持ち掛けた。

 リーフは視線を床に落としたまま、頭を上げようとしない。


「あなたの気持ちはわかります。ですが、この緑界を救うには、どうしても必要なのです」


「……いくら緑王様のご要望でも、これだけは……」


 両者とも、神妙な面持ちだった。

 この世界に来たばかりのユアは話が読めず、重々しい空気も流れていたので迂闊に聞くことも出来ない。


 明らかに二人共、困っていた。「こんな時、フィットたちがいたらな……」と思った。



 そこへ、黄緑色のショートヘアに緑系統の色の服を着た女性が息せき切ってやって来た。


「リーフ、大変よ!」


「ミドリ、緑王様がお越しだぞ!」


 リーフに指摘され、ミドリと呼ばれた女性は「り、緑王様……」と戸惑いの表情になった。


 緑王は、ミドリへ向かって会釈をした。

 だが、彼女に向けられた顔はユアの時とは違って、どこか悲し気だった。


「緊急事態のようですね。何かおありになったのですか?」


「あ、はい。ミントがいなくなってしまったのです!」


「何っ?!」


 ミドリの知らせで、リーフが声を上げた。

 そして緑王に背を向け、ミドリへ向き合った。


「ミントはずっと抱いてたんじゃなかったのか?!」


「お手洗いに行きたくなって、村人に預けている間に“巨大虫が出た”って知らせが来たの。みんなが逃げ出す時にその人、“ミントを置いて来た”って……」


 詳しく聞くと、彼とミドリは新婚の夫婦で半年前に娘のミントが生まれたばかり。


 その子を預かっていた者は巨大虫が出る前に「お母さんがすぐに戻るから」とミントを元の安全な場所に戻しており、巨大虫が出て避難する際に助けに戻ろうと考えたが、怖くて行けなかったそうだ。

 事情を知らないミドリはまっすぐ村へ帰って来てしまった。


「ミントは生後半年だぞ!!」


 父親のリーフも憤慨した。

 緑王も、新婚夫婦の間に出来た赤ん坊が心配になった。


「ミントちゃんの安否が心配です。リーフ、急いで下さい」


 リーフは返事をせず、急いで剣や防具の準備を始めた。


(みんながいないなら、私が何とかしないと……)


 ユアは急ぐ彼に合わせて、早口で話しかけた。


「い、今は、はぐれてますけど、私も仲間と一緒に来たんです。その人たちも戦えます!」


「どこにいるか、目星はついているんですか?」


 リーフは武具の準備のために、ユアを見ずに聞き返した。


「断定は出来ませんが、どこかで会えると思います。彼らも、この世界に来たばかりなので。私も一緒に行ってもいいですか?」


 明らかに戦えなさそうなユアが同行の意思を示すと、鎧を着けている最中のリーフが手を止め、怪訝な顔で彼女を見た。


「あ、足手まといは承知しています! でも私、他の異世界にも行ってたので、戦うことは出来ませんが、逃げることは出来ます。もし赤ちゃんを保護した後に敵が現れたら、私が抱いて逃げます」


 突然の提案にリーフは不安になり、思わずミドリを見た。


「逃げ慣れているなら、行ってもらったら? 私は足が遅いから……。ミントを抱いたまま、戦うのは危険だわ。」


 ミドリも危険を承知していたが、藁にもすがる思いでユアに希望を託していた。


「巨大虫は村の戦士にとっても、危険です。それでも行くんですか?」


 リーフが再びユアへ尋ねると、彼女は真剣な眼差しで深くうなずいた。


「……わかりました。その時はミントをお願いします」


 承諾を得たユアへ、ミドリが「ミントの好きなものだから」と薄いピンク色の液が入った哺乳瓶を手渡した。

 それは緑界で作られる「花のミルク」という赤子用の飲み物だった。


 ユアとリーフはミントを助けるため、村を出た。

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